3 なりたいものは
「観月さ」
「なんですか、兄さん」
「透子に婚約破棄されたとき、味方してくれてありがとう」
大事なことを言い忘れていた。婚約者のフリをするというのも、観月が透子の仕打ちに憤ったから言い出してくれたことだ。
透子に冷たく婚約を破棄すると言われたときはつらかったけれど、観月がいるおかげで救われた面は大きい。
観月は柔らかい笑みを浮かべた。
「そんなこと、いいんですよ。だって……わたしたちは兄妹なんですから。兄さんのためにわたしができることをするのは当然です」
「でも、俺は観月に何もしてあげられていないよ」
「いいえ。兄さんは……初めて会ったときから今まで、わたしに大切なものをいっぱいくれましたから」
「そうかな」
「そうですよ。初めて会ったとき、兄さんがわたしを『妹』だって言ってくれて嬉しかったんです。わたしには家族なんていないも同然でしたから」
幼い頃の観月は、実家で虐待に近い扱いを受けていたらしい。観月が祝園寺本家に引き取られて、本当に良かったと思う。
和樹も父も、観月の家族として十分なことができているかは自信がない。ただ、少なくとも、冷たく扱ったりはしていないはずだ。
引き取られた直後はいつもおどおどしていた観月も、今ではすっかり明るくなった。
そういう意味では、和樹もちゃんと兄の役割を果たせているのかもしれない。
「でも、妹ってだけではダメだなって思ったんです」
「え?」
「それでは兄さんに恩返しできないですから」
「恩返しなんてしなくていいよ。観月が妹でいてくれるだけで、俺は十分嬉しいし」
和樹がそう言うと、観月はちょっと頬を赤くして、ふふっと嬉しそうに笑った。
「わたしみたいな美少女が妹だと嬉しいですか」
「美少女だから、というより観月だから嬉しいんだよ」
観月は目を瞬かせ、恥ずかしそうにした。
「そ、そういう気恥ずかしいこと、平気で言えちゃうんですね。でも……兄さんのそういうところ、わたしは好きですよ」
観月はそう言うと、照れ隠しのようにふたたび箸を動かしはじめた。
和樹も冷めないうちに麻婆豆腐を食べてしまおうと思う。
ただ……観月は自分のことをどう思っているのか、ますますわからなくなった。
観月は和樹にとっての妹以外の存在になりたいらしい。和樹は観月を妹のままにしておきたい。
二人の思惑は正反対だ。
それなのに……観月は妹なのに、婚約者のフリなんてしても大丈夫だろうか?
和樹は結論が出せなかった。
けれど、観月は本気で和樹の婚約者のフリをしようと思っていることを、思い知らされることになる。
<あとがき>
次回、観月が和樹に迫る……!
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