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不人気職業クランの無自覚成り上がり  作者: 十六夜直哉
第一章 親愛と愛情を込めた人形への願い
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7 魔物

 森の方から全長二メートルの牛の魔物が速度を減速させることなくダルク達に突っ込んできた。


「とりあえず俺があの牛の魔物の突進を受け止めるから、あの牛が止まったらティアはノワールに魔力を流して炎を吐いて攻撃してくれ」


「わかりました!」


『初めてやるから加減を間違えるかもしれないから気をつけて』


 牛の魔物との距離が十メートルほどになり、ダルクが大楯で受け止めるタイミングが近くなり三人は息を飲んでいる。


「っっっっっく!」


 ダルクは大楯で牛の魔物を受け止めらために踏ん張っている。しかし牛の魔物の突進はダルクの大楯越しにも衝撃があり、少しでも気を緩めると体を吹っ飛ばされそうになるほど力強い。


「この魔物もしかして、、、」


 最初に比べてだいぶ足も減速し牛の魔物が静止する寸前まで止めることができているが、牛の魔物はそれでも足を止めることなく突き進もうとあがいている。


「ノワール、魔力を流すから炎のブレスお願い!」


『わかった』


「二人とも少し待ってくれ」


「どうしました?」


 ティアはノワールに糸を繋げて魔力を流しているタイミングでダルクの静止の言葉がかかった。


「この魔物に戦意も殺意も感じられない。しかもどちらかと言ったら何かに怯えている様な感じだ」


 本来魔物は殺意を持って人を襲い、食糧は武器などを奪って逃げていく。ダルクは殺意のある眼差しを九年前のあの日から良く知っている。ギリギリで牛の魔物を止めてはいるが少しでも気を許すと吹き飛ばされそうになる。


「あのぉ、ノワールに送った魔力を止めたいんですけど止め方がわからなくて、、、」


『魔力過多で暴発しそう』


「え?」


「すいませんすいません」


 ノワールの方を見ると体内から淡い光で輝いている。ノワールと魔力で繋げた糸を切れてはいるが、ノワールの光が収まることなく今にも爆発をしそうな勢いだった。


「それなら空か草原に撃って体内の魔力を放出するしかない!」


 ダルクがノワールに伝えた瞬間にノワールの口から炎のブレスというよりかは、火球が空に向かって放たれて大きな音と共に爆発した。

 爆発の音にびっくりしたのか牛の魔物は落ち着きを取り戻して周囲を見渡していた。


「良く見たらこの牛の魔物はバイソンじゃないか」


 バイソンは草を好んで食べているため草原のある場所に群れで居ることが多い。村によってはバイソンを狩り貴重なタンパク質として食べている。


「群れで行動もせずに人を襲うことなんて本来ありえ無い魔物なんだけどな」


 ダルクも故郷のオルレ村で暮らしていたときは、バイソンを狩っては食べたり干し肉にして冬を過ごしていた。


『別の魔物に襲われて逃げていたら群れからはぐれたのかもしれないな』


 魔物の世界も弱肉強食なので捕食される側になり群れで死に物狂いで逃げ回ってた時にはぐれて突っ込んで来たのだろうとダルク達は考えた。


「そういえば二人ともケガは無いか?」


「私は大丈夫なんですけど、ノワールが少し壊れていないか心配です」


 ノワールは魔法の術式を体内に組み込んでいるため、膨大な魔力を流してしまうと魔法の術式が許容範囲を超えて爆発してしまう可能性がある。そのため先程はティアが無尽蔵に魔力を流してしまったため、ノワールに組み込まれている術式が暴発して壊れていた可能性があった。


『特に問題はなさそうだよ』


 ノワールは羽をパタつかせてティアの周囲を飛んでアピールをしている。

 ダルクは落ち着かせたバイソンに来た方向を指で差してバイソンを誘導して逃した。


『あいつ倒せば肉とかが取れて金になったのに逃して良いのか?』


「食べるために殺したり殺意を持って襲われたりする以外で無闇に殺傷はしたくないんだ」


『魔物は人を襲うのにか?』


「一般的にはそうかもしれないけど俺は魔物を倒す職業ではなく、護る職業だから殺意の無い生き物を殺すことはできないよ」


「私も魔物は苦手だけど、意味のない殺傷はしたくないです」


『まあ、二人がそれで良いならいいけど』


 二人の意見に少し納得のいかない様子だったがしぶしぶ無闇に殺傷はしないスタンスにノワールは同意をした。


「とりあえず採取依頼の薬草の確認をアンリさんにしてもらうために冒険者ギルドに戻ろうか」


 二人と一匹はバイソンが完全に視界から見えなくなるのを確認してからラフバンスの冒険者ギルドに向かった。





 冒険者ギルドに到着すると受付に色んな冒険者が報告をして賑わっていた。受付嬢達はパーティの代表のみが報告をするようお願いして混んでいた受付には数人だけが残り受付嬢が各自対応をしていた。


