初陣 その4 -帰還-
前哨戦を無事に潜り抜けたシンたち第2小隊に、行方不明となっている第3小隊捜索の命令が下った。再び戦場へ向かう第2小隊。第2ステージが始まる。
中尉からの返信が無い。大規模な通信妨害が行われているせいだ。モガミと連絡をとる。「ブリッジへ。こちら第2小隊。他の隊と連絡が取れません。現状を知らせてください。」「・・・第1小隊に損害が出ているが、中尉は無事だ。第3小隊とはこちらも連絡が取れない。」「・・・了解しました。第2小隊はこれより補給のため帰還します。誘導を願います。」「了解。モガミ4。コードを送る。」
母艦であるモガミに着艦するためには誘導コードが必要である。母艦を間違えたり、敵機と誤認されたりしないための措置である。通信の状態が劣悪だし、押され気味に見えるが、誘導コードが送られて来たのだから、モガミは今のところ着艦出来る状態なのだろう。
雄々しく主砲を振りかざし、交互撃ちをする戦闘艦群を横目に母艦モガミを目指す。「ブリッジへ。ルナから着艦します。モガミ5、あなたから着艦して。」「了解。モガミ5着艦します」こう言う時、指揮官は最後まで警戒のため着艦しない。明文化はされていないが、複葉機時代からの伝統だ。クリス少尉は部下2人が着艦する様子を見守る。
旧世紀のパイロットたちは航空母艦への着艦を「コントロールされた墜落」と評していたそうだ。AIの発達した今世紀ではそのような難しさは無いが、戦闘行動中の母艦への着艦は、やはり緊張感がある。誘導コードを送り、着艦軌道に乗せる。
モニターが着艦軌道に乗った事を告げる。オートで着艦フックをワイヤーに引っ掛けるとガクンと言う強めの衝撃が伝わる。着艦成功。「モガミ5ルナ、着艦しました」「モガミ6着艦しました」「了解。ブリッジへ。モガミ4ジュピター、着艦します。」
部下の着艦を見届け、周囲を確認しつつクリス少尉も着艦体勢に入る。ジュピターは露天ではなく、格納庫へ向かうのだ。「ブリッジよりモガミ第2小隊へ。機体の整備の間、ブリーフィングルームへ行ってくれ」「モガミ4了解」「6了解」「・・・モガミ5了解」
ベルトを外し、ヘルメットのモニターでバイタルその他のセルフチェックをしていると、作業員からの連絡が入る。「オッケーです。開けてください。」ハッチが開く。「お帰りなさい!」「ただいま戻りました。」作業員さんに答礼を返しながら、外に出る。真面目そうな人だな。
「残弾ゼロです。それと、被弾はしてないけど、アームが傷んでいるかもしれません。チェックをお願いします。」「了解であります!」
艦内の通路でヘルメットを脱ぐ。気が緩みそうになるが、まだ戦闘中なのだ。気を引き締めてブリーフィングルームへ向かう。リフトに掴まって移動していると少尉から声を掛けられる。少尉はヘルメットを手に持ち、硬い表情のままだ。その表情も素晴らしいです!
ブリーフィングルームにはすでにウィルが居た。部屋には軽食と飲み物が置いてあるのだが、もう食べ散らかしている。「少尉殿、先に頂いてます!」食べるか喋るかどっちかにしろよ。
腰を落ち着け、取り合えず水分を口にする。こういう時、飲むのはポ〇リと決めている。ア〇エ〇よりは絶対にこっちだ。あー、生き返る。ふと隣を見ると少尉はやっぱり紅茶だ。パックの紅茶を飲む姿も美しいです!
しばらくするとブラントン中尉が入室してきた。反射的に立ち上がり、敬礼する3人に対し、ブラントン中尉が口を開く。
「3人とも、無事か。良かった。第1小隊が帰って来れたのはお前たちのおかげだ。礼を言う。それにしてもダイナモ相手によくやったな。」中隊長自ら褒めてもらえた。単純に嬉しい。
「かなりの手練れでした。撃退出来たのは部下たちのおかげです。」少尉にそう言っていただけるだけで幸せです!「いやあ、それほどでもありませんよぉ!」おい、ウィル調子に乗んなよ。
少しの間、苦笑いをしていた中尉が表情を改める。「第3小隊と連絡が取れない。ロストしたかは分からん。電波が悪すぎる。補給を受けたら直ぐに出撃する。連絡があるまではここで身体を休めておけ。」
中尉がブリッジへ向かっている間、しばしの休憩だ。たとえ短い時間であっても、リクライニングシートを倒し、パイロットスーツを緩め、身体を楽にさせることが肝心なのだ。目をつぶっていると冷たいものが顔に乗せられた。おしぼりか。ウィル、気が利くじゃんと思ったら少尉だった。
「ありがとうございます!」飛び起きようとする私を制し、クリス少尉が微笑んでくれる。「さっきはありがとう。助けられちゃったね。」「当然です。僕らはチームなんですから!」「ウィルもありがとう。」ウィル、セリフを取らないで?すぐに私も少尉に話しかける。
「少尉殿、次の戦闘はさらに厳しさを増すと思います。でも、絶対に3人で生きて帰りましょうよ。絶対に、です。」少尉に想いを伝えないままなんて死んでも死に切れん。
「分かった。絶対に、ね。約束よ。よし、そろそろ時間かな。」
「第1、第2小隊へ。整備終了。直ちに出撃せよ。」「「「了解!」」」
さあ、セカンドステージの始まりだ。
炭酸抜きコー〇と悩みました。