やはりこのメンバーで……
王立ハウゼン高等学院の制服。
女生徒は明るいグレーのボレロに、ハイウエストのリボンど同色のワンピース。胸元には黒のシルクのリボンに校章のカメオ。一方の男子は……。
白のシャツに明るいグレーのブレザー、濃紺のタイを飾るのは、校章のタイピン。ズボンはタイと同色というものだけど――。
か、カッコいい……。
制服を着たローレンスは、まるで外国人モデルのようだ。
男性を寄せ付けまいとしても、どうしたって視界に入ってしまう。
「ローゼン公爵令嬢は、妹と同じ制服姿なのに。とても大人っぽく感じるな。とてもよく似合っているね」
隣に座るローレンスが、ニコニコと微笑む。
私はストレートな褒め言葉に口をパクパクさせ、アン王女は……。
「お兄様、どうしてローゼン公爵令嬢は、私の隣の席ではないのですか!?」
「それは仕方ないよ、アン。王立ハウゼン高等学院は、共学なんだ。男女の生徒が正しく社交できるよう、席は学院が定めた男女の隣同士で、着席することになっている」
ローレンスは淀みなく、そう話し始める。さらに。
「家柄や成績などを加味した上で、座席は決められたと聞いているよ。晩餐会でも、男女が隣り合うようにして、着席するだろう? 今のこの座席。それはスマートな男女での会話を身に着けるための、教育の一環でもあるのだよ」
そのアン王女の隣の席に座るのは、ヘイスティングス。
知的なイメージの強いヘイスティングスの制服姿、それすなわちザ・優等生だ。
そのヘイスティングスとアン王女は、ローレンスと私が座る席の前に並んで着席している。そしてローレンスの後ろの席にガイル。
ガイルは早速制服を着崩し、シャツのボタンを一つはずし、タイも緩めている。
ブレザーの袖もシャツと一緒にまくりあげているが、これは動きやすいようにしているらしい。
そのガイルの隣には、初めましてとなるポーラ・ドリュー子爵令嬢が座っている。
ポーラは、オレンジブラウンの髪にべっ甲のフレームのメガネ、瞳の色はヘーゼル色。小柄で、少しふくよかで……男性慣れしていないのか。隣に座り、伸びをするガイルを見て顔を赤くし、少しおどおどしていた。
ホールで入学式の後、早速、教室……1年A組へ移動となった。
教室の入口の扉には、座席表が貼られており、席を確認した結果。
私はローレンスの隣の席だったわけだ。
そして間もなくホームルームが始まる。
始業のベルが鳴った。
◇
午前中は授業ではなく、自己紹介や委員を決めたりで終了。
ランチタイムとなる。
「ローゼン公爵令嬢、カフェテリアに行きましょう!」
アン王女が私の腕に自分の腕を絡み付ける。
当然だが、ローレンス達も席を立ち、カフェテリアへ移動。
もはや学校生活、この五人で行動が基本だろう。
これまではアン王女から招待状や手紙が来て、会うことになっていた。
よって毎日顔を合わせていたわけではない。
でもここは学校。
学校は規則正しく毎日あるのだ。
しかも隣の席はローレンス。
授業中も一緒、昼休みも一緒となると……。
「!」
ガイルの隣の席に座っていた子爵令嬢、ポーラ。
皆が昼休みということで立ち上がり、声を掛け合う中、席で俯いたまま。
五人より六人でいる方が。
女子率が高まれば。
男性三人との接点も減る気がする!
という打算的な考えも浮かんだが。
ふと思い出していた。
進級する度に、クラス替えがあった前世での小学校時代。
ちゃんと友達ができるか。
不安だった。
クラスの中心にいるようなキラキラ女子じゃなかったから。
今、俯いているポーラは、前世での私に似ている。
「ドリュー子爵令嬢、良かったら私達と一緒にランチに行きませんか?」
「!」
私に声を掛けられたポーラは、驚きで目が泳ぐ。
王女と王太子、騎士団長と宰相の息子。
そして公爵令嬢の私から突然声をかけられたら、ビックリだろう。
「カフェテリアのランチには、ミニデザートがつくそうです。入学式の今日は、ノワールのマカロンなのだとか」
「ほ、本当ですか!」
ポーラが席から立ち上がる。
王家も支援している学院。ゆえに王室御用達のスイーツ店のお菓子が、カフェテリアにも登場するのだ。
席から立ったポーラは、ちらっとアン王女を見る。
ノワールのマカロンに心惹かれるが、自分が同席していいのか。
まだ迷いがあるようだ。
するとアン王女も声を掛けてくれる。
「ガイルの隣の席なんて。ドリュー子爵令嬢、ガイルは自分の興味のない勉強の時間は、平気で居眠りをするんです。そこはびしっと背中を叩き、起こしてくださいね。あと教科書を忘れるなんてことも日常的にしますし、それに……続きはカフェテリアで一緒にランチを食べながら話しましょう!」
これを聞いたポーラはうるっとした後、でも「はいっ!」と元気よくこちらへやって来る。
王立ハウゼン高等学院に入学し、この日、女の子の友達が一人増えた!