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王室の霊媒師  作者: 鍛冶
安倍晴龍の霊案件
8/14

安倍晴龍の霊案件⑧経緯

時代が変わろうとする江戸末期

西で上がった狼煙はこの国を変えていく

それは北国の入口にも影響を与える

争いが始まり、終わりが近付くと増えるのは

"罪人" 本物も偽物も関係ない

この時代はまだ人の命を握るのは"権力"であり民の命の重さは現代(いま)よりも軽かったのかも知れない。

会津藩の管轄の山の中 人口数百人のこの村も時代に飲み込まれていく。

まだ雪が残る山道を役人達が列をなして歩いて来る

春の支度をしている村人達はなんだなんだと列を観ていた。

役人達が目指す場所は地頭主の家。

湖のほとりに大きく構える門の前に地頭主が家族総出で役人達を待っている。

役人達が着くなり

「遠く、足元が悪い中、遥々ありがとうございます」

と深々と頭を下げて家の中へと案内をするが役人達は表情一つ変えず入ってくる。

全員お面でも被っているのかと地頭主は自分の目を疑い役人達を覗いた。

大広間には火鉢が用意されていて暖かいお茶が湯気を踊らせる。

春は近いがまだ寒い。

地頭主は何の話で来たのかは知らされておらず、言葉に気を付けながら来訪の意図を尋ねる。

役人の1人が地頭主の質問に答えることなく淡々と村の事を聞いてきた。

温泉の有無、旅籠屋の数、村人の職種

来訪の意図が見つからず飛んでる虫を祓うように聞かれてる質問に答えていった。

話がはじまり、どれくらいの刻があったのか

手探りの地頭主が役人へやっと割り込み話せた

「この村で何をしろと言うことでごさいましょう?」

茶をすすりながらも視線は冷めたもので地頭主を見ている。

役人は後ろの者から渡された紙を開き藩からの伝令書を見せる。

ここで初めて役人の名前が知らされた。

会津藩 熊戸(クマト 米一郎(コメイチロウ 細く心が見えぬ眼は能面のように見える。

熊戸は話を長くしていたのが地頭主の人柄を観るためだと話してから伝令書を読み上げた。

1つ 村の旅籠屋が少ない場合旅籠屋を造るべし

2つ 村に処刑場を造るべし

3つ 処刑人を村人から選任すべし

地頭主は驚きを隠せなかった

自分の土地で罪人とは言え多くの人が殺められる

地頭主は必死に断るもその言葉は空を舞う。

伝令は命令、役人が数人くれば大きな話

自分の土地が処刑場になるのは避けられないのだ

補足が伝えられる

費用は藩が持つ、罪人を連れてくる役人達が泊まれる宿泊施設を地頭主の家で賄うように言われる。

処刑場は湖のから流れる河川脇に設置される事になる。

資材は村で調達する事だ

河川から流れる河は田畑や生活の水それは命の水

血生臭い水にはしたくない

地頭主は平に平に断るのだが1つとして答えない

熊戸は河川から堀を造り、洗い場の池を造り生活用水には害がないから大丈夫だと淡々と答える。

地頭主の抵抗は何もならず話は勝手に進んでいく。

熊戸の後ろに座る男達の目が狐のようにつり上がってきている。

処刑人も獄門である打ち首晒し首、到底村人には出来ないと告げるが江戸から浅右衛門と言う獄門師が教えに来る手筈になっていた。

そういう話ではなく、人を殺める事が出来る者が居ないと伝えると後ろに座っている男が勢いよく立ち上がる

「先から聞いておればのらりくらりと藩の命を断りばかり、いい加減にせい」

そういって刀を抜いて畳へ刺し立てる

ひいっと小さく叫ぶ地頭主に熊戸が詰め寄る

「村1つなくなるやも知れぬ話になるぞ」

その声は冷たく殺意も混じるもの

これは命令であり強制だと改めて確信する

元より断れる話ではなかったのだ

処刑人は選別して後日報告という話で終わる。

役人達は翌朝静かに村を後にして行った。

役人達の見送り、背中が小さく見える頃、地頭主は頭を抱えながら膝から崩れ落ち経緯を妻に話をした。

妻は湖の魚が飛び出すほど驚きの声をあげた。

どうしても断れなかったのかと地頭主を追い詰めより責めるが、今まで見たことがないような地頭主の蒼白した顔を見た時に自分を落ち着かせ、もう一度話を聞いた。

地頭主の行動と思いを知り肩を抱いて共に泣き崩る。

地頭主は人に威張らず、温和で村人思いの良い人である。

年貢も厳しい時には自分の蔵から豊作の時の貯めてあるお米などを納させて村の負担を減らしたり、広い屋敷を利用して学びを教える場にしたりとしてきた。

そんな人柄の地頭主から処刑場の話をするのは本当に心が折れるものだった。

翌日、地頭主の屋敷に主だった村人達が集められ今回の経緯を話した。

短い時間で終わる話ではない。

月が登る頃に村人達が了承する。

1人の農民が藩の強制力であり地頭主がどう抗っても断れないのではと伝えたのが了承の始まりだった。

