始まり
サラサラの光り輝くような金髪。
通った鼻筋と澄み渡る青空のような碧い瞳。
形のいい唇に透明感のある肌。
その優しい性格が表出したような柔らかい微笑み。
文武両道、温厚篤実、容姿端麗。
三拍子揃ったこの国の王太子、ローレンス・ジョセフ・ハウゼン。
少し癖のある短髪のダークブロンド。
高い鼻にオニキスのような黒い瞳。
血色のいい唇に日焼けした健康的な肌。
明るい性格そのままの朗らかな笑顔。
鍛えられた体躯で、見るからに漢だが、実はロマンス小説が大好き。
騎士団長の息子であり、侯爵家の嫡男ガイル・オルソン。
緑がかったブロンド――アッシュブロンドの長い髪。
スクエアタイプのメガネの奥には、エメラルドグリーンの瞳。
知的な顔立ちに落ち着いた表情。
頭脳明晰で、見るからに優等生タイプ。
宰相の息子で、伯爵家の次男ヘイスティングス・ウォーカー。
ハウゼン王国の社交界で、今、最も旬な三人のこの令息。
全員十五歳、まさに花盛りだ。
そんな彼らは私、ティアナ・ローゼン公爵令嬢の幼なじみであり、将来闇落ちする息子の父親候補の三人だった。
◇
将来闇落ちする息子。
彼は村や町を燃やし、老若男女関係なく、無差別で大勢の命を無慈悲に奪う。
まさに死の天使だ。
どうして未来のことが分かるのか。
なぜならこの世界は、私がプレイしていた乙女ゲームの世界だから。
乙女ゲーム。
その名も『恋乙女~やんごとなきご令嬢の秘めた恋~』(通称、恋乙女)は、中世風の世界で、王子や騎士などの素敵男子を攻略する女子向けのスマホゲームだ。
ヘビーに課金していたこの乙女ゲームの世界に、気付けば私は転生していた。
通勤電車で、恋乙女の推しからのメッセージを見て、ニマニマしていたはずなのに。転生していたということは。何か事故にでも巻き込まれたのかもしれない。でもとにかく、目覚めたら私は赤ん坊。しかもカタカナの名前で呼ばれ、両親は茶色の髪にピンク色の瞳をしていることで、どうやらここはアニメやゲームの世界では!?と思ったのだけど……。
まさか恋乙女の世界に転生していたとは!
しかも私が転生したのは、主人公ではない。
恋乙女はストーリーの9割が学校生活を舞台にした恋愛話。だがこのゲームを作った会社は、そもそも男性向けのバトルアクションゲームで知られていた。だからなのか。最後の最後で国を滅ぼそうとするラスボスが登場し、それをヒロインは攻略対象のメンズと共に倒すことで、好感度がダメ押しのように急上昇。その盛り上がりのまま告白をすると、見事クリア=ハッピーエンドとなるのだけど……。
この、ラスボス、つまりは闇落ちして国を滅ぼし、殺戮の限りを尽くすメンズ。
そのメンズの母親こそが、私が転生したティアナ・ローゼンだったのだ……!
闇落ちしたラスボスなのに、攻略対象並みにカッコいい……とは思ったものの。
闇落ちせず、普通に攻略対象になってくれればいいのに!と思いはしたものの!
まさかその彼の母親に転生するなんて!
しかもティアナはその闇落ちする息子を出産し、命を落としている。
つまり。
自分が大好きでプレイしていた恋乙女の世界に転生していたのに!
ヒロインや攻略対象と絡むことなく、ただただ殺戮の天使となる息子を産んで、ゲーム世界から消え去る公爵令嬢に転生していたのだ、私は!
しかも二十歳で出産しており、婚約は十八歳の時にしている。
そんな若さで闇落ちしてラスボス化する息子を産んで死亡だなんて……!
そんなバッドエンド、ご免である。
できることなら回避したい。
それに正直、そんな人生では転生した意味がないっ!
そもそも。
乙女ゲームなのに。
なぜラスボス討伐が、最後の最後に割り込んでくるのか。
いらんイベントだと思います!
そんなものがなくても、普通に学園生活の中で攻略対象の好感度を上げ、卒業舞踏会で告白してゲームクリアでいいと思う。そしてそれで成立する状況なのに、ねじこまれていたラスボス討伐イベント。
なしでもいいと思う。なくてもヒロインは攻略対象を攻略できる。絶対に。それはゲームをプレイしていても感じていたことだ。
結論。
私はせっかくこの恋乙女の世界に転生したのだ。
よって二十歳で死にたくない。
生きたい。
それは人間の生存本能として、至極当然なことだと思う。
ではどうすればいいのか。
ラスボスになる、すなわち闇落ちして殺戮の天使となる息子を産まなければいいのだ。そして子供というのは相手があって授かるもの。
つまり。
闇落ちする息子の父親となる男性と、そもそも結婚しなければいいのだ!
ということに早々に気が付いたものの。
ティアナが誰と結婚したのか。
殺戮の天使の息子の父親が誰なのか。
それが分からないのだ……!
そもそも闇落ちする息子……その名もアレクシスの情報は、ほとんどなかった。
何せ終盤にぽっと出てくるだけ。
ビジュアルはすこぶるいいが、プロフ情報が少なすぎる!
しかも乙女ゲームだから、討伐難易度は高くない。
割とあっさりやられ、ならば登場する必要はなかったのでは……という扱いなのだ。
こうなったら男性を寄せ付けずに生きるしかない。
独身街道をひた走るしかない。
そう、赤ん坊の私は心に誓うのだが――。
お読みいただきありがとうございます!
完結まで執筆済。
最後まで、物語をお楽しみくださいませ☆彡
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