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丸い棺桶 -初陣 その1-

ファーストGは二次創作不可という事なのですが、どうしてもボールが活躍する話が書きたかったのです。舞台設定はあの戦争の末期、宇宙要塞攻略戦です。なるべくオリジナル色が出せるようにしたいと思います。

「・・・チェックプログラム・・・異常なし。・・・機内圧正常。燃料、電圧、正常。」


 地球を周回する軌道上にある、コロニーⅣの残骸付近には多数の戦闘艦が展開していた。その中の1隻、レパント級宇宙巡洋艦「モガミ」の甲板では整備員たちが忙しく動き回っている。


 私の機体は露天繋止されているので、整備員たちは腰に命綱をつけ、それこそ飛び回っているのだ。「右アームよし、右ツメよし、左アームに左ツメよし、弾数チェック・・・よし、ロケットランチャーは・・・安全装置よし。」もっとも、私は自分の機体のチェックに余念がなく、機体周りを気にする余裕などなかった。


 少し前まで地球統合政府軍(統合軍)アマゾン基地の軍属として働いていた私は、成り行きで統合軍兵士、しかもパイロットとなった。なってしまった。まぐれとは言え、アマゾン基地に侵攻してきた帝国軍のヒト型戦闘機体(Humanoid Combat Gear=HCG)である「ジーク」1機を撃破するという、叙勲レベルの活躍をしたからだ。


 この活躍のせいで無理やりスカウトされた私は、簡単な戦闘訓練を受けた後、地球周回軌道上にある統合軍の小惑星宇宙要塞「マルタⅡ」へ送られた。そこで与えられた機体は、思っていたよりずっと大きくて丸かった。ボール型戦闘ポッド、型式番号BCP-02通称「ルナ」。


 全高12.8mの球体で、標準装備は頭部に180mm低反動キャノン砲1門、30mmバルカン砲2門、下部に1対のアームを持つ。今回の作戦ではオプションで頭部の左右にミサイルポッド1基ずつ、アームの袖口にも単発のミサイルランチャーを1基ずつ装備した。いわゆるフル装備である。


 ルナは口の悪い兵士たちからは「丸い棺桶」などと呼ばれている。なにしろ基本設計は廉価な作業用ポッドなのだ。一応、装甲らしきものは取り付けられているものの、防御力は統合軍の主力HCGである、型式番号HCG-079通称「ジュピター」と比べるべくもない。紙装甲と言っても良い。


 公式には丸い機体を月に見立てて「ムーン」では収まりが悪いから「ルナ」らしいが、本当はこんなので戦うなんて、「正気の沙汰ではない(lunatic)」と言いたくなるような機体だからだろう。


 しかし、長所もある。元が作業用であるから、取り扱いが容易で視界も良好だ。燃料電池駆動のためパワーは弱いが、機体が軽いので加速性能と運動性能は意外に悪くないし、180mmキャノン砲は信頼性も破壊力も高い優れた兵装だ。「ジュピター」を後方から支援することを目的として大量生産されたわけだから、私たちのような即席パイロットにはうってつけの機体だ。


 「大丈夫だ。訓練通りやればいい。」自分にそう言い聞かせ、目をつぶって呼吸を整える。目を開けると整備員の敬礼が見えた。外での準備は終わったらしい。慌てて敬礼を返すと整備員は艦内へ戻っていく。目をつぶっててごめんなさい。「お見送りありがとう。」そう呟いた。


 本来、レパント級巡洋艦(後期型)はHCGを3機搭載するのだが、今回の作戦では1個中隊すなわち3個小隊計9機(補用除く)が搭載されている。上甲板の砲塔を撤去し、露天繋止するという非常手段が取られているからだ。


 統合軍側は当初、帝国の怒涛のような攻勢の前に防戦一方だった。帝国は用意周到にも多数の新型HCGを用意し、集中的に運用するという画期的な戦術で統合軍を圧倒したのだ。しかし、経済力で遥かに勝る統合軍は物量作戦でこれに対抗し、黒海周辺の大穀倉地帯および地下資源の支配権をめぐる戦いとアマゾン基地攻防戦で勝利した(私がジーク1機をまぐれで撃破したのはこのとき)。


勢いに乗った統合軍は宇宙への反転攻勢に打って出た。艦隊の展開している位置がコロニーⅣの残骸周辺であることを考えれば、今回の作戦はHCGを大量に投入し、帝国の小惑星要塞のどれか、おそらく「バビロン」を攻略するのだろう。


