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31 桜子の願い

 わたしは――東三条桜子は、ずっと「いらない子」だった。

 魔術の名門・東三条家に生まれたのに、わたしは魔術の才能で劣っていて、お父様からは疎んじられていた。


 お母様は優しかったけれど、三つ年上の透子お姉ちゃんの方を大事にしているのは明らかだった。

 透子お姉ちゃんは美人で、頭も良くて、魔術の才能に恵まれていて……。お姉ちゃんはわたしのことを可愛がってくれたけれど、わたしはいつもお姉ちゃんに劣等感を持っていた。


 13歳のわたしは、お姉ちゃんの劣化版でしかなくて、誰もわたしを一番大事にしてくれることはなかった。


 わたしには何の取り柄もない。

 そんなわたしには、初恋の人がいた。


 透子お姉ちゃんの婚約者の祝園寺和樹先輩だ。

 和樹先輩はわたしよりも魔術が使えない。魔術の才能のもと、霊力がまったくないから。


 でも、そんな和樹先輩はみんなから好かれていた。お姉ちゃんはツンデレなだけで、内心では和樹先輩のことを大好きなみたいだったし、先輩の義妹の観月さん(観月お姉ちゃんとは心の中では呼ばない)も異性として和樹先輩に好意を持っているみたいだった。


 そんな和樹先輩は、わたしにもとっても優しくて……魔術が使えないという共通点があるからか、わたしと和樹先輩はいつしか仲良しになっていた。

 

 和樹お兄ちゃん、なんて、わたしは先輩のことを呼んで、甘えてしまう。わたしには本当はそんな資格はないのに。

 

 わたしは和樹先輩の……和樹お兄ちゃんの妹でもなければ婚約者でもない。それでも、わたしはお兄ちゃんの一番になりたかった。

 お兄ちゃんだけがわたしの話を聞いてくれた。わたしのことを理解してくれた。


 魔力の才能がないことを除けば、お兄ちゃんはかっこよくて頭も良くて、誰よりも優しくて……。

 和樹お兄ちゃんと透子お姉ちゃんの婚約が破棄になると聞いて、わたしはチャンスだと思った。

 今度こそ、お兄ちゃんを独り占めできるかもしれない。わたしがお兄ちゃんのお嫁さんになるんだ!


 でも、現実はそんなに甘くなかった。お兄ちゃんの隣には観月さんがいたし、透子お姉ちゃんも本当は和樹お兄ちゃんのことが好きなままだった。

 そして、お兄ちゃんの魔力は覚醒して、わたしだけが無能なままだった。


 だから、わたしは和樹お兄ちゃんにハーレム計画を提案した。それはお兄ちゃんや、東三条のみんなを守るための方策でもあったけれど……わたしには他の女性への仕返しの意味もあったと思う。


 わたしが一番になれないなら、みんなでお兄ちゃんに奉仕する存在になればいい。透子お姉ちゃんだって、観月さんには勝てない。ただの二番目の女の子だ。


 わたしと透子お姉ちゃんの立場は変わらなくなる。わたしを軽んじたお母様たちだって、ただの和樹お兄ちゃんの奴隷だ。


 わたしにそんな暗い感情がなかったとはいえない。

 

 今、この状況はそんなわたしへの罰なのかもしれない。


 白川エミリアさんが和樹お兄ちゃんにお風呂場へ奉仕へ行ったのを、わたしだけは気づいていた。

 きっとエッチなことをするんだと思って、わたしは半分期待しながら、半分は嫉妬に胸を焦がしながら、様子を覗こうとした。


 ところが、脱衣場の手前で突然男たちに羽交い締めにされた。

 白川家の襲撃は予想外に早かったらしい。


 男たちはわたしの小さな身体を拘束した。背筋に寒気が走る。


「や、やめてっ! ダメっ」


 わたしの悲鳴なんて、男たちは意にも介さなかった。


「見た目は良いがまだガキじゃねえか」


「こういう子が良いんだろ」


 男たちは口々に言い、わたしの部屋着を剥いでしまう。


「葵お嬢様から、こいつだけは処分していいと言われているからな。魔力の少ない無能な娘は、母体としても使い道がない」


 だから、わたしはこの場で男たちにひどいことをされる。透子お姉ちゃんたちは白川家へ拉致されて、嫡男の子どもを産ませる道具にされるらしい。

 透子お姉ちゃんたちは魔術の才能があって利用価値があるけど、わたしにはない。


 やっぱり、わたしだけ、いらない子なんだ。

 こんなときですら、わたしはそんなことを考えてしまう。


 男たちは裸のわたしを床に押し倒す。そして、わたしになにかを注射のようなものを刺した。

 一瞬鋭い痛みが走り、次の瞬間、不思議な感覚に襲われる。


「高濃度の特製媚薬だよ。小柄なメスガキには効きすぎるかもな」


 媚薬の効果は一瞬で回ったみたいだ。身体が異常に熱い。


「やだっ……!」


 このまま、わたしはこの男たちにひどいことを何度もされるんだ……。


 初めての相手は、和樹お兄ちゃんが良かった。和樹お兄ちゃんの一番にわたしはなりたかったんだ。


 でも、お兄ちゃんはわたしを抱いてくれなかった。そうだよね。

 だって、わたしは魔術の才能もなくて、霊力もなくて、お兄ちゃんの役に立てないいらない子なんだから


 目から大粒の涙がこぼれる。それでも、わたしは奇跡を願わずにはいられなかった。

 もし無事でいられたら、絶対にお兄ちゃんにわたしの初めてを上げるんだ。たとえ一番になれなくても……。

 だから――。


「和樹お兄ちゃん……助けて!」


 和樹お兄ちゃんがその場に現れ、敵を一掃したのは、ほぼ同時だった。





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