初陣 その3 -龍尾返し-
シン「『丸い棺桶』とは言わせないぞ!絶対に生き延びてやる!」
ウィル「俺、この戦いが終わったら・・・以下略」
ウィルと素早く二手に分かれる。その瞬間、ジークの放った弾が掠めた。再び距離を取ろうと後退する。相手も二手に分かれて追撃してきた。タイマン勝負では機体の性能差は明らかだ。
ルナはジュピターの援護を主目的にした機体であり、HCGと直接闘う事は想定されていない。と言うか直接対決は避けるように指導されている。後退しながらバルカン砲をばら撒くが、残弾数が心もとない。主砲弾もあと半分。何とかしなければとは思うものの、奥の手は本当のピンチまで取って置きたい。
ジークの放つ120mm弾を8の字回避運動でかわし、後退を続ける。「ウィル、まだ行けるか?」「当た坊よ!」ウィルも弾をかわすのが精いっぱいのようだ。親友の強がりを聞きながら次の手を考える。焦りは禁物。クリス少尉に通信を入れる。
「少尉殿、1機落としました。残り2機と1対1です」「了解・・・今、切ったわ。援護に向かうからもう少し頑張って!」うん、さすがです。クリス少尉は剣術を得意にしているからなぁ。ジークを切り裂いた、その瞬間を見たかった。
視界を全方位モードにし、素早く自機を180度反転させ、加速する。相手からすれば私が尻尾を巻いて逃げ出したように見えただろう。ジークも加速して追い縋る。掛かった。ジークには固定武装が無い。弾を撃ちながらの追撃には向いていないのだ。弾幕が途切れた所で回避運動を止め、直進する。今、ジークのパイロットは口角を上げている事だろう。
下部のバーニアを全開にすると同時に自機を縦に360度回転させる。ジークの120mm弾が空を切る。この機動を予測出来なかったジークのパイロットにはルナが忽然と消えたように見えただろう。
「敵機が消えたら動け」の鉄則を失念し、棒立ちのジークを照準中央に捉えると同時に主砲を叩き込む。ほぼ同時に緑色の閃光がジークを貫き、爆散した。「間に合ったな!」ブラントン中尉の野太い声が響く。え、今のは私の撃墜スコアでは・・・?
「シン、無事だったか!」「モガミ5、無事?」ウィルとクリス少尉から通信が入る。・・・これって、逃げ回ってた所を助けてもらった的な感じなの?
今のは旧世紀のタイプゼロが得意にしていたと言う「ひねりこみ機動」を縦方向にアレンジした技なんだよ?名付けて「龍尾返し」。助けはいらなかったよ?たぶん。
「第3小隊より。レムリア級2隻とHCG多数と接敵中。8番機をロスト。」シュトローマー少尉から通信が入る。新手だ。「モガミ2より。接敵しました!長くは保ちません!」プラット機とウイットニー機も苦戦しているようだ。
「すぐに行く。第2小隊付いてこい!」ブラントン中尉は言うが早いかフルスピードで救援に向かう。慌てて追随する第2小隊。
前方では赤紫色の閃光が何条も煌めいている。巡洋艦の主砲だ。その中を光の筋が複雑に、絡み合うように動き回るのが見える。その時、一際目立つ爆炎が上がった。今のがジークでありますように・・・!
あの中に突っ込むのかよ・・・、と思う間もなくブラントン中尉機は光線剣を構え、カービンを乱射しながら突入していく。第2小隊も後に続くが少し間が開いてしまった。「中尉、すげえ」ウィル、見惚れてる場合じゃないぞ?
「敵機!3時の方向!」クリス少尉が叫ぶ。同じ手を2度も食うか!予め機体を90度傾けて直進していた私とウィルが敵影目掛けて主砲を放つ。直撃だったらしく、爆炎が上がるが1つだけ。どっちの戦果か確認する間もなく、側を掠めるずんぐりとした機影。すぐに振り向き、新手のHCG2機と相対する。あれは「ダイナモ」ではないか?実物を見るのは初めてだ。ジークよりも重装甲でパワフル。デカいバズーカを抱えており、突進力に優れる厄介な重HCGだ。
「第2小隊、ダイナモ2機を排除します」焦燥感を振り払うようにクリス少尉が宣言する。「私に付いてきて!」クリス少尉機がカービンを乱射しながら2機のダイナモに突進する。光線剣は抜いていない。私とウィルは逆V字のまま付いていく。
ダイナモのバズーカは脅威だが、連射は出来ない。手数ではこちらが有利なのだ。ダイナモは2手に分かれてやり過ごそうとするが、ジュピターへの警戒に集中し過ぎて我々ルナへの警戒が疎かになったのだろう、バズーカを構え、クリス少尉機を狙っていたもう1機にルナの主砲弾が頭部を直撃した。分厚い胸部なら耐えられたかもしれないが、爆炎がさらにバズーカの弾倉を誘爆したのか文字通り爆散した。「やりぃ!3機めだ!」おい、ウィル、今のは私ではないのか!?それよりも少尉は?
「こいつ、強い・・・!」クリス少尉機とダイナモが切り結んでいるのが見える。少尉の剣技は相当なものだが、相手のダイナモは時々我々に向かって牽制のバズーカを浴びせてくる。3対1なのに余裕があるのだ。これでは迂闊に手を出せない。おまけにレムリア級の荷電粒子砲も激しさを増してきた。
2機の白兵戦を見守ることしか出来ない自分に歯がゆい思いをしていると、青緑色の閃光が走った。素早く周りを見回すとレパント級巡洋艦2隻が突進して来る。ようやく味方の戦闘艦群が追い付いて来たようだ。レムリア級は任せた!
さっきまで切り結んでいたダイナモとクリス少尉機がお互いに距離をとる。合わせて私とウィルも距離をとる。流れ弾に当たる訳にはいかないからね。さて、どうする。ここが正念場だ。
さらなる強敵が立ち塞がりました。個人的に気に入っていた重HCG。あのバズーカがカッコいいんだよね。主人公達は大丈夫か?