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36 西桜木のお嬢様たちもハーレムに!?

 西桜木家から派遣されてきたのは、当主の姪の姉妹二人とその部下の魔術師の女性たちだった。

 姉の西桜木香織は京都市内の名門大学・国立洛北大学の一回生で、妹の詩音は和樹たちと同じ学校の二年生。先輩だ。


 どちらも黒髪をつややかに伸ばした美人・美少女だが、姉は気が強そうなのに対し、妹はおとなしそうだった。

 二人は、古い時代からの伝統の白と赤の巫女装束を着ている。可憐で華やかな見た目だ。


 東三条の屋敷の応接間で、香織は和樹たちを蔑んだように眺めた。

 

「東三条の家も落ちぶれたものですね。自分の家の当主を殺され、元女主人と嫡女もさらわれてしまい、後には誰も残っていないのですから」


「や、やめなよ。お姉ちゃん……」


 東三条家を厳しく批判する姉に対し、妹の詩音は慌ててその服の袖を引っ張った。

 やっぱり二人の姉妹は性格がかなり違うようだ。


 いずれにしても、ここには東三条家の主要メンバーはいない。

 残っているのは、和樹・観月の祝園寺家組と、東三条家では冷遇されていた桜子、それに白川家のエミリアなわけだ。


 香織がどれだけ東三条家を批判しようと、和樹たちは直接の当事者ではない。

 ただ、和樹は東三条家の後見人になっているから、まったくの無関係ではない。


 しかも、香織の矛先は祝園寺家に向かった。


「これは祝園寺のせいでもあります。みすみす白川に結子さんをさらわれてしまうなんて……彼女にもし何かあったら、西桜木の面子は丸つぶれです。祝園寺の嫡男がもっとしっかりしていれば良かったんですけど。作戦でも、せいぜい足手まといにならないでくださいね?」


 結子はもともと西桜木家の娘で、東三条家の正妻として嫁いだのだった。その結子を白川家の慰み者とされれば、たまったものではないということだろう。


 何を言われても、和樹たちが無力なのは事実なので黙っていた。ただ、観月や桜子は不満そうだった。


「兄さんのことを悪く言うなんて……」


 観月が小声でつぶやく。和樹は苦笑して「まあまあ」となだめた。ともかく危険を知っていても、西桜木家は協力してくれる。

 それだけでもありがたい。彼女たちの力があれば、白川家攻略の心強い仲間になるだろう。


 と和樹は思っていたのだが――。





「いやあああああっ、だ、誰か……助けて!」


「姉さん! あっ、放して……ダメっ!」


 スマホのイヤホンの向こうから聞こえてきたのは香織と詩音たち複数の女性の悲鳴だった。


 作戦としては、西桜木の姉妹たちが正門から白川家の屋敷を急襲。白川家の主力が出てきた隙に、和樹たち祝園寺組が裏門側から屋敷奥へと踏み込んで、透子たちを奪還する予定だった。


 西桜木家に主力と戦ってもらうのは、多少不安だったし申し訳無さもあったが、なにせ西桜木家には人数がいる。部下の魔術師女性も五人はいた。西桜木香織も自信満々のようだった。


 一方、和樹の側には観月とエミリアしかいない。桜子は戦えないので、本人は残念そうにしていたけれど、留守番だ。

 ちなみに捕らえた白川家の男たちは、西桜木の別の人間たちで連れ去られていった。今後拷問されるのかもしれないが、和樹たちの知ったことではない。


 ということで、和樹たちは別働隊として、西桜木香織たちと連絡を取りながら行動していたのだが――。


「西桜木の人たち、もう負けちゃったんですか!?」


 観月が愕然としたように言う。

 白川家の戦力は予想よりも遥かに強かったようだ。

 

