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40 二番目の女の子

 いくら葵が自分の奴隷になるといっても、解放すると裏切るのではないか、と和樹は心配になった。

 このまま拘束しておいて、後で助けに戻れば良いような気もしたが、葵は「それだけは嫌!」と懇願した。


 よほど男たちに襲われそうになったことがトラウマだったのだろう。


 かといって、連れて行ってちゃんとこちら側の味方になるかどうか?

 兄にひどい目に合されそうになったわけだから、復讐のために仲間になるかもしれないが、しかし、和樹たちについていけば奴隷にされるわけでもある。


 エミリアがぽんと手を打つ。


「それなら、白川家の禁術を使いましょう」


「な、なにそれ……?」


「魔術の一種ですが、人に奴隷の紋を刻んで絶対服従させるんです。命令に逆らうことは魔術の力でできなくなります」


「そ、そんな術あるの?」


「白川家らしいでしょう? 姉さんに使っちゃいましょう」


 エミリアは平然とした様子で言う。観月や西桜木の姉妹も若干引いているが、エミリアは気にしていないようだった。

 葵は怯えた表情で、エミリアを見上げる。


「ね、ねえ、それはさすがに……」


「奴隷になるんですよね」


 エミリアは容赦なしに、魔術を行使した。


「きゃああああっ」


 葵が悲鳴を上げ、その身体が光に包まれる。その直後、葵の胸の谷間には赤い模様が浮かんでいた。

 これが奴隷の紋章ということなんだろう。まるで葵の胸の大きさを強調するようだ。


「ううっ……こ、これで、あたし、祝園寺くんに逆らえない……」


「和樹様、でしょ? 姉さん♪」


 エミリアが楽しそうに言う。

 

 とりあえず、和樹は葵の鎖を外した。素肌に触れることになり、どきりとする。

 それは葵も同じようで、恥じらうように目を閉じていた。


 拘束を解くと、葵はぐったりと倒れ込んだ。気力も体力もかなり使ったのだろう。

 そんな葵に、和樹は上着を渡した。


「ほら」


「着ていいの?」


「俺が目のやり場に困るから」


「優しいのね……和樹様は」


 葵は自然と「和樹様」と口にした。早くも奴隷であることに馴染みつつあるらしい。

 

 観月が咳払いをした。

 

「さてと、透子さんたちを助けに行きましょう! あと少しのはずです」


 地下牢は地下一階と地下二階に分かれていて、地下一階には透子たちはいなかった。なら、地下二階に透子たちはいるはずだ。


 すぐに階段を降りて、和樹たちは意外にもあっさりと透子と朱里の二人を見つけた。

 牢の扉をすぐに魔力でこじ開ける。

 

「和樹……!」


 透子が目を大きく見開いて、和樹の名前を呼ぶ。透子は、さっきまでの葵と同じように、全裸で足枷をつけられ、手を上げる形で拘束されていた。


 そのきれいな瞳からぽろぽろと涙がこぼれる。


「遅いよ……和樹」


 一瞬、和樹はひやりとする。


(もしかして、間に合わなくて、すでに白川家の男たちにひどいことを……されたのか!?)


 けれど、透子は和樹の心配に慌てて首を横に振った。


「わ、私は何もされていないわ! 安心して」


「よ、良かったよ……」


「私の初めては、絶対に和樹に上げるつもりだもの。ね?」


 透子は甘えるように和樹を見上げた。裸の身体を隠そうともしなかった。

 手足を拘束されているから、隠すことは物理的に不可能だ。


 けれど、透子は恥じらいながらも、むしろ見せつけて和樹を誘うようですらあった。


「絶対に観月から和樹を取り戻してみせるんだから。今は、二番目に抱かれる女の子でもいいから……」


 和樹は透子の拘束を外しながら、心の中で困ってしまう。実は桜子とエミリアを抱いているので、透子はエッチをした順番で言えば、これからしたとしても、すでに四番目だ。


 もっとも、和樹にとって、大事な女の子という意味では、たしかに二番目かもしれない。かつて和樹の婚約者であったし、和樹は透子のことを好きだったから。


「ねえ、あたしもいるんだけどな」


 透子の隣の朱里が苦笑するように言う。美人女子大生の彼女も、素っ裸で和樹としては反応に困る。

 こちらは西桜木家の香織が鎖を外していた。どうやら二人は知り合いらしい。そういえば、同じ国立の洛北大学の一回生だった。


 二人の服はすぐそばに置いてあったので、二人は急いでその服を身に着けようとした。


「あたしの着替え、見ててもいいよ」


 朱里が真っ赤で派手なブラジャーを身に着けながら、そんなことを言う。

 思わず和樹は振り返りそうになり、我慢したが、朱里はくすくすと笑っていた。


「あたしも和樹くんの子供がほしいもの」


「単に霊力の強い血がほしいなら、白川家の嫡男でも条件は満たす気がしますけど……」


「あたしも無理やりされるのは嫌なの。白川なんかの男よりも、君の方が優しそうだしね」


 朱里は柔らかい声で言い、透子は「和樹としていいのは、私と観月だけです!」なんて言う。

 エミリアが居心地悪そうにもぞもぞとしている。エミリアもすでに和樹と子作りしたと聞いたら、透子はどう思うだろう?と和樹は心配になった。


 西桜木の姉妹は、こういう話題に耐性がないのか、顔を赤くしている。


 とはいえ、今はそれどころではない。すぐに朱里が「着替え終わったわ」と告げた。そして、和樹たちの正面に来たが、朱里が着ているのは下着だけだった。

 そのスタイル抜群の身体を和樹の目にさらしている。


「あ、朱里さん……」


「上着までちゃんと着ている時間はないでしょ? 結子さんが危ないし……」


 聞けば、白川の嫡男は結子だけ部屋へと連れていき、最初の犠牲に供するつもりらしい。透子によれば、連れ去られてからそれほど時間は経っていないから、結子もまだ無事かもしれない。

 結子を救出して、白川家を脱出すれば、計画はすべて完了。


 そう。そのはずだった。

 この時点では、さらなる大きな問題が起こるとは、和樹たちの誰も想像していなかったのだ。




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