安倍晴龍の霊案件⑩経緯 後編
過去編終わります。
3人の亡骸が転がる川原
満足げな熊戸は罪人の首だけを拾い村をあとにした。
したくもない仕事をさせられ騙されて娘も守れず踏み潰される
3人の恨みは亡骸から黒い影をズズズッと出し異形の身体を作って行く
その姿は心の傷を写し出すかのように身体に表れてドロドロの傷口が無数にある
蜘蛛の様な姿勢から震えた状態で立ち上がろうとするが思う様にまだ身体が動かせない
地頭主が泣きながら走ってきて伝子を見る
かろうじて息が有るのが解る
名前を呼び抱きしめる
そして確認するかのように一太郎、波助、吉蔵を見るが頭を撃ち抜かれて死んでいるのが直ぐに解った。
隣にいる霊は見えていない。
地頭主は急ぐ様子で申し訳無さそうに3人に手を合わせたら伝子を抱き上げ馬にのせ医者の元へと走った。
3人の霊は這いつくばりながら地頭主の後を追うように動き出す。
腕の力だけでゆっくりと後を追う。
-村の診療所-
包帯でグルグルと巻かれた伝子は布団の上にいる。
診察によれば複数の骨は折れていて、内臓も損傷している、長くは持たないと伝えられた。
熊戸が容赦なく暴行をしたことがよくわかる。
地頭主は恐怖に負けた自分を悔やみ手を握りながら泣いて伝子へ、すまないすまないと何度も謝っていた。
伝子はヒューヒューと途絶えた呼吸で地頭主の手を握り返す。
包帯の隙間から伝子の目が開くのが見える。
その目は地頭主ではなくその後ろに居る一太郎を見た。
「おっとぅ」小さくそう呟くと伝子は息を引き取った。
叫ぶように泣く地頭主の後ろで一太郎の霊は完全に邪気に包まれる
合わさるように波助、吉蔵の霊も黒い邪気を身体から溢れだした
村を出たことの無い3人の霊は村を彷徨う。
村人達は時折3人の霊を見た
川原の近くで呻く声を聴くもの
鏡で髪をとかしている時に映る3人
何も無い筈の場所で聴こえるノコギリで何かを切るギコギコとなる音
村人達は手を合わせ成仏を願った。
少しの時がすぎ、地頭主の元へ手紙が届いた。
村で見届け人をしていた役人からだった。
熊戸が北の大地での戦で戦死した報告だった。
役人上がりで態度の大きい熊戸は鉄砲隊にされた。
最前列で鉄砲を構えるも敵を目の前にして、いの一番で逃げようとした所、後ろの隊員に蹴り飛ばされて敵前に転がり蜂の巣にされたそうだ。
地頭主は正直せいせいした。
ここには書いてなかったが蹴飛ばしたのは見届け人の二人だった。
3人と伝子の亡骸は山の供養碑の脇に埋されている。
地頭主は報告をするため手紙を添えて墓前に線香をたてた。
なんとも落ち着く香りが煙と共に舞う
その線香に導かれるように3人の霊が墓へと集まる。
熊戸の死の報告を知る3人の霊は更に漆黒の闇を纏う
怒りの矛先を失った霊達は膨れ上がった怨念により大きな霊へと変わった
小さな霊や中級の霊達が巨大な怨念につられて集まり始める。
地頭主が冷たい空気を感じて不気味さを知った。
最早、怨みしか感情を持たない霊は地頭主を狙う
その姿はハッキリと姿を見せ前から襲ってきた
その時に伝子の霊が現れる
包帯だらけの身体で両手を広げ地頭主をかばう
向かって来た霊は止まり一瞬で姿を消した
伝子の霊も消えていた。
地頭主は感謝を口にして伝子の墓に膝を着き頭を下げた。
その後自分の子孫達へ供養を忘れぬ様にという事で全てを記録して残した。
その後台風や震災と言った災害で山や川の形が変わり供養碑とお墓は洞窟の中へと移された
ある日、霊に気付いた神職者が村を訪れ結界を張ってくれたのだった。
悪霊は邪気を食らって成長していく、これ以上成長すると祓うのが困難だと伝えられた。
これが霊が産まれた経緯、晴龍達が聞いた話
村の端の山で車は止まる
方位磁石を右へ左へと動かし空の星と合わせる
ある一定の場所だけ針はグルグルと回る
「ここの上だね」
夜空の方が明るい山道を晴龍達は登って行く。
少し離れたとこで無風が今にもヨダレを垂らしそうに笑って観ていた。
土御門や芦屋、朱雀達も各々の場所で結界の準備をする。
山朱荘を起点にして五芒星の線を敷く位置
星明りに反応して結界札が光る
4人が印を組む、呪符を唱えると光は空へと放たれ、月明かりがそれに反応するように大きな円の光を返してきた。
通常の人には解らない光
無風はその光景を見ながら胸にしまっていた銃を取り出した。
空から観ると五芒星を囲うように光の円で結界が完成していく。
土御門も結界の完成を見届けるようにたたずみながら確認している。
「ご用件は終わったかな?」
うひょうひょ笑いながら留田と穂本が闇の中から現れた。
土御門の眼は細く鋭く2人を観る。
その頃朱雀と芦屋も結界が張られたのを確認した
芦屋は独り言を呟く
「土御門さん変なのにつけられてたけど大丈夫かな?」
全員誰かにつけられたのは気付いていた。
1秒を待たず芦屋の答えは出た
「大丈夫か、あの人最強だから」
土御門 玄昉
あらゆる戦闘術をマスターし戦略、防衛策に長けていた元防衛省の官僚である。
