1 冒険者
オルレ村では年に一度、村で育てた食材をみんなで分かち合い祭りを行う収穫祭があった。今日がその収穫祭の日で俺と五歳になる妹や村中の子供たちも楽しみにしていた。
しかし俺が七歳になった年の収穫祭はモンスターに襲われ阿鼻叫喚となり恐怖に満ち溢れていた。作物を植えていた花壇は壊され、家や倉庫などの建物も崩れ落ちて、村の人々は必死に逃げ回っている。
村の若い男達はゴブリンやオークなどを討ち取ろうと武器を持ち戦うが、普通の人間が簡単にモンスターに勝てるわけもなく一人、そしてまた一人と殺されていく。
俺と妹も両親に助けられて、街に行き助けを求めるために村の外へ必死に走る。
しかし小さな子供達の走る歩幅よりモンスターの追いかけてくる速度の方が断然早くすぐに追いつかれてしまう。やがて七歳になる少年ダルクと妹のジャンヌの目の前にゴブリン数匹とオークが追いつく。
「兄ちゃんがジャンヌのこと絶対に守ってやるから目をつぶっていろ」
「お兄ちゃん、、、、」
妹のジャンヌは震えながら俺の腕を震えがながら掴み目を閉じる。目の前にはオークとダルクの周囲には五匹のゴブリンが包囲している。
「母さんと父さんとジャンヌを守るって約束したんだ、、、だから絶対に兄ちゃんが命に賭けても守るからな」
両親がダルク達を逃すために犠牲になり、護身用として持たせていたナイフをオークに向ける。
「子供二匹程度じゃ腹の足しにもならねぇがさっさと殺して喰うとするか。じゃあなガキども」
オークのドスのきいた低い声が静寂の森の中に響き渡り、ダルクに右手に持っていた木の棍棒を振う。
「小さい子供相手に、それは酷いんじゃないか?」
オークの棍棒がダルクの頭に落ちていく刹那に、黒い大楯を両手に持った男がダルクとジャンヌの前に素早い速度で現れてオークの棍棒を弾き飛ばす。
「妹を守るために自分より二回りもデカいモンスターに良く立ち向かったな」
大楯を持った男は驚きながらもダルクに向かいつぶやいた。
「何者だ?」
「お前らモンスターを狩る冒険者だ」
「俺達を狩ると言いながら殺傷能力のある武器も持たずに大楯二つを持ってどうやって俺を倒すんだ?しかもたったの一人で」
オークの言う通り冒険者と名乗った男はナイフや刀を持っているわけでもなくそれぞれの手に大楯を持っているため、オークを倒す手段があるとは思えないとダルクも思っていた。
「確かに大楯ではお前らを倒すことは出来ないが、逆にお前らも俺を倒すことはできないだろ?」
「たった一人で俺達の猛攻をそこのガキどもを守りながら出来ると思っているのか?」
「やらるものならやってみな!」
その言葉を合図にオークとゴブリン数匹の攻撃が始まった。しかしダルクとジャンヌを守りながら戦っているはずなのに大楯の男は、ほぼ無傷でオーク達の攻撃をすべて受け切りながら守っていた。
「なら全方位から一斉にガキどもを狙えば流石のお前一人では守りきれないだろう」
再びオーク達に囲まれてゴブリン達が一斉にダルクとジャンナの二人に襲い掛かる。
「ヒットディレクション!」
大楯の男が大声で叫んだ瞬間にダルク達の方に向いていたゴブリン達の攻撃の矛先が再び大楯の男の方に向いて攻撃をし始める。
「お前らの相手をしているのは俺だぞ!」
「なぜだ!なぜ攻撃の方向が勝手に変更される!」
「お前らの敵意を、全て俺の方に向けさせるスキルだからさ」
「ならお前を全方位から叩けばすぐ終わる」
オークがそう言いゴブリン達は大楯の男の背後から攻撃を仕掛けて、オークは真っ正面から大楯に向かって攻撃を同時に仕掛ける。
「お前らが生きていたらの話だけどな」
大楯の男がそう言った瞬間にオークとゴブリン達の頭が切断され地面に落ちていき、オークの死体の近くに小柄な女の子が立っていた。
「リーダー、勝手に先走って突っ込まないで下さいよ〜」
「助かったよ。俺一人だと決着のつかない泥試合を一生続けていくことになってたからな」
「でも、この子たちが助かったなら良かったですよ」
「あの、助けていただいてありがとうございます。そういえばまだ俺達の村の方にもモンスターがいるんです」
「安心してくれ、オルレ村の方のモンスターも退治した。君達の両親も無事だ」
「本当だから安心してくれ。俺の仲間達が倒して村はもう安全だから、村まで俺達が送り届けよう」
「あ、ありがとうございます」
ダルクとジャンヌは肩を震わせながら大泣きをして、泣き止んでからは安心したのか大楯の冒険者の背中で眠りオルレ村のダルクの両親の元まで送り届けられた。