初陣 その2 -ジーク-
初の実戦を迎えるシン達モガミ中隊。優勢な帝国HCG隊とどう戦うのか。
モガミ1を先頭に、逆V字フォーメーションを組む。私の小隊は最右翼を任されている。ルナのモニターは視界が広い。顔を向けた方向にほぼ180度見えるのだ。視界を全方向モードにすると、コックピットの様々な計器類が消え、自分の周り全てを見る事が出来る。戦闘時はこの全方向モードを好む人もいるようだが、私はこの全方向モードに慣れない。といよりも計器類の情報を見ないで操縦できるなんて信じられないよ。
視界の先にはクリス少尉のジュピター。右弦にはウィルのルナ。周りは星の海だ。その神秘的な美しさに心を奪われる。この光景を飽きるまで眺めていたい。本音を言えば隣にクリス少尉が居てくれたら最高だろう。無線封鎖中だけど、無性に誰かと話したい気分だ。益体のない事を考えながらも視線を油断なく動かし、見張りを続ける。
フォーメーションを組んだまま進むこと約1時間。無言で見張りを続けるのが苦痛になってきた頃、「モガミ1だ。戦闘準備」ようやく無線封鎖が解除されたと思ったらこれだよ。オートモードを解除し、戦闘モードへ出力を上げる。すぐモニター上に「12時の方向不明機多数」の表示が。この辺りに味方がいるはずも無い。接敵だ。
「ルナ各機、ランチャー用意。照準任せる。5秒前・・・3、2、1、撃て!」6機のルナからロケットランチャーが火を吹く。続けて「ルナ各機、砲撃3連射!」180mm砲を3連発し、前方を凝視していると遠くで閃光が走った。いよいよ戦闘が始まる。自分の撃った弾が着弾したかも、などと考えながら、そのまま直進する。これが拙かった。
いきなり赤紫色の電光が機体のすぐ左舷を掠め、目が眩んだ。反射的にベクターロール機動を打ち、右舷側へ急旋回する。今のは危なかった。帝国の戦闘艦からの荷電粒子砲だろうか。直撃なら一瞬で蒸発してたぞ。「戦闘が始まったら常に動け」散々言われた事だったじゃないか!
旋回中に冷静さが戻ってきた。素早く周りを見渡すとルナ1機が左後方に見える。ウィル機だろう。ルナの火力は決して弱くはないが、巡洋艦クラスとやり合うことは不可能だ。想定よりも相手の艦隊が接近してきていたのか。ジュピターが殿軍となって距離をとるしかない。旋回が完了次第、自機の向きを180度反転させ、後退しながら帝国軍と味方の様子を探る。やはりジュピターが盾を構えたまま反撃を加えつつ、後退している。荷電粒子砲の攻撃は散発的だが、油断はできない。帝国のHCGが迫って来る証拠だ。
「モガミ1より各機へ。隊列を組みなおす。各小隊、点呼」オープンチャンネルで中隊長機から指令が飛ぶ。「モガミ5,6聞こえる?」クリス少尉が続く。「モガミ6、元気です!」だから順番守れよ。ウィル。「モガミ5、います」あと数mズレていたら蒸発してたけどね。良かったよ。
ジュピター3機はそれぞれの小隊の指揮に戻る。「これより遅滞戦術に入る。各小隊、連携を密にせよ」「モガミ4了解」「モガミ7了解・・・敵機接近、11時の方向に3機」シュトローマー少尉機が敵機の接近を告げる。「第3小隊迎撃します」続いてブラントン中尉から「12時の方向、3機確認した。・・・ジークだ。第1小隊迎撃する」ブラントン中尉率いる第1小隊が後退速度を落とし、弾幕を張る。
さて、第2小隊はどっちかの援護かな、などと考えていると「モガミ4です。3時の方向に敵機多数!迎撃します!」「第3小隊、交戦中」「第1小隊交戦中だ。正面は囮だったか。ファインズ少尉、無理はするな。必ず助けに行く!」
中尉の言う通り。艦砲射撃で動揺させ、正面の囮で注意を引き付ける。相手が乗って来たら側面から主力で一気に叩く。帝国軍の得意な戦法じゃないか。側面の敵は何機だ?迎撃に向かうクリス少尉の後を追う。その間にも荷電粒子砲が撃ち込まれる。しかも密度が高くなってきた。
機敏に動きながら接近してくるジーク6機を視認した・・・併せて12機。HCGが12機なら、レムリア級巡洋艦2隻か。さっきの砲撃が効いていると良いんだけど。こちらも機体を細かく振りながらバルカン砲の弾幕を張る。わざと機体を狙わず、予想位置にばら撒く。先頭のジークに何発かは直撃するが、大きなダメージは与えられない。しかし、被弾した衝撃でパイロットが動揺したらしく、ジークの動きが鈍る。120mm砲の連射で反撃しようとしてくる所へさらにバルカン砲をばら撒き、主砲を1発入れる。慌ててよけるジーク。その間に狙いを定めていたクリス少尉のジュピターがライトカービンを放つ。明るい黄緑色の閃光がジークの胸部を貫通した瞬間、爆散する。第2小隊初の戦果だ。
歓声を上げる間もなく5機のジークが迫る。囲まれないように後退するクリス少尉機へジークが集中攻撃を加える。「距離を保って!」慌ててフォローに向かおうとするウィル機を制してクリス少尉が叫ぶ。その間にもクリス少尉機の盾に数発被弾しているのが見える。ジュピターは優秀な機体だが、実体弾の直撃にそう耐えられるわけではない。
「心は熱く、頭は冷静に、だ」パイロットの心得を自分に言い聞かせながら、クリス少尉機に群がろうとするジークの鼻先へ主砲を放つ。3発。残念ながら直撃弾なし。危険だと思ったのか、3機がこちらに向かって来る。よし、狙い通り。ジーク2機ならクリス少尉がなんとかしてくれるだろう。
私とウィルでジーク3機を何とかするしかない。「ウィル、二人羽織だ!」焦る気持ちを抑えつつ、機体をスライドさせる。「合点でぃ!」ウィル機が素早く背後に回る。ルナに乗って初めての実戦とは思えない、息の合った機動。「突貫!」「Okey-Dokey!」前進方向へバーナーを全開にする。一気に距離を詰めると、ジークはまさかルナが向かって来るとは思っていなかったらしく、慌てて散開して衝突を避けようとする。ルナの突進をやり過ごし、後方から叩くつもりで振り向いた瞬間、1機が爆散した。「やりィ!」ウィルの主砲が直撃したのだ。背中合わせで突進し、すれ違いざまに減速。追撃しようとしてくる敵機を狙い撃ちする荒技「二人羽織」。ネーミングセンスはアレだが、初見の相手には効く。ここでもう1機、と欲張ってはいけない。すぐに距離をとるため、バルカン砲をばら撒きながら後退する。
あと2機。もう同じ手は使えない。ブラントン中尉、早く来て!
戦闘シーンを書くのは初めてです。矛盾が無いように気をつけてはいますが、難しいですね。あまり主人公無双にならないようにしています。○ュータイプの設定にしておけば書きやすいのかも?