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26 エミリアとの同居の提案

「白川葵さんが……?」


「はい。身内の話でお恥ずかしいのですけれど、私は……その……姉に嫌われているんです」


 白川エミリアは愛人の外国人女性の娘らしい。葵は正妻の娘で、エミリアの異母姉にあたり、一つ年上。

 二人は同じ学校に通っているけれど、葵が一方的にエミリアを憎んでいるという。


 エミリアは弱々しく笑った。


「仕方ないんです。葵姉さんが私を嫌うのには理由がありますから」


「どんな理由かは知らないけれど、妹を男に襲わせていい理由にはならないよ」


 和樹と観月だって、血のつながらない兄妹だ。けれど、和樹も観月も互いのことを大切に思っているし、傷つけるなんて考えられない。


「ありがとうございます。そうですね。でも、姉が私を嫌うのは、理解できてしまいます。私の母のせいで、白川家の奥様は離婚してしまいましたし、それに、私の方が葵姉さんやお兄様よりも魔術の才能に恵まれているんです」


 なるほど、と和樹は思う。確執の理由が見えてきた。家庭内の事情に加えて、魔術の才能の優劣があるのは致命的だ。


 ただでさえ、白川家は魔術至上主義で、強い力を手に入れるためなら手段を選ばない。

 そんな家で、正妻の子より私生児の方に才能があったらどうなるか?


 白川家の当主は、エミリアを次期後継者とすることすら検討しているかもしれない。


「だから、葵姉さんは私を傷物にしようとしているんです。家でも……」


 この1ヶ月のあいだで、白川家の屋敷で、使用人の男に襲われそうになったことが何度かあるらしい。それもおそらく葵の指図だ。当主は外出していることが多いし、明確な証拠がつかめていないから、当主に訴えるわけにもいかない。


 だから、エミリアは毎晩恐怖に怯えながら寝ているのだという。

 実際、エミリアの美しい顔には、目に隈があり、睡眠不足だとうかがわせた。


「ごめんなさい、先輩に変な話を聞かせてしまって……」


「いや、謝ることじゃないよ。大変だったね」


「今の先輩みたいに、私を守ってくれる人がいればいいんですけど」


 エミリアは期待するように上目遣いで和樹を見つめた。その仕草はとても可憐で、さすが五大美少女第2位だと思った。

 

 和樹は少し考えた。このままエミリアを白川家の屋敷に置いておけば、遠くない未来に、葵の指図で襲われてしまうだろう。


 そうなれば取り返しがつかない。それに、桜子も言っていた通り、和樹はエミリアを味方にしておきたい。異性としての好意を得られるかはともかく、信頼を獲得すれば、白川家との戦いの際にエミリアがこちらの陣営につく可能性がある。


 だから、和樹は自然ととんでもない提案をしてしまった。


「あのさ、白川さん……うちの屋敷に来るつもりない?」


「え!?」


 エミリアはみるみる白い頬を赤くした。

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