3 わたしが兄さんの子供を生みますから!
和樹がここに来たのは、朱里に子供がほしいなんて迫られるためではない。
魔術師の男の襲撃のことを話すためだった。
いまだに未練のありそうな朱里は応接間にとどまっていたけれど。
「とりあえず座ってよ」
長椅子に透子は腰掛け、その隣をポンポンと手で示す。
そこに座れということらしい。和樹は言う通りに透子の右隣に座った。
すると、透子は距離を詰め、和樹とぴったり横にくっついた。
「と、透子……?」
「こ、婚約者なんだから、これぐらい当然でしょ?」
透子は恥ずかしそうに、和樹に小さな手を重ねた。その暖かさに和樹は赤面する。
すると、観月も和樹の横に腰掛ける。二人の美少女に挟まれる形になり、和樹はうろたえた。
透子が和樹の肩越しに観月を睨む。
「観月が座ってもいいとは言ってないわ」
「お客さんを立ったままにさせておくんですか? だいたい、お客さんのわたしと兄さんが二人で隣に並んで、透子さんはテーブルの反対側の椅子に座っているべきでしょう?」
「和樹はお客さんじゃないもの。わ、私の……家族になる人だし」
透子の顔はもう真っ赤だった。だいぶ恥ずかしいことを、勇気を出して言ったのだろう。
けれど、観月は勝ち誇った笑みを浮かべた。
「わたしは今も、ずっと昔から兄さんの家族ですから、わたしの勝ちですね」
観月は胸をえへんと張った。大きな胸が軽く揺れ、和樹はつい目で追ってしまう。
視線に気づいたのか、観月は顔を赤らめた。
「……別の意味で家族になる日もそう遠くないかもですね」
観月はそう言うと、和樹に手を重ねた。美少女二人と両隣で手をつないでいることになる。
観月は和樹の耳元に口を近づける。
「朱里さんと子供なんて作らないって言ってくれて、わたし、嬉しかったんです。でも、わたしとなら……どうですか?」
「え?」
「わたし、兄さんの子供を生みたいって言いましたよね。あれは本気ですから」
観月がささやく。和樹はうろたえた。
しかも、そこに透子が追い打ちをかける。
「和樹の子供を生むのは私だもの。だって……私が婚約者なんだから」
二人の甘いささやきに和樹は混乱した。観月も透子もそれぞれ和樹の大事な女性で、和樹のことを好きなのだ。
目を泳がせると、あきれたようにこちらを見つめる朱里が目に入る。
「和樹くん……モテモテね」
和樹はどうにかしてこの状態から逃げ出そうと思ったけれど、観月と透子の二人はしっかり和樹の手をつかんで放すつもりはなさそうだった。
事態が解決したのは、そこに東三条家の女主人と次女が入ってきたからだ。
つまり、透子の母と妹だった。