1 冒険者ギルド
冒険者ギルドとは<職業選定>を終えた者が登録を行い、S級からE級までランクが存在しランクが高ければ高いほど知名度が上がり依頼の金額も多額になっていく。みんな口々に言うことが「一攫千金を狙うなら冒険者」と言い各職業の冒険者がS級を目指して在籍している。
「すいません、雑異依頼が終わったので確認お願いします」
少し低い声音で冒険者ギルドのカウンターに立ち止まってダルクはギルド受付嬢を呼ぶ。
「あれ、ダルクさん随分早かったですね」
「アンリさんさっきぶりです!一年近くやってれば慣れますよ!それに一人だと他の依頼も受けることができないですからね」
アンリと呼ばれた桃色の髪の毛のスレンダーな受付嬢は少し嬉しそうな表情でダルクと会話をしている。
「ダルクさんには雑異依頼ばかりして頂いてすいません。本当は他の討伐依頼などもやって欲しいんですけど、流石にソロの方には受けることが出来なくて、、、」
冒険者に来る依頼は大きく分けて三種類ある。討伐依頼・救助依頼・採取依頼の三つありその中でも最もランクを上げやすいのが魔物の討伐する討伐依頼である。採取依頼もランクが上がりやすいが採取目的で森などに入ると必ず魔物と遭遇するためほとんどの人が討伐依頼が終わったついでに採取依頼の素材も回収するのが早い。
「守護騎士の職業なんでパーティが組めないのはわかっていたので仕方ないです。気長に俺でもパーティ組んでくれる人を探しますよ」
「こちらでも探してはいるんですけど、やはり剣士や神官の方達ばかりのパーティ募集されているので見つからなくて、、、」
「それでもアンリさんには感謝してます!ソロでも受けれる雑異依頼を受けさせてくれているのでお金不足にはなってないですから!」
「しかし雑異依頼はほとんど非正式依頼の雑用みたいな依頼なので冒険者ランクも上がらないので申し訳ないです」
アンリは申し訳なさそうにダルクに頭を深く下げる。雑異依頼とはラフバンスの主婦などの住民からの依頼が多く、ほとんどがドブ掃除やお年寄りの買い物依頼などの雑用が多くギルド側としても困っていた。そんな話をアンリから聞いたダルクはギルドに溜まっている雑異依頼を全て受けて一年間で終わらせていた。そのため最近では雑異依頼も前ほど溜まっておらず、最近ギルドに来る依頼のほとんどがダルクと話したいお年寄りや主婦の方達の買い物などのための子守りが多くなっている。
「それにギルドの資料室を無料で貸して頂いてるので謝らないでください」
ギルドには資料室があり冒険者には原則お金を払うことで読むことができる。昔は無料で資料室に入ることが出来たが勝手に資料を持ち運び紛失するなどのトラブルが相次いだためお金を払う形になった。資料室にはこれまで冒険者が討伐した魔物などの情報があるためそれを独占しようと持ち運ぶ冒険者もいたため資料室を利用する際には冒険者カードと武器を預かることになった。
「そういえば薬屋のお婆さんがダルクさんに薬草を気が向いた時にまたいくつか取ってきて欲しいと言ってました。相変わらず薬屋のお婆さんと仲が良いみたいですね」
アンリが微笑みながら言伝を伝えてくれる。薬屋のお婆さんとは冒険者になった時からお世話になっている。冒険者になりたての頃に誰ともパーティを組めずお金も底を尽きた時に途方に暮れて雨宿りしていた時に雨宿りした場所が薬屋のお婆さんのお店だった。その時に腰を悪くしたお婆さんが依頼という形で薬草や買い物のお使いを頼まれて以来仲良くさせてもらっている。
「わかりました。なるべく早く持っていきます」
ダルクはアンリにお辞儀をしてすぐに街外れにある草原に大楯を二つ持ち向かう。
「しかし<職業選定>が終わってラフバンスに来てもう一年が経つのか、、、」
九年前の魔物の襲撃が起こって助かってから守護騎士の冒険者になるため様々な努力をして念願の冒険者になったが、あの時助けてくれた冒険者はどこにも居なくギルド受付嬢のアンリに聞いてみようと思ったが、そもそも九年前の冒険者の名前を聞いていないことに気づいた。
「本当馬鹿だよなあ、名前も聞いていなかったなんて」
