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王室の霊媒師  作者: 鍛冶
安倍晴龍の霊案件
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安倍晴龍の霊案件⑥思惑

冷たい洞窟に少女の声は静かに響く

声に構える5人を見て村長あたふたしている

仕事で何度も霊場(レイジョウ)に居るベテランでも恐怖は感じる

朱雀が「危ないから近寄っちゃダメ」と村長を守る様に前へと出る

「お願い、出して」

少女の声に息をのむ晴龍

「あれ?怖くない」キョトンとした顔になった菅原が前に出てくる

「話出来るよ」ぽそっと優しく言う菅原に周りが驚いた

晴龍は何かを思い出したかのように鼻から息をしてゆっくりと口から吐いて自分を落ち着かせて構えを外した

それを見た3人も1度構えを外す

晴龍の行動、動作には絶対的な信頼があるのである

4人は菅原に任せた

吸い込まれる様に祠の前に行き「話を聞かせて」と菅原が両手を広げた

「晴姉この新人?」

「えぇ媒介師ね」

現状の菅原を見て確信を得た晴龍

吉備真備からは「入官試験はしたがまだ何"師"かは解らない」と伝えられていた

晴龍は車の中で菅原の生い立ちを聞いた時に小さい頃からの霊の見え方とお墓の前で両親と話した事に仮説をたてていた

1つは寄ってくる霊の数が多い事。

基本的に霊はかまってほしい者

見つめていたり、話かけて来るのは菅原に何かを感じたから寄ってきていた。

2つ目は両親とはいえ霊とはっきりと話が出来たこと

3つ目は父親も何かしらの霊師である可能性が高いこと

霊力は大人になるにつれて衰えてくる

生活の中で人の汚さや欲が見えると多少なりとも染まっていくものだ

ピュアさは減り、(コトワリ)()る事をしなくなる

必然と第六感のアンテナは悪くなる

"師"になれるのはそんな成長の中でも第六感が衰えない者のみである

「多分だけど菅原はイタコの家系だね、履歴書見とけば良かったよ。」

菅原が知らないだけでお婆さんも何か持ってると晴龍は感じた。

菅原の行動に応える様に氷岩がぼやっと光ると何かが浮き出てくる

「日本人形?」

土御門が目を細めて映り出された者を視る

着物を着ている少女

朱地に黄色い柄物で黒髪の姿

そして顔や手足と露出している場所はまるで使い古したような包帯が巻かれていた。

「ありがとう」

少女の声がそう言うと菅原の広げた腕と氷岩が光をゆっくりと放ち、引かれ合うように重なった

巻かれていた結界がスルッと外れて少女が菅原の前へと現れた

晴龍達が驚く

結界が外れたのだ、切れた訳ではなくヒモをほどき糸がたるむように落ちたのだ

太く固く結ばれた結界の上に呪符が貼ってあるのでほどくのは霊だけではなく人でも困難

力で外すなら千切れるか切る事はあるが結び目をほどくなど考えられないのだ

菅原の力と少女の力が合わさったからなのか、この少女の霊が暴れればかなり危険だ。

「こんにちは」そう言って菅原は少女の手を握る

包帯からでも少女が嬉しそうなのが解った

菅原は優しく自分の自己紹介と簡易的に晴龍達を紹介した

真面目な菅原の性格が良く出ている、幽霊相手に自己紹介する者を晴龍達は初めて見た

少女の名前は"伝子(デンコ)"で"お伝"と呼ばれていたそうだ

菅原は洞窟の外へ出ようと手を優しく引っ張る

晴龍が外は危険ではないか、取り憑かれたのかと心配になり菅原の肩を掴む

「もう限界なんです、寒すぎます」

と涙目で訴えられた

確かに皆、頬はリンゴのようで鼻水は凍っているかのようにパリパリになっていた

特に村長は酷かった

顔を見合わせると全員肩の力が抜けて洞窟の入口付近まで移動する事にした。

手を引かれるお伝は楽しそうだった。

晴龍は黙ってその行動を見ていた

光が当たる所まで行くと季節が変わった様に暖かく感じる

外までは出せれないのでここでと座り込む

土御門が少し離れた所でタバコに火をつけると村長も後ろから着いてきてタバコに火をつけた。

携帯灰皿を出す所でお伝が話だす

「おっ父達を止めてけれ」

お伝は菅原に話しかけてきた

「お父?」

「うん」と頷くと少女は話始めた

おっ父とは最初の小さな結界から飛び出した霊だそうだ

あと2人は父親の仕事仲間

皆、裏切られ殺された怨みで霊となったが氷岩に封印されたそうだ

封印したのは偉い神官達で強力な結界を張り縛られた

先日、何者かが結界を切った為に外へと放出

封印された時からの怨念が更に強くなり昔よりも強力な霊となっている

人の負の感情は最高のエサになるので3体の霊は邪念を嗅ぎ分けて狩に出るかのように飛び出したそうだ。

PM1:30

純と愛と保は昼食をとりながら揉めていた

本当に幽霊が居たことと今後の自分たちが危なすぎる事で気の弱い保が勢いよく純に噛みついている。

「そんな言うなよ」

純が珍しく弱気に返した

幽霊を目の当たりにしたのか保の勢いに押されたのかは解らないが保は視界の端に映る愛に良いとこを見せたいだけだった

「こんなとこで大きな声出さないで、食べ終わったら一度旅館に戻って今後の予定組もう」

愛が間をぬって2人を落ち着かせた

旅館への道を歩くが純は面白くなさそうに歩き愛がなだめ、保は人が変わった様に興奮したまま歩いていた。

PM2:30

駅から車で15分位の場所に平屋の集合住宅がある

ここは警察署が借りている古林の寮

