7年後の世界
ディラストル大陸、辺境の街スラム・インプール
職を失った冒険者、薬物中毒のイカれ野郎、人から迫害を受けた亜人族。死場所を求めた者が最後に辿りつく薄暗く、陰湿な街。
アンドリューは相棒であるゴブリンと共にこの街に滞在していた。村を経ち旅を始めた時から既に7年が経過していた。
インプールの街中はいつも通り、汚くて臭くて淀んだ空気に満ちていた。かつては街を照らしていたであろう街灯も役割を果たせない物が大半だ。
インプールではほとんどの住民が死んだように動かないか死んでいる。なのでコツコツとした2人分の足音は、街を彩る僅かなbgmだった。
倒れていた男がbgmの音色にゆっくりと体を起こす
「よぉアンブラ、今日も爺さんのパシリか」
「あぁ、今回はジーワスプの目玉をご所望だったよ」
男はつまらなそうに笑った。
「飽きねぇなぁ、あのクソジジイ」
「ほんとにな」
「ほどほどにしろと伝えておいてくれ、あとこの前のこと感謝してる。ともな」
「あぁ」
男はしみじみと続ける。
「へっ、お前もセイバーもすっかりこの街に慣れた」
「そうだな」
「お前らに会えて良かったよ、本当に」
「あぁ、僕もだ」
「ワタシもゴンダスがダイスキだよ」
「へっそうかよ」
ゴンダスと呼ばれた男は照れ臭そうに「早く行け」と2人を追いやった。かつてアンドリューと呼ばれた少年は「アンブラ」と名を変えていた。
アンブラの側にはフードを深く被った男が一人。
「セイバー」と名乗るその男は、かつてアンドリューが助けたゴブリンだ。
アンドリューはゴブリンに自分が好きだった御伽話の主人公「セイバー」という名をつけた。
ゴブリンはアンドリューに元の名前によく似た「アンブラ」という名をつけた。
アンブラとセイバーは4年前インプールを訪れてから、年老いた魔法使いの世話になっていた。
魔法使いはアンブラたちに住む場所を与え、アンブラたちは魔法使いからの頼みを聞いていた。
頼みの内容は魔物の素材収集、時折訪れる来客への対応、街の設備修復など様々だ。
アンブラはジーワスプの目玉が入った麻袋を振り回しながら魔法使いの家に入った。
「戻ったよ、じい」
「コンカイはイツにもましてタイヘンでした…」
散らかったカウンターの中、ギシギシと軋む大椅子がゆっくりと回転する。大椅子には煙草臭いローブを纏う痩せこけた魔法使いが座っていて
「遅かったねアンブラ、セイバー。今コーヒーを淹れよう」
と微笑んだ。