遂にその日が
前期テストが無事終わり、その結果は……。
学年首位はローレンス、二位はヘイスティングス。
これはもう文句なしの結果だろう。
私は……真ん中あたり。
可もなく不可もなく。
アン王女は七位と、女子の中ではかなり頑張っている。
ポーラは私と近いぐらいで、ガイルはそのポーラの後を追いかける順位。
ガイルは赤点を取るかもと思われていたが、その順位で済んだのは……。
まさにポーラのおかげ。
ガイルは早朝は騎士見習いの訓練、放課後はダンスの練習に加え、ポーラからテスト対策の指導を受けたのだ。その結果、ガイルの学力はうんと向上していた。
アン王女とヘイスティングスも似たような状況だった。デビュタントのパートナーとして練習を重ね、テスト勉強も一緒にしていた。
ローレンスと私も……必然的にそうなっている。
「ローゼン公爵令嬢。ダンスの練習はここまでにして、今日は文学の宿題を一緒にやりませんか? 朗読倶楽部に所属しているだけあり、ローゼン公爵令嬢は文学が得意ですよね。いろいろ教えていただきたいのです」
こんな風にローレンスに言われたら、「分かりました」以外の言葉が浮かばない。それに文系科目が得意でも、理数系が苦手な私は、ローレンスから教えてもらうことも多く……。
正直、学院に入り、勉強の難易度はかなり上がっている。それでもテストで赤点がなかったのは……ローレンスのおかげと言ってもいい。
こうして前期テストを乗り越え、遂にデビュタントの日がやって来る。
それは金曜日の夕方からの開催で、土曜日は休校だった。
金曜日は普通に授業を終え、一旦帰宅。
ドレスに着替え、再び学院に向かうことになるが、この際パターンは二つ。
学院でパートナーと落ち合う。
パートナーが屋敷まで迎えに来る。
ローレンスは……。
「勿論、迎えに行くよ。帰りも屋敷まで送る。君のパートナーを完璧に務めてみせるよ」
ということで我が家に王太子がやって来ることになった。
その決定を受け、両親は最善を尽くした。
正門からエントランスまで、ゴミ一つない状態にし、庭園の手入れも念入りにするよう庭師に命じる。
エントランスの彫像も綺麗に磨き上げられ、あちこちの煤払いも行われた。
当日は留守番なのに、両親は正装している。
父親はテールコート、母親はパープルのイブニングドレス。
使用人の衣装も新調され、万全の体制でローレンスを迎えようとしているが……。
あくまでデビュタントに向かうのだ。
我が家のエントランスの滞在時間なんて五分足らずだと思う。
それに過去にアン王女が屋敷に迎えに来てくれた時も、ここまでしなかったのに。
思わずそこを尋ねると……。
「アン王女が屋敷に迎えに来てくれたのとは、意味合いが違うんだよ、ティアナ。それに王太子殿下の訪問は、今後もある気がしている。だからこの一度のためだけの準備ではないんだ」
父親の目がゴゴゴゴと燃えていた。
一方の私は美しく仕上がった純白のドレスに袖を通し、ローレンスから贈られたイヤリングをつけ、待機となる。
「王太子殿下、エントランスを通過されました」
従者の知らせにエントランスホールを出て、両親と共にエントランスへ向かう。
使用人も後へ続き、ズラリと並んでお迎え体制は完了。
仰々しく、やり過ぎだと思う。
しかし両親は至って真剣なので、何も言えない。
そんな臨戦態勢の我が家のエントランスに降り立ったローレンスは……。
テールコートはナイトスカイを思わせる光沢のある黒で、タイには私のイヤリングとお揃いの碧い宝石の飾り。金髪のサラサラの前髪は分け目を変え、左側は後ろに流していた。形の整った眉が見え、知的な雰囲気が増している。
輝くような碧い瞳を細め、浮かべた笑顔は国宝級。
母親がため息をつくが、父親まで息を呑んで見惚れていた。
そんな両親にローレンスは、大変礼儀正しく挨拶し、私をエスコートできる喜びを伝える。両親はその言葉に感動し、ハンカチで目元を抑えた。
「ではローゼン公爵令嬢、馬車へどうぞ」
白手袋をつけた手を差し出したローレンスは、もう非の打ち所がない完璧さ。
馬車は黄金仕立てで、王家の紋章がバッチリ見えている。
さらに白馬の馬具も、黄金が使われていた。
当然だが、馬車の前後には、護衛の騎士もついている。
こうなるとやり過ぎに思えた我が家のお出迎えも、そこまでして当然と思えるのだから……。
不思議だった。
「それでは王太子殿下、娘をよろしくお願いいたします」
「二人とも、気を付けていってらっしゃい」
両親に見送られ、馬車が動き出す。
いつも通り、王家の馬車は座り心地、乗り心地、共に完璧。
しかも飲み物が用意されており、同乗している従者が手早く用意してくれる。
我が家の侍女もそれを手伝う。
こうしてローレンスの完璧な采配の元、馬車は学院に向け、走り出した。






















































