海老カツサンドが食べたい
海老カツサンドが食べたい。
そう思ったのは昼休み前、四限の数学2の授業の事である。
Aの式を微分した時とBの式を積分した時の解は同じである。
なんて事を数学教師が言っていたらあら不思議A、B、微分、積分、海老カツサンドが連想された次第である。とどのつまり無理矢理当てはめる程の空腹なのだ。
海老はおいしい。
そのまま刺身にしても甘くてプリプリ。
焼いて醤油を垂らしても塩気とプリプリの弾力がベストバランス。
エビチリにすれば油通しされた身と、辛くてほのかに甘いチリソースとの相性が至高の領域に辿り着く。
海老フライにすればもう、ただただタルタルソースという底無し沼に沈むのみである。
だが今回は敢えて変化球、海老カツサンドを食べたい。
海老カツという、海老フライとは似て非なる揚げ物。
それをパンで挟んだ軽食と主食の狭間にいるかの様な、決して毎日食べないが、時々無性に食べたくなるこの一品を、今日は食べるのだ。
早速頂こう。
先ずはそのビジュアルをとくと楽しむ。
パンは今回はいわゆるのゴマバンズだ。
しかし形状は四角。コレは海老カツという、ハムカツに次いで『四角いフライ』という姿が似合う一品に合わせている故だ。
して、下からキャベツ。オーロラソース。そして、二つにカットされた切れ目からそっと楽園を覗く様に断面をこちらに向ければ、火の通った赤いプリプリの海老の身が、幾つも輝いている。
一つ持ち、かぶりつく。柔らかいバンズの歯触りから、一気にサクッとした衣の歯触り、そして押し寄せるは、沢山の海老のプリプリとした食感、甘さ、そこへオーロラソースの爽やかな酸味と、千切りキャベツのフレッシュさが後味を穏やかにしてくれるのだ。
揚げ物なのに、食べ終わりのくどさが無い。
気付けば直ぐに二口目だ。
今度ら海老カツが多めに入る様に齧りつこう。
さっきは海老の風味だけに夢中だったが、海老カツはその身をまとめ上げる為に、魚のすり身、はんぺん等に使われる白身魚のすり身も混ぜ合わされている。そう。海老のともすれば火が入った際の淡白な旨味に、しっとりとした舌触りをすり身達は与えてくれるのだ。
三口目。
オーロラソースのまろやかさも良い。
海老フライにこそタルタルであるが、海老カツサンドにはオーロラソースを是非推したい。ご飯にはタルタルのコッテリ味。しかしパンという調理された主食には、ケチャップの微かな酸味が口の中でカツとガッチリ握手させてくれる。
四口目。
キャベツが本当にありがたい。
全く飽きずに食べ進めるられているのは、紛れもなくキャベツの功績だろう。
その繊維質は、どうあっても口の中で最後に残る。だがそのサッパリとした食物繊維こそが、口の中の油分を絡め取り、後味をスッキリさせてくれる。もう一口と、誘わせてもらえるんだ。
…あと一口。コレでもう一片が終わる。
残るはもう一片。既に折り返し地点に差し掛かってしまった。
だが、だが違う。
Aという一片を
バンズ
海老カツ
オーロラソース
キャベツ
と微分していき、それぞれの良さを深く知る事が出来たのであれば。
「一気に……食らい進めるッ!」
Bという一片に
バンズ
バンズ海老カツ
バンズ海老カツオーロラソース
バンズ海老カツオーロラソースキャベツ
と積分していけば、纏まった良さをまた、知る事が出来る。
それぞれを分けても
それぞれを重ねても
きっとその旨さの解は………同じなんだ。
「海老カツサンド……あっ………た…?」
【品名 海老フライサンド
材料 食パン
海老フライ
タルタルソース
レタス】
式が…そもそも違う!!
終わり
何か食べたい
そう思ったのはいつの日の事だろうか。
とんかつ
ペペロンチーノ
ムースロー
カレーうどん
海老カツサンド
どれも、どれも美味しい
肉も
魚も
炭水化物も
全て、口の中に入れば、旨みと旨味がいっぱいに広がって、幸せをもたらしてくれる。
ああ、何か食べたい。
あの頃は、食べられるだけで、想像するだけで、お腹が減って、だけど食べられなくて。
それすらも、幸せだった。
「………コールサインチャーリー、建物内へと進入した」
『確認。警戒しつつ、指定されたルートを通り、目標地点へと進め』
「了解」
走ろう。その道を。
この道は、良く知っている。
最短距離での辿り着き方も。
「此方チャーリー、現着。内部状況を確認………敵性生命体反応、総数、5」
『確認。各個撃破し、目標を奪取せよ』
「了解」
人で溢れ返っていたその場所も。
今はもう、【人】は無く。
《ぐぅあぁぁあおおぇぇああ》
照準。
発砲。
眉間を正確に、脳髄を撃ち抜く。
《おおぃええぅぅ》
《ああぇええいぉぉ》
二体目、三体目も同様に。
《うぇぇうぅぅぃあぅあぅおお》
四体目は、少し脚が速い。
冷静にバックステップで距離を取り、サイドステップで横っ飛びに跳躍しながら、顳顬から脳髄を撃ち抜こう。
そして。
《おぉうぅいいあえぇおおお》
「………」
最後に着地後の僅かな隙を襲って来た、一体。
足払いで転倒させ、ナイフを抜刀。
頸椎を、一刺し。
最後に。
《……あぅあお》
「もう……売り切れですよね」
拳銃を抜き、一発で鎮めた。
「此方チャーリー。状況終了。目標物の食糧の確保に成功」
『確認。補助部隊が間も無く現着。引き続き警戒を怠らず、回収の効率化の準備に当たれ』
「了解」
何か食べたい。
とんかつでも、ペペロンチーノでも、ムースローでも、カレーうどんでも、海老カツサンドでも、何でも食べたい。
「最後まで、ココで食べたいモノは、食べられなかったな」
終わり