6 採取依頼
冒険者ギルドでパーティ登録を行い一日が経ちダルクとティアは依頼を受けようと冒険者ギルドで受付嬢のアンリとどんな依頼を受けるかを話していた。
「やっぱり最初は薬草集めの採取依頼を受けて、その道中の周辺の魔物をついでに戦って慣れるのが良いと思うんだけど」
「初めて依頼受ける人はそんな感じで慣れる人が多いわね」
「私もそれで大丈夫です!」
『俺はなんでもいい』
ティアとノワールの同意を得て二人と一匹は薬草の採取依頼を受けて外の草原に行くためにラフバンスの門をくぐり外に出た。
ラフバンスの門を出ると辺り一面に草原が広がっている。整備された車道には商人の馬が走っており門の前で身元確認をするために並んでいる人がちらほらと見える。
「やっぱり外の方が空気が気持ちいいな」
「はい!外に出るの初めてでしたけどとても空気が美味しいです!」
『あんまりわかんない』
二人は大きく深呼吸をして辺り一面に広がる草原を見つめる。草原の奥を見つめると木が生い茂っており森となっている。
「今回は薬草の採取依頼だけど、もしかしたら魔物と遭遇をして戦闘になるかもしれないけど大丈夫?」
ダルクはティアに問いかけるも、ティアは少し俯いた後に決意を決めてダルクに答える。
「少し怖いですけど、精神的にも強くなりたいので頑張ります!」
『俺が居れば大体の敵はなんとかなるから安心しろ』
「ふふふ、ありがと」
ティアは先ほどまでとは違い緊張がほぐれて満面の笑顔でダルクとノワールに微笑む。
「なら戦闘が起きた場合の確認をするけど、俺がヒットディレクションで魔物の敵意を受けて攻撃を引きつける。その間にティアちゃんがノワールに魔力を流して戦うって言うのが基本的な戦い方になるけど大丈夫?」
「はい!少し戸惑ったりして迷惑かけちゃうかもしれないですけど頑張ります!」
「焦ったりすると危ないし、この辺の魔物による攻撃は俺にはあまり効かないから焦らなくて大丈夫だからね」
『本当に効かないのか?』
「ああ、確認したから大丈夫だ」
ダルクはお婆さんの依頼で薬草を街の外まで取りに来た際に何度か魔物と接敵して攻撃されたりもしたが、その時は全く痛くも無かったのでほぼ攻撃がダルクに通っていない事がわかった。かといってダルクの攻撃も全く効いていないので、魔物と接敵した時は魔物を鷲掴みにして思いっきり遠くまでぶん投げてからラフバンスまで帰っていた。
「そういえば今日は大楯二つじゃなくて片手剣に盾なんですね」
普段は大楯を二つを背中に掛けて持ち運んでいるが今回は左手に盾を持ち右手に剣を持っている。
「討伐依頼の時は流石に大楯二つ持って<守護騎士>の性能を活かせる装備にするけど採取依頼とかの時は大楯を二つ持つと周りを見ずらいし、なによりも邪魔くさいから今日は大楯と剣を持っているんだよ」
大楯を二つ所有して戦闘を行うと大楯がダルクより若干大きいため、視界が少し阻まれて周囲を見れない場合がある。そのため主に魔物と戦う討伐依頼ではない限りは大楯と剣を装備している。
「それなら私の空間収納にお兄さんの大楯入れときましょうか?」
空間収納は人形師のメインスキルで人形師の熟練度と魔力量に応じで空間が拡張されるため本来は人形師の人形を収納するために利用する。魔力量や熟練度が高ければ人形以外も収納することができる。
「いいの?」
「はい!」
「なら明日もう一つの大楯を持ってくるからその時に空間収納で入れてもらってもいい?」
「わかりました!魔物との戦いそうな時に空間収納から取り出すって形で良いですか?」
「それで頼むよ」
会話しながら道を歩いているとダルクが普段薬草を採取している草原に到着した。
草原には花が辺り一面に咲いており草原の先には木が生い茂っている。木々の間から日差しが差し風によって枝が揺れている。
「さっそく薬草の採取でもしようか」
「薬草ってどうやって見分ければ良いんですか?」
「薬草は他の葉と比べて先端からギザギザ状の扇型になっているんだ。雑草などはギザギザではなく丸みを帯びた形になっててハートのような形になってるから見極め安くなってるよ」
「ありました!こういうやつですか?」
「そうそう。それが薬草だね」
『暇だなあ』
ノワールは薬草を探しているダルクとティアの周りを飛びながら周囲を警戒している。
「なんでノワールは動けているんだ?」
ダルクとティアの周りを飛んでいるノワールに疑問を抱く。本来人形師は人形を操って戦う。その際に人形に細い魔力の糸を繋げる事によって動かして戦うことができる。しかしノワールと所有者のティアは薬草を採取しており、魔力の糸を繋げていないのでノワールが動けるのはおかしい。
『前にもいったが俺を使った人形師は天才だから、ティアから貰った魔力を人形の体内に溜め込むことができる。そのおかげで魔力の糸を繋げずに動けるってわけだ』
「思ったより高性能な人形なんだな」
ダルクは呆れた表情でノワールの話を聞いていた。あらかじめ魔力を体内に蓄積することで動けるのは他の人形には備わっていない機能だ。魔力を溜め込む作りにすると許容範囲外の魔力を流した場合人形が爆発してしまうのと、魔力を糸で流した際に人形内の魔力が人形師の方に逆流して魔力が人形師の体内で破裂して大怪我を負ってしまう。そのため人形に魔力を溜め込む性能を付ける人形師は居ない。
『俺以外の人形達も似たり寄ったりな性能で他の奴が考えないような人形ばっかりだったからな』
「その人形師には会ったりできないのか?」
『もう亡くなっているから会うこともできないぜ』
人形からしたら人形師は親であり一緒に戦うパートナーでもあるので親と戦友を同時に失っているのと同じだろう。
「お兄さん、ノワール、薬草集まったよ!」
ダルク達より少し遠く離れた位置から笑顔でティアが駆け寄ってくる。街の外に出る前は少し魔物に怯えてた様子だったが、薬草の生えている草原地帯には見通しも良く魔物の気配も無いためティアが怖がっている様子が無い。
「ノワールみたいな人形は、ティアみたいな魔物に怯えている子に一緒に戦う勇気を与えるために作られたのかもな」
『それは違うと思う。おそらくだけど信用をしているからだと思うぜ』
「どういうことだ?」
『ダルク、森の方から何がくるぞ』
ノワールの言った方向を見ると森の方から全長二メートルほどの二本のツノが生えた牛の様な魔物がダルク達の方に向かって走ってきた。
「お兄さん、、、」
ダルクの後ろに隠れて怯えた様子でティアは右腕の鎧を掴んで、ダルク達に向かって突っ込んでくる牛のよう魔物を見つめている。
「ティアちゃんは怖かったら後ろに隠れてて。俺があの魔物から絶対に守るから。ノワールは手伝ってくれ」
『俺が一人で魔法を使う場合は通常より時間かかるから耐えてくれよ』
「・・・私もみんなと一緒に戦います」
ティアは決意を決めてノワールに魔力の糸を繋げて戦う準備をする。
こうして二人と一匹のイレギュラーな魔物との初戦闘が始まる。