一年前のことを思い出しながら深いため息を吐く。名前がわからない以上どうしようなかったが、アンリにこれまでで成功した守護騎士の冒険者を確認してもらったところS級とA級に一人ずついることがわかった。彼らのランクまで行くと長期の依頼が多いため帰ってくることは滅多にないらしい。なのでここ一年間で上位ランクの守護騎士に会うことがなかった。
「会うこともできないし、守護騎士ってだけでパーティも組んでもらえないから中々俺の冒険者生活がスタートしないんだよなあ」
冒険者になって今までパーティを組んでもらおうと色んな人に頼み込んだが守護騎士の職業を受け入れてくれるパーティは居なかった。
守護騎士は敵の攻撃を引きつけるスキルを主に身につけるが熟練度が高くなかったり防御力が魔物より低い場合は効かない。またいくら熟練度や防御力が高くても、高い知性を持つ魔物には効かずに剣士などの味方に攻撃がいくため無能な職業と言われている。守護騎士は大器晩成型であるため熟練度が上がれば上がるほど強さを発揮できる。しかし冒険者は高いランクになるのを急ぐため剣士は魔術師などといった、すぐに魔物を攻撃して倒すことのできる職業を好む者が多いため守護騎士などの大器晩成型の職業は不遇職とされていた。
「あの時の大楯の冒険者が言ってた茨の道ってこう言うことだったのか」
あの時大楯の冒険者は茨の道と言っていた意味を理解した。数多のパーティを断られ心が折れそうになった時もあるがあの時貰ったアドバイスの訓練は今も変わらず行っている。
「しかし熟練度が0なのになんで俺は固有スキルを獲得してるんだ?」
ダルクは自身の冒険者カードを眺めながら呟く。
名前:ダルク
職業:守護騎士(0/100)
固有スキル
1:背水の陣
自身の守護者の数に応じて、防御力が上昇する。
2:
3:
メインスキル
1:ヒットディレクション
周囲の魔物のヘイトを自分に向ける。
<職業選定>が終わり冒険者登録を行なった際に冒険者カードを貰って初めて自身のスキルや熟練度を確認することができる。ダルクが冒険者カードを貰いスキルの確認をしたところ固有スキルが既に獲得されている事に当時はとても驚いた。
「強い思いに応じてか、、、」
ダルクは神官のギャラや大楯の冒険者の言っていた固有スキル獲得の条件について思い出す。当時からあった思いは守護騎士になるという思いで訓練をしてきたがその思いと獲得したスキルの背水の陣の能力は違う様に思えた。
「もしかして<職業選定>が終わってなくても適正職業の固有スキルなら思いが強ければ覚えることができるのか?」
ダルクが固有スキルを獲得した可能性のある出来事はやはり魔物の襲撃があった日しかない。オークと対面した時に背後には妹のジャンヌが怯えていた。あの時は自分の命を捨ててジャンヌを守ることだけを考えていた。
「もしあの時の思いが[背水の陣]の固有スキルを獲得出来たとしたら辻褄が合う」
ダルクが深く考えながら歩いていると前から女の子と男の子数人の騒ぎ声が聞こえる。
「わた、しの、、、人形、、かえ、して」
「人形とばっかり話してるから根暗なんだよ」
「そもそも人形が喋るわけないじゃん」
「ほん、、、と、だも、、、ん」
髪の毛の長い女の子の竜の形をした人形を男の子達が取り上げている姿がダルクの視界に入ってきた。女の子は今にも泣きそうな声で呟いている。
「おいガキども、女の子には優しくしろって母さんに習わなかったか?」
ダルクは男の子達から人形を取り戻し、男の子達を払い退けて人形を女の子に返す。
「怪我とかはないか?全く最近のガキは下らないことをするもんだな」
「あの、、あり、、、がとう、、ござ、、い、ます」
「気にするな、それより一人で帰れるか?あのガキどもがまたちょっかいかけに来るかもしらないから送って行こうか?」
「だい、、じょう、、ぶ、です。いえ、、、が、、すぐ、そこ、、、なので」
女の子は所々どもりながらも、自分の意志を必死にダルクに伝える。
「そうか。もし何かあったら俺はその辺に良く居るから頼ってくれ」
「あり、、、がとう、、ござ、、い、ます」
女の子はお辞儀をしてその場を去って行った。
「ジャンヌと同い年ぐらいかな?ジャンナもあのぐらいお淑やかだったら年相応なんだろうけどなあ」
お転婆な妹のことを思い出し、少しホームシックになりながらもお婆さんの依頼の薬草を採取しに草原へと向かった。