頭髪のお話
数年前の夏、髪を洗っていた時のことです。
ふと気がつくと、てのひらにずいぶんたくさんの抜け毛がついていました。
『あれ、いつもこんなに抜けてたっけ?』
そう思って風呂上りに鏡を見て、愕然としました。
えっ? ナニコレ!?
自分は若い頃から白髪は多かったものの、毛量はむしろ多すぎるくらいです。それなのに、濡れてボリュームの減った髪の下に見える地肌の面積が明らかに増えています。
──まずいマズイまずい!
これ、相当にヤバい状態なんじゃね!?
改めて髪を乾かしてから見ても、明らかに毛量が減っているのが確認できます。
これは、一刻も早く手を打たねば、手遅れになってしまいかねないぞ!
さあ、そこからは必死です。
亜鉛がいいと聞いてはサプリを取り、食事にも気を遣い、シャンプーも髪に良いとされるものに変え、育毛剤・養毛剤も何種類か試しました。
──ええ、一時期よくCMで見たヒヨコの成分云々のアレも試しましたとも!
そして三か月ほどが過ぎ、嵐は治まりました。
抜け毛が減り、細い毛が少しずつ生え始め、徐々に髪のボリュームが戻ってきました。
あれは、一時的に体調が乱れたか何かだったのでしょうか。
抜け毛が急に増えた原因はわかりませんでしたし、結局どれが効いたのかもわかりません。何しろ、同時に色々と試しましたからね。
今ではその頃のことを笑い話に出来るくらい、すっかり元通りになりました。
ただひとつだけ、とても大きな懸念が残ってしまったのです。
──この騒動の少し前にかなり多忙な時期があり、自分と嫁はパスポートの有効期限をすっかり忘れていて失効させてしまいました。そこで、パスポートの再発行を余儀なくされてしまったのです。
しかも、よりにもよって最も毛量が減少している最悪のタイミングで──。
今、改めてパスポートの写真を見てみると、どう見ても今の自分とは別人です。
コロナによる渡航制限もほとんどなくなりましたが、もし海外旅行に行くことがあっても、まず間違いなく渡航先の入国審査で本人かどうか怪しまれるでしょう。ただでさえ、西洋人には東洋人の顔の見分けがつきにくいそうですしね……。
もし入国管理官に『髪の量が全く違うじゃないか。これは本当にお前なのか?』とか詰問されたら、どう答えるのがいいんでしょうか。
ニヤリと笑って頭を指差し、『いっつぁ ぱーふぇくと うぃっぐ!』とか言ったら、笑って通してくれるような気もするんですけどね。
他に何かいいアイデアがある方は、ぜひ教えてくださいませ。