 モガミ中隊は第1~第3小隊長のジュピター3機と各小隊のルナ2機ずつ6機を合わせて9機。率いるのはアリソン・ブラントン中尉(モガミ1)。モガミ第1小隊長も兼ねる。空軍パイロット出身の叩き上げで、偉丈夫のナイスガイだ。第2小隊長はクリスティーナ・ファインズ少尉(モガミ4)。操縦の腕は確かな女性士官であり、初陣で敵機HCG「ジーク」を1機撃破している。


 私ことシンキチ・ヒラカミ(二飛曹:モガミ5)は名前の通り日系人だ。私と相方のウィルソン・キンテ(二飛曹:モガミ6)で少尉を支援する。ウィルソンとはお互いに「シン」「ウィル」で呼び合う仲である。ウィルは陽気な性格だが、シャイなところもあるいい奴だ。2人とも見目麗しい小隊長のナイトとなるべく、訓練に励んだのだった。


 モガミ第3小隊を率いるのはエルンスト・シュトローマー少尉(モガミ7)。戦争が始まるまでは工科大学の院生だったらしく、軍人と言うより技術者か学者のような印象だ。


 「モガミ」は第3艦隊に所属する第007戦隊(レパント級巡洋艦「クマノ」「スズヤ」「モガミ」)の艦だ。第008戦隊の「チクマ」「トネ」(ともにレパント級)および第011戦隊のコロンブス級戦艦「ヒエイ」「キリシマ」と行動をともにする。


 今回の任務は、何か強力な攻城兵器を帝国のHCG隊から守ることだと聞いているが、具体的にどんな兵器なのかは知らされていない。ブラントン中尉も詳しいことは知らされていないらしい。ともかく、この兵器を守るためにまずは最前線に出て帝国のHCG隊と闘い、反撃しながら少しずつコロニーⅣの残骸へ後退するという遅滞戦術、要するに時間稼ぎである。極めて危険な任務だ。まあ、突撃艇に乗り、巨大なロケットを抱えて相手の基地に突っ込む任務よりはいくらかマシなのかもしれない。


 聞いた話ではこのロケットを撃ち込まれると長距離ビーム砲が使えなくなるらしい。基地攻撃には極めて有効な兵器だと思うが、旧世紀の「カミカゼ」に等しい戦術ではなかろうか。


 「モガミ1より各機へ。状況を報告せよ。」中隊長機からオープンチャンネルで通信が入る。「モガミ2準備良し(Stand by)」「モガミ3オールグリーン」「モガミ6準備オッケーです!」ウィルが軽いノリで、しかも順番を飛び抜かして返事をする。「ふふ。モガミ6、ふざけてはダメよ?モガミ4準備良し」ファインズ少尉が笑っている。少尉は笑い声まで可憐だ。ウィルめ、この場で点数稼ぎか。抜け目のない奴だ。「・・・モガミ5準備良し」


 各小隊搭乗員からの報告が終わる。あとは艦橋(ブリッジ)からの指示を待つだけ。しばらくすると軽い衝撃を感じた。モガミが前進を始めたらしい。いよいよだ。緊張で心臓が喉から飛び出そうだよ。


艦橋(ブリッジ)より各隊へ。現時点をもって作戦を開始する。諸君が全力でその任務を全うすることを期待する。」


「モガミ1出るぞ!俺について来い!」ブラントン中尉のジュピターがカタパルトから射出される。中尉は力強い言葉で各機を鼓舞する。「モガミ2出ます。」「モガミ3行ってきます!」プラット一飛曹とウイットニー飛曹長のルナが続く。


「大丈夫だ。訓練通りやればいい。」「大丈夫だ。」・・・目をつぶり、頭の中で何度も繰り返していると、ファインズ少尉(心の中では親愛を込めてクリス少尉と呼んでいる)からの個人用通信が入る。「大丈夫よ。私たちがついてるから。」目をあけると、モニター越しに少尉が私を見つめて微笑んでいる。「はい!ありがとうございます!」と思わず叫んでしまった。少尉にかっこ悪いところを見せてしまった。


 「私たち」なのが残念だが、戦いの前に少尉からの励ましの言葉は何よりも効く。相変わらず緊張はしているが、肩の力は抜けた。「モガミ4出ます!」少尉の凛々しい声が響く。次は私だ。「モガミ5行って参ります!」ガクンと強い衝撃が走り、射出される。やってやろうじゃないの。


 


 





拙作をお読みいただき、ありがとうございます。完走出来るように頑張ります。

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