-40数年前-
とあるアパートの1室から鈍い音が続く
土御門の母は旦那からDVを受けていた。
旦那は至って普通のサラリーマンだが裏表が激しく気分屋で大の子供嫌いな男だ
自分より弱い者への態度は支配者である。
それは土御門がお腹に居る事が解った時エスカレートした。
妊娠を良く思わない旦那は堕胎を勧める。
土御門の母はそれを拒否した、結婚までして何故堕胎?理由が解らない
強く言えないのを良いことに大きな声を出したり机や壁を叩いてわざと音を出す。
耳を塞ぎ壁にもたれかかると、お腹を蹴り妊娠を阻止しようとしていた。
母は身体を丸めてお腹をかばう
「この子だけは絶対守るっ」
その意思だけが強かった。
しかし妊娠8ヶ月目に入った時に大きくなったお腹をかばう事が難しくなっていた、飛んで来た足はお腹に直撃、母は倒れたまま動かなくなった。
突然我にかえった様にハッとする、旦那は殺してしまったと勘違いして部屋を出ていった。
数時間後、激痛で母が意識を取り戻した。
下半身にベトつく感覚がある
太もも辺りに震える手を持っていくと生ぬるい感触
その手は血だらけだった。
救急車を呼ぶが病院をたらい回しにされる。
病院が見つかった時には頭が出ていた。
ギリギリで助かった二人、朦朧とした目で母は微笑んだ。
赤ん坊は男の子、8ヶ月での出産なのに丸々として元気だった。
元気な坊やで玄昉と名付けられた。
その後旦那は病院からの通報により傷害と殺人未遂で逮捕される。
スクスクを通り越して育つ玄昉
身体は大きくなり小学生で170㎝を超え体重は100キロになっていた
見た目はおじさん中身は子供と言う姿が周りから一目置かれる存在になり、生意気だと何の意味を持たない理由で狙われる。
関西地方でも当時危険地帯と呼ばれるこの土地は玄昉を騙して悪い道へ誘う輩や攻撃を仕掛けてくる輩が後を立たない、小学生の頃からナイフで襲われたり木刀や刀を振り回してくる者が毎日の様に現れる。
何故何だろう、どうして自分がこんなに狙われるのか最初は悩んでいたが来るものを祓って行く内に悩むこともしなくなった。
結論は誰にも負けなければ死なないだった。
当時は携帯電話も無い時代
玄昉は図書館に通い戦闘術を学んだ
独学で覚えた戦闘術は図書館を出て直ぐに実践出来た。
中学に上がる頃にはヤクザからのスカウトが来る程名前が売れていた。
しかし玄昉は誰ともつるまないしアウトローにも興味が無かった。
とある寒い日の明け方、地面から響く鈍い音が町を揺らした、大きな地震がやって来たのだ。
文化住宅と呼ばれる古い建物はもろく、密集してる事から地震の揺れに耐えられずにドミノの様に倒れ崩れて行った。
土煙が朝の空を見えなくさせて行くと、アチコチから爆発音がする。
ガス管が損傷して火災がおきた
燃え上がる火の粉と歪む道路、逃げ場を見失う人達
どんなに強くても自然の前では人は弱いことを知る
落ちてくる瓦礫から母を守るため母親の上に覆い被さる玄昉は色々な所から血を流していた。
泣きながら私は良いからと玄昉に叫ぶも玄昉は気を失っていた。
まるで眠りから目を覚ます様に起きると状況は変わらないままだった。
1つ違うのは母親が泣きつかれて寝ていた。
玄昉が囲っているお陰で身体に悪い煙は余り吸っていないようだ、玄昉はホッとする。
このまま母とここで死ぬのも悪くないと思ったのだが母親の寝顔を見たら、何故か優しい涙が溢れた。
今は強がりはいらない。
自分も母も生きてて良かったと思ったのだ。
その時、背中の瓦礫が軽くなっていくのを感じる。
「発見っ!」の声と共に懐中電灯の光と笛の音が響いた。
死を感じ生への有り難さを知った時に今までに無かった感情が玄昉の中に広がった。
災害派遣の自衛隊員達が全力で自分達の救助に当たる姿に感動と感謝をする。
「生きてて良かった」
泥だらけの自衛隊の無償の笑顔が強く見えた。
それは玄昉が本当になりたかった姿なのかも知れない。
その後母の実家へ引っ越す、玄昉は高校を卒業して防衛大学へ入り自衛隊へ入隊する。
災害派遣、地雷撤去等危険と言われる被災地や戦地へと志願をして死線を乗り越えて行く。
神経を研ぎ澄まし、罠や銃撃、ミサイル等を避けて、自然災害で色々な人達を助けて行く内に今まで見えなかった者達が観える様になって、声が聴こえる様になっていった。
その事を上官に相談すると1人の女性を紹介された。
安倍晴龍だ
晴龍に出会い霊について教えて貰った。
彼は元々霊感等なかったが生まれ育った環境が常に死の隣合わせだったからか、後から霊力が身に付くと言う異例の男だった。
そんな男だから今更狙われても何とも思わない。
今、土御門の前には腰を抜かし震えてる穂本
足元には白目を剥いて泡を吹いている留田が倒れている。
-秒殺-
「次は手加減しませんよと伝えておいてください」
土御門は穂本に笑顔を向けて頭をポンっと叩くとその場を後にした。
同じ頃、晴龍の居る山に銃声が響いた。