地頭主の人柄で納得するわけでは無いが気持ちは組んで貰えた

だが処刑人の選別は出来なかった。

数日後

処刑場の工事が始まった。

熊戸と役人達が村の職人、大工の一太郎、資材調達木こりの吉蔵、土木の波助と顔合わせ、工事の指示をしながら処刑場を造っていく。

3人は視線にやりずらさを感じながらも作業をする

熊戸は3人の仕事振りと肉付きを監視するかのように見ていた。

熊戸の口元が白い歯を見せた

5日程で完成した所で熊戸と役人達が職人を取り囲む

何事だと目を丸くする3人

「これより会津藩より大工の一太郎、木こりの吉蔵、土木の波助へ命をくだす」

熊戸は低く大きな声で言うと懐から命令書を3人に突き出すように見せる

そこには処刑人としてこの先仕事をかえる命令が書いてあった。

3人は寝耳に水

近くにいた地頭主は足場の悪い砂利石の上を慌てて走ってくるが囲う役人達に押さえ込まれてしまった。

3人は激しく断りを入れるが熊戸はこれを解っていたかのようにニヤニヤと笑い始めた。

不快な笑顔に吉蔵の顔が苛立つ

役人の1人が古い布に巻かれた物を熊戸へ渡す

布から少し見える赤子の姿に

「お伝!」

大工の一太郎が驚き声をあげる

なんと、と吉蔵と波助も驚いた

隈戸がもっていたのは伝子

伝子は生まれたばかりの一太郎の娘

一太郎の妻は伝子を産んで力尽き亡くなった

悲しみの中忘れ形見として伝子を男手1つで育て始めたのである。

預け先のオババが泣きながら河原の向こう謝っているのが見えると役人達が無理矢理連れてきたのも直ぐに理解した。

3人の顔付きが変わり、怒りが一気に頂点を越えた

各々の仕事道具を武器のように構えた

ノコギリ、マサカリ、斧が日の光を浴びて光る

一斉に役人達も刀を抜いた。

不適な笑みで熊戸が伝子を前に出しながら3人の方へ歩いてくる。

歩く度にジャリジャリと河原の石が気持ち悪く響いた。

「お前達が断れば村も消える、これはそういう話しだ」

熊戸の決め台詞が出た

伝子は交渉の盾として使われる。

役人は自分の保身の為の計画には何でもする、江戸時代に限らず役人事情の強引さは狂気でもある。

勿論3人も、その手の話は解っている。

人質の伝子、押さえ込まれている地頭主、泣きじゃくるオババを見て各々の武器は降ろした。

役人達は刀を構えたままだ

「悪い話ばかりではない、賃金と村のこの先の話もあるからついてこい」

そういうと伝子をオババの元へ渡し、地頭主を起こすと近場の空き屋敷へと向かった。

地頭主が貸したりしている空き家がいくつかあった

その中でも一番近くの大きい屋敷へ役人達を案内する。

一太郎達は納得するわけでは無いが村の命運がかかった話に感情を抑えてついて行った

ここで3人への賃金、この村の年貢の引き下げ、観光地としての協力が約束された。

約束状へ血判が押された

無念と肩を落とす三人を嫌らしく笑う姿が影と合間って冷たく不気味に映った。


山桜が咲く頃、馬に乗った役人と籠や引き車が村へとやってくる。

引き車には数名の者が槍に囲まれて座っていた。

処刑場には一太郎達3人が立って待っている。

生唾を飲み込み、身体が震えていた。

籠の中から1人の侍が出てきた

背筋は伸びていて一本筋が通っている眼差しを持つ男は役人とは違う雰囲気を出している。

自分から紹介を始めた

浅右衛門という江戸の斬首専門の侍だった

3人に刀の持ち方から心構えを教えはじめる。

浅右衛門は命の尊さや罪人への心配りがしっかりしている侍であった。

3人は浅右衛門の言葉に救われ、少し仕事への気持ちが変わる。

「それでは実際にお頼み申す」

馬の横で熊戸が浅右衛門へ言うと、引き車から1人の男が降ろされた。

目隠しをされ白い着物で髷が切られていた

役人に抱えられるように堀の所で正座をさせられるとそのまま罪状を読み上げられた。

浅右衛門から罪状はよく聞くように言われている

罪人を斬りやすくするためだ

斬首刑になるにはそれなりの非道があり情が減るからだ

そして前のめりになった時に見える首の骨と骨の間を一閃に引き落とす

刑を執行される罪人の恐怖を垣間見て少しでも痛みを減らす最期の情けだそうだ

罪状が読まれている時に罪人は震え、泣き、小便を漏らしている。

頭をもたれ屈めされると嗚咽と震えで身体が硬直する

-その瞬間-

刀が光の如く振り下ろされ、首は胴体と離れた

首が無くなったのが解らないのか僅かな間をおいて真っ赤な血が空へと吹き出した

この時、罪人は恐怖以外何か感じたのだろうか?

反省をする余裕など無いと思う。

ここまでの経緯を後悔でもしてくれたなら少しは救われるのだが

散り桜が風に舞いながら1人の罪人の命が消えた。

次は3人が実際に刀を振り下ろす時である。








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