昔ながらのトタンの壁に大きな窓が庭先に向けて付けられている

ドンドンドン

ガラスを叩くと薄いトタン壁に音が繋がり部屋の中では物凄い音へと変わる。

ドンドンドンドン

「開けろ」

その音で布団に寝ていた古林が起きる

頭はボーとしていて視界がボヤけたままで窓の方を見た

六風が目をギョロギョロさせ怒り狂った形相で窓を叩いている

驚き布団で体をビクつかせると布団に誰か居ることに気付いた

半裸の女の子がいる、恐る恐る顔を覗き込むと六風の妹、小春がそこに居た。

血の気がひいてクラクラとするも大きな音と六風の叫び声が現実へと呼び戻す。

腰がひけた状態で窓を開けると勢いよく六風の身体が古林の身体へとぶつかってくる

「お前人の妹連れ去ってなにしてんだ」

ふき飛んだ古林は何がどうなってこうなったのか理解できない状況だ

「う、うんん」

目を擦りながら小春が起きると自分が半裸なことに気付いて驚き声をあげて布団で身体を隠す

「やってくれたな、小春はまだ16だぞ」

歳を聞いて更に驚き小春を見る、そして目の前で凄む六風のギョロギョロした目が威圧感、存在を大きく写し古林は震え出した。

冷静になろうと何があったのか思い出そうとしても目の前の恐怖に頭が回らない

「あんたさ酒飲んで飲酒運転だよな」

古林の前で昔のヤンキーの座りかたをして凄み下から上へと睨みを効かす。

少し思い出した

確かに2人を食堂へ連れていき何か呑んだがそこから記憶が曖昧

「い、いや僕は呑んでません」

今まで真面目にやってきた自分を信じて反論するが

「酒くせぇから、自分の口の匂い嗅いでみろ」

その言葉で両手に息をかけ匂いを確認する

「酒くさ」思わずこぼれる

ニヤリと笑い六風は古林の胸ぐらをつかみ顔の前まで持ってくる

「署長んとこ行こうか」

「それだけは勘弁してください、個人の問題だし」

「未成年淫行、飲酒運転、立派な犯罪だろ」

何も言い返す言葉が見当たらない

六風は勝ち誇ったように古林を布団へ投げて、2人を着替えさせた

「お兄ちゃん私も?」

小春が目を潤ませ六風を見る

「しょうがないだろ当事者で証人なんだから」

下をむく小春

2人を乗せて朱河警察署へと向かった。

PM3:45

朱河警察署 署長室

ソファには下を向いた古林と小春

足を開き腕を組んだ六風が署長をギョロギョロと睨んでいた

署長の白河は汗を拭いて困り顔

六風は白河署長を脅していた

観光客が減っているこの村で警官が未成年と淫行した挙げ句飲酒運転

話題にはなるが観光客は更に減って信頼が失くなるだけではなく村人から恨みすら買うと

個人と警察署の未来は失くなると不安要素をあおり詰め寄っていく。

六風は常に人の言葉尻から揚げ足を取り、持ち上げては落としを続けて徐々に追い込んでいく嫌らしいタイプ

白河署長は軽くあしらおうとしていた。県警本部の人間ともあり下手(したて)に出てから切り替えそうと話したが六風は家族に手を出されたことを武器にして詰めてくる

結果白河署長が追い込まれてしまい逆ギレも開き直りも出来なくなってしまった。

白河署長がどうにも対応出来ない状況を見計らい六風は交換条件を出す

「なら、こうしませんか?今、勾留されている2人を釈放するのと古林を2日間でいいので俺に着けさせる、これをのんでくれるならこの話はここで終わりにします」

人差し指を立てて前へ突き出しながら強気に言う

「なんで勾留の2人?」

白河署長と古林が六風を見る

「嫌ならこのまま公安言ってマスコミ行きなります」

ニヤけ小馬鹿にするように目をギョロつかせた

「その条件でこの話を終わらしてくれるんだな」

話の光を見つけたように白河署長が六風の話をのんだ

古林と小春が正気なのか?と白河署長を見る

その代わりこの話は無かったことになるのでこれ以上はのめないし、知らない事とするという条件を六風に念押しした。

六風は妹を駅まで送り、戻ってくるのでその時までに勾留の2人を古林と共に用意するように指示をする。

六風が小春と共に警察署を出て駅まで歩く。

「本当に身内に甘いね」

「そりゃそうだろ、警察なんだから保身が一番」

自信満々に答えると六風が胸ポケットから封筒を出して小春へ渡す。

小春は毎度って呟きながら封筒の中のお金を確認する

「悪いな、こんな田舎まで来させて変なこと頼んじゃって」

六風がニヤニヤしながら応えた

小春は妹でもなければ16歳でもない、むしろ六風に妹など居ない。

小春は六風がよく行く飲み屋のスタッフで元々は晴龍を誘き寄せる為に呼んでいた。

朝から駅で待機していた小春に勾留終わりにメールをして計画を伝える、説教を聞くふりをして朝上がりの警官を探りカモを見つける。

勿論古林は小春と肉体関係は無い

睡眠薬を入れたドリンクで古林を寝かせ

免許証から家を割出して連れて行く

口の中へ酒を含ませ吐かせるを繰り返す。

六風は睡眠薬の効き目に笑いながら驚く

口の周りのお酒は乾き臭いだけが残る

全ては六風が仕込んだ罠である。

小春は「また呑み来てね」と小さく手を振り電車に乗って帰って行った。

朱河警察署

古林に連れられて2人の男が出てくる

「あんたすげぇな」

大男が大きな声で六風の方へ歩いてくる。

「有言実行っす、お勤めご苦労様でした」

茶化すよう言うと舎弟らしき小柄の男が尊敬的な眼差しで六風を見つめていた。





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