 あれほど自信たっぷりだった香織があっさり負けるとは予想外だったけれど。

 美人女性揃いの西桜木家の面々は白川家の男たちの格好の餌食になりかけているようだ


「どうしますか? 兄さん。あの人達を見捨てることもできます。その方が作戦の成功率は上がるかもしれません」


 このまま透子を助けに直行すれば、たしかに助け出せる可能性は高くなる。反対に、和樹が西桜木家の女性陣を救いに行けば、負けてしまうかもしれない。


 それでも――。


「西桜木は俺たちを助けに来てくれた。見捨てるわけにはいかないよ」


「そうですよね。それでこそわたしの兄さんです」

 

 観月は嬉しそうにうなずいた。

 そのまま和樹たちはすぐに正門へと引き換えした。


 仰々しい黒塗りの正門の内側では、香織・詩音たち巫女服の女性が組み敷かれていた。

 香織の巫女服はぼろぼろに引き裂かれ、詩音はすっかり服を剥ぎ取られていた。


「や、やめてください……私、初めてなの……」


 香織はほぼ全裸で、蛙のような惨めな格好で懇願していた。東三条での威勢はどこにもなく、しおらしくなってしまっている。だが、もちろん男たちは言うことを聞くつもりはなかったらしい。


 耐えるように、香織がぎゅっと目をつぶった。そのままだったから、香織たちは無事ではいられなかっただろう。


 けれど――。


 和樹が数発霊力の弾丸を放つと、男たちは「ぎゃあああああっ」と悲鳴を上げて、ばたばたと倒れた。


 目を開いた香織が、呆然と和樹を見つめている。詩音たちは「た、助かりました……」とつぶやきながら、涙を流していた。


「立てますか? 西桜木さん」


「え、ええ……」


 和樹が手を差し伸べると、香織は少しためらってからその手を握り返した。


「ありがとう。ううっ」


 ぐすっと泣き出してしまう。香織は強気そうだったけれど、まだ19歳なわけで、年相応に弱い部分もあるみたいだった。

 しばらくして落ち着くと、香織はじっと和樹を見つめた。


「その……さっきは祝園寺くんにひどいことを言って、ごめんなさい。足手まといになったのは私の方ね……」


「いいんですよ。悪いのはすべて白川家です。それより、その……」


 和樹は迷ってから上着を差し出した。香織は小首をかしげ、それからみるみる顔を赤くした。

 香織の服はほとんど破られて、全裸に近い状態だった。その美しい体を男の和樹にさらしてしまっている。

 ひったくるように、香織は和樹の上着を奪うと、ジト目で和樹を睨んだ。


「見た?」


「その……まあ、見てしまいました」


「ふうん……責任、とってよね」


「え?」


「な、なんでもないんだから! 行きましょう!」


 香織は顔を真っ赤にして、恥じらいながらあるき出す。上着だけではすべてを隠しきれていなくて、特に下半身は白く細い脚のほとんどが見えてしまっている。

 それがかえって扇情的で、和樹は目をそらした。


「姉さんは素直じゃないの。許してあげて。あと、ありがとうね。祝園寺くん」


 後ろを振り返ると、詩音が立っていて、微笑んでいた。詩音はいつのまにか巫女服を着直していた。香織の巫女服と違って、脱がされただけでなんとか使える状態らしい。


 ただ、それでも胸元のあたりが破られていて、胸の上半分がかなり大胆に露出していた。

 目のやり場に困る。あと、香織よりも詩音のほうが胸は大きい、なんてことも考えてしまう。


 和樹は余計な考えを振り払い、詩音に言う。 


「西桜木先輩も大丈夫ですか?」


「し、詩音でいいよ? 西桜木は二人いるからややこしいでしょ?」


「じゃ、じゃあ詩音先輩?」


 詩音は少し頬を赤くして、恥ずかしそうにした。


「じゃあ、わ、わたしも和樹くんって呼んでいいかな?」


「い、いいですけど……」


「和樹くんって、見た目、かっこいいよね。さっきもすごく強かったし……。わたし、タイプかも」


 詩音はそう言って微笑んだ。









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