「時間がかかりそうだしご飯でも先に食べようか」


「もうお腹ぺこぺこです!」


『俺は食事はいらないけど少し疲れたから寝てようかな』


 ノワールはティアのスキルの空間収納(インベントリ)に入っていき心身を休めに行った。


空間収納(インベントリ)に入ったノワールって勝手に出て来れたりするの?」


「出たり入ったりはできるみたいですよ」


 空間収納(インベントリ)内がどんな風になっているかはわからないが自在に出入りできるならとんでもなく便利なスキルだ。そもそも冒険者にとって持ち物が多いとそれだけで進行速度が遅くなり撤退する時の判断を鈍らせることになる。無茶な冒険者は使ったアイテムの消費量と進行速度の状況からマイナスの場合無理にでも利益を取るために撤退のタイミングを誤り死んでしまう場合が多い。そのため荷物にならない空間収納(インベントリ)のスキルは破格の性能だ。


「多分人形師をパーティに入れる人や人形師の職業のまま熟練度を上げる人が居なかったから空間収納(インベントリ)のスキルを知らない人が多いんだろうな」


 二人は食堂の席に着き少し遅めのご飯を食べてから今日一日の反省などを終えて受付に向かう。


「あれ、ダルクさん達も依頼終わったんですか?」


「もう少し魔物との戦闘慣れをしたかったんですけど想定外のことが起きて早めに戻ってきました」


「想定外のことですか?」


「はい。普段群れで行動をしているバイソンが一匹で行動していまして我を忘れた感じで突っ込んできたんです」


「え、ダルクさん達もですか!?」


「もしかして他の冒険者も襲われたんですか?」


「はい。他の冒険者はバイソンではなく森深くに住んでいるシャドウウルフや群れで狩りを行うエコロラビットに襲われたみたいです」


 森深くに住むシャドウウルフは強いオス数匹が各群れを率いて狩りを行うことを得意とする魔物で暗闇に潜むため草原などには出てくるのはほとんどない。

 それに比べてエコロラビットは草原エリアに良く群れで移動しているが特に害があるわけではなく、エコロラビット同士がある一定の範囲内なら周波で会話を出来ると言われている魔物だ。


「シャドウウルフは群れによっては仲間を攻撃した相手を襲う性質があるって本に書いてあったので、もしかしたら冒険者がシャドウウルフにちょっかいを掛けて森から逃げてきた所をシャドウウルフが追いかけてきた可能性もありますよね。それでもエコロラビットが人を襲うのは聞いたことがないですけど」


 ダルクは冒険者になって約一年もの間に冒険者ギルドにある資料室の魔物に関する本を読んでいるため魔物の性質や特徴を覚えている。


「他にもあるんですけど、それらの異様な魔物の行動に関する報告が相次いでてさっきまで大変だったんですよ」


 アンリは先ほどのことを思い出したのか嫌そうな顔をしながらため息を漏らした。


「二人ともケガとかは大丈夫でした?」


「はい。俺もティアちゃんもケガはなかったです」


「ティアちゃんも無理せず、疲れたりしたらダルクさんにちゃんと言わないとダメだからね?」


「・・・はい」


 ティアはまだアンリと話すのが少し緊張してしまうのか、ダルクの後ろに隠れて照れながら返事をした。


「はぐれのバイソンはどうしましたか?」


「殺意もなく何かに怯えて突っ込んできたみたいなんで、冷静にさせて来た道を帰るように誘導しました」


「バイソンは村によっては食用になるので無闇な殺傷をしないで下さったのは助かります」


「でもあのバイソンは何に怯えていたんだろう、、、」


「色んな冒険者からの報告で森に異変があると考えられるので一週間ほどC級冒険者が調査に向かうので、調査が終わるまで危険なので森には近づかないようにしてください」


 ラフバンス周辺の魔物のランクはD級からE級までしか生息してないため、冒険者ギルドとしてはC級冒険者なら特に怪我や死ぬこともなく調査できると判断したのだろう。


「わかりました。しばらくは草原にいる魔物や採取依頼をして慣れるようにします。ティアちゃんはそれでも良い?」


「私はそれで大丈夫です。これから依頼を受ける時間を昼過ぎからにしてもらいたんですけど良いですか?」


「俺は全然良いけどどうしたの急に?」


「ノワールに魔力を流すのが上手く行かなかったのでお婆ちゃんにコツとか聞いて練習しようかと思いまして、、、」


「今日のことは気にしなくても良いのに」


「いえ!このままだと足を引っ張ってしまって、ノワールにお兄さんにも悪いので!」


「わかった。なら昼ごろに薬屋のお婆さんの家に迎えに行くね」


「ありがとうございます!」


 さまざまなハプニングに襲われながらも初めての依頼を無事に終わり、<職業選定>から役一年経ってからダルクの冒険者生活が始まった。

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