めでたし、めでたし?
キャラメルブロンドの髪は、ハーフアップにしてピンクのリボンで留める。
明るいグレーのボレロに、ハイウエストのリボンと同色のワンピース。
胸元には、黒のシルクのリボンに校章のカメオ。
王立ハウゼン高等学院の制服の仕立てが終わり、屋敷に届けられ、試着したところだった。
「まあ、ティアナ! とてもよく似合っているわ」
「うん。さすが我が娘。制服なのに実に優雅に感じる」
両親が絶賛してくれるが、私も同じ気持ち。
赤ん坊で前世記憶持ちの転生者として覚醒したものの。
ティアナ・ローゼンがどんな女性へと成長するのか。
それは未知数だった。
だって。
闇落ちするラスボス、殺戮の天使アレクシスの母親という文字情報はあっても、ビジュアル情報はゼロだったから! だがアレクシスは攻略対象並みにカッコいいキャラクターだった。その母親であるティアナもきっと素敵であるに違いない……!
そう信じて成長した結果。
現在十五歳のティアナであるが、すらりとした首や手足に反し、バストは成熟した大人の女性そのもの。しっかり谷間もできる。ウエストは、ほっそり。ヒップはプルンと上向き。正直、何を着ても映える。
ルビーのようなくりっとした瞳、鼻と口はちょこんと小さく、頬はほんのりローズ色。肌艶もよく、小顔。キャラメルブロンドの髪は、根元はさらさら、毛先に向けて緩やかにウェーブ。
自分で言うのもなんだが、ティアナは……実に愛らしいと思う!
ティアナがこんなに可愛く成長したのだ。
アン王女とローレンス、ガイル、ヘイスティングスも、大変素晴らしい成長を遂げている。
幼少期のアン王女は、波打つ様なブロンドに碧眼、シルクのような肌を持ち、その時点でもうプリンセスだった。現在十五歳になったアン王女は、その頃の美しさそのままに成長している。ただ本人は……。
「もう少し胸が……私もローゼン公爵令嬢ぐらい胸があるといいのですけど」
そんなことを言っているが、問題ないと思う。
そしてアン王女の兄であるローレンス・ジョセフ・ハウゼン。
サラサラの光り輝くような金髪ブロンド。
通った鼻筋と澄み渡る青空のような碧い瞳。
形のいい唇に透明感のある肌。
その優しい性格が表出したような柔らかい微笑み。
文武両道、温厚篤実、容姿端麗。
三拍子揃ったこの国の王太子として、見事に成長している。
騎士団長の息子であり、侯爵家の嫡男ガイル・オルソンは、幼少時代そのままの明るい性格で、十五歳の春を迎えていた。ただ、その体はもう立派な騎士。健康的な肌に、鍛えられた体躯で、やはり運動神経は抜群だ。
宰相の息子で、伯爵家の次男ヘイスティングス・ウォーカー。知的な顔立ちに加え、成長と共により落ち着いた表情をするようになった。さらに頭脳明晰であり、入学時の学業評価では、ほんのわずか、ローレンスを上回ったとか。
みんな本当に、この世界に相応しい紳士淑女になった。
めでたし、めでたし。
ではない!
男性を寄せ付けずに生きると決めたのに、結局、こうなっている。
つまり闇落ちするアレクシスの父親候補と共に、成長してしまったのだ……!
ティアナが婚約するのは十八歳。
つまり在学中か卒業してすぐに婚約することになる。婚約と同時に結婚式に向け動き出すはず。二十歳で出産なら、十九歳で結婚している。
もう大ピンチな状況。しかも言うまでもない。王立ハウゼン高等学院には私以外、アン王女もローレンス、ガイル、ヘイスティングスも入学が決まっているのだ……!
そうなってしまう理由は簡単。
王立ハウゼン高等学院なのだ。創設者は王家。アン王女と王太子であるローレンスが入学するのは、ごくごく自然な流れ。そしてヘイスティングスは、ローレンスの学友であり、ガイルは王太子である彼の護衛も兼ねているのだ。これまた王立ハウゼン高等学院へ入学して当然。
では私は?
本来、王立ハウゼン高等学院への入学は、選抜試験を突破し、親子面接をクリアし、財力などを厳しく審査された上で許可される。だが私、ティアナは、アン王女の学友として認定されていた。
つまり試験も面接も審査もなく「ご入学ください」と手続き書類が届けられたのだ。
こんな栄誉に対し、「いえ、お断りします」なんてあり得ない。
それに「王立ハウゼン高等学院は、エリート教育を行う学校です。学業についていく自信がないです!」なんて言った日には家庭教師が増員された。何を言っても入学阻止できる状況ではなかったのだ!
ならば仮病で――と思ったら「もし入学までに病気になっても安心するといい。宮廷医を派遣してくれるそうだ」と父親に先に牽制された。宮廷医相手に仮病では……誤魔化せない。
「お父様。知っての通り、私は男性が苦手です。共学より、女学校に入学したいのですが」
「大丈夫だよ、ティアナ。王女、殿下、そしてオルソン殿、ウォーカー殿と同じクラスだ。彼らと一緒にいる限り、男子生徒は迂闊にティアナには近づかないよ。頼めば男子生徒はこの三名のみで、残りのクラスメイトは、全員女生徒にもできると思うが……」
疑似女子高状態を作り出せると、父親は言うのですが!
そんな令嬢の巣窟に、ローレンス、ガイル、ヘイスティングスという注目の男子三人だけだったら……。大変なことになる。
つまり男性苦手作戦もダメだ。
ならば家出、失踪、なんなら攫ってもらうことも考えたが……。
そこは父親も先読みしているのか。
監視の目が厳しくなり、貯金は迂闊に引き出せなくなり、外出には侍女以外に護衛名目の騎士が三名も増員された。
もはや学院に入学する流れは変えられない……!
そう悟ることになる。
そして遂に入学式の日を迎えてしまう――。