何かがある……!
「ティアナ。そのローズ色のドレス、あなたの可愛らしさにピッタリで、と~っても素敵よ。編み込みでまとめた髪も完璧ね。レースの扇子もばっちり。ハンカチも持ったわね」
「緊張する必要はないんだよ、ティアナ。いつも通りの笑顔でいれば、問題ないはずだ」
土曜日、昼食の後。
私はローレンスのお茶会へ向かうため準備を整えた。
王太子からのお茶会の招待。
しかもそのお茶会、アン王女は参加しない。
というかお茶会をローレンスがすることを知らなかった。
つまりポーラもガイルもヘイスティングスも。
招待されていない可能性が高い。
つまり。
今日のお茶会は、ローレンスと私の一対一。
その可能性が高かった。
王太子からのお茶会の招待。しかも正式なもの。
両親へ報告しないわけにはいかない。
ということで話した結果。
両親は……期待している。
王太子と二人きりのお茶会。
これまでの、いつもの学友達とのお茶会とは違うのだ。
何かが。
何かがあるのではないかと。
その一方で私は……戦々恐々だ。
両親が期待するようなことはないと思う。
いきなりは!
でも何かがあるかもしれない。
何かがあると思うと……。
バッドエンディングに大きく近づくことになる。
お茶会の招待を断りたい……と思った。
だが過去の経緯がある。
断っても参加するまで、招待状を渡される……と思うのだ。
なのでここは潔く招待に応じ、ローレンスの真意を探るしかない。
意を決し、屋敷を出ることになった。
◇
「お嬢様、殿下がいらっしゃいます!」
「!」
宮殿のエントランスに馬車で到着した。
するとそのエントランスにローレンスがいる!
制服から一転、爽やかな空色のセットアップを着ている。
自身の瞳の色を思わせるその装いは彼によく似合っていた。
「ローゼン公爵令嬢。今日は招待に応じてくれて、ありがとう」
ローレンスはそう言うと、優雅にお辞儀をし、私が馬車から降りるのを手伝ってくれる。
「ありがとうございます、殿下。わざわざエントランスまで迎えに来てくださるなんて」
「僕が招待したということもあるし、早くローゼン公爵令嬢に会いたかったから」
そう言ってごくごく自然にウィンクする。
ま、眩しい……。
自然にこの動作ができるなんて。
さすが王太子。
「では行こうか」
ローレンスは私の手を取り、優雅にエスコートして歩き出す。
「ローゼン公爵令嬢お気に入りのレモンのメレンゲパイ。用意してあるよ。チェリーケーキもある」
「それは……ありがとうございます」
エントランスまでわざわざ迎えに来て、私の好きなスイーツを用意したと言われた。
それは……どう考えても私を特別扱いしているように思える。
しかも……!
新緑のこの季節。
お茶会の席は室内ではなく、パーゴラの下に用意されていた。
白いテーブルクロスが敷かれ、そこにはローレンスが言っていた通り、レモンのメレンゲパイ、チェリーケーキ、色とりどりのマカロン、ババロア、焼き菓子、チョコレートなどそれはもうこれでもかというスイーツが並べられている。
これは二人のお茶会の域を超えていると思う。
さらに。
「バタフライピーのハーブティーを用意したんだ。これは目でも楽しめる飲み物だよ」
まるでローレンス自身の瞳のような、美しい碧い色のハーブティーを出してもらった。
「そんなに強い癖ではないと思う。でも蜂蜜を入れると、まろやかになる」
言われるままに蜂蜜を入れて飲むと、普通に飲みやすい。
何より本当に美しい碧い色をしている。
一瞬、ローレンスと二人のお茶会であることを忘れるが……。
「レモンを入れると、色も変わるんだ」
そう言うとローレンスが、私が飲むティーカップにレモンを絞ってくれたのだ!
手ずからでこんなことをされると、もうビックリ!
恐れ多いし、やはり何かあるのでは!?と構えてしまう。
「ほら、見てください。ローゼン公爵令嬢」
「あっ……」
先程までの碧い色から一転、今度は鮮やかな紫色に変わっている。
「綺麗……」
「碧い色、紫色、どっちの色がローゼン公爵令嬢は好きかな?」
「それは碧い色です!」
「へえ、それはどうして?」
どうして。
それは……。
ローレンスの碧い瞳。
彼の碧い瞳は本当に美しく、余計なしがらみがなければ、ずっと眺めていたいと思うものだった。
初めて彼に会い、その瞳を見てから、ずっと。
碧い色が好きになっていた。
でも言えるわけがない。
「そうですね。爽やかな色なので気に入っています」
「ではこっちだね」
「……?」
すっとローレンスが小さな箱を私の前に置いた。
碧い箱に白いリボン。
「これは……」
「ちょっとした贈り物。開けてみて」
箱のサイズ的にいろいろ考えてしまう。
だが贈り物は受け取ったらその場で開封し、喜びの気持ちを伝えるのがマナー。
「ありがとうございます」と受け取り、リボンをシュルッとほどく。
カパッと蓋を開けると……。