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2 義妹とは恋愛もできるんですよ、兄さん

 その日の帰り道。

 和樹は観月と二人きりで京都の町を歩いていた。


 二人で帰るなんて、久しぶりだ。初めて会った頃は小学校高学年で、その頃の観月は気弱で一人ぼっちで、学校から二人でよく一緒に帰っていた。


 中学に入った頃から、そんなことも少なくなった。それは異性の妹に和樹が遠慮したからだと思う。

 それに、観月は美しく優秀な少女に成長して、気弱で一人ぼっちだった面影はない。社交的な方ではないけれど、学年一の美少女として注目の的になっている。


 和樹とは対照的な存在だ。

 なのに――。


「兄さん、どうしたんですか?」


「いや、その、観月の手が……」


「恥ずかしがっているんですか? 妹相手に?」


 観月が少しおかしそうに笑う。


 二人は並んで、家への帰路を歩いていた。どういうわけか、まるで恋人同士かのように観月は和樹と手をつないでいる。


 秋の京都はそれなりに寒い。まだコートを出すほどではないけれど。

 二人の通う星南学園は鴨川の東にあって、祝園寺家は鴨川の西の市街中心部にある。

 

 今、ちょうど二人は橋を渡っていた。河原にカップルが等間隔に並んでいる。

 観月が小声で笑う。


「わたしたちもああいうふうに河原で二人で座っていたら、きっとカップルに見えますね?」


「そうかもね」


 和樹がそう言うと、観月は少し嬉しそうにはにかんだ。

 おそるおそる、和樹は尋ねる。


「えーと、観月? 様子が変だけど、急にどうしたの?」


「兄さんのこ、恋人のフリをしようと思って……」


 どういう理屈なのか、さっぱりわからない。もともと観月とは仲は悪くないけれど、ここまで距離感は近くなかった。


 ついさっき、学校で透子が婚約を破棄すると言ってから、観月の様子がおかしい。


(だいいち、俺と結婚するなんて言ってたけど、本気なんだろうか……)


「透子さんが兄さんの婚約を破棄するなんてひどいことを言うから、い、勢いで『わたしが兄さんと結婚します』なんて宣言してしまいました」


「あ、あれは勢いで言っただけってこと?」


「き、決まってます! 本気でそんなことを言うわけありません」


「それは安心したよ」


 和樹の言葉に観月は複雑そうな表情を浮かべた。


「兄さんは、わたしと結婚したくないんですか?」


「え?」


「今のは、わ、忘れてくださいっ! それより、兄さんとの婚約を破棄するなんて、許せません! 透子さんには目にものを見せてあげないといけません」


「べ、べつにいいよ……」


「兄さんが良くても、わたしが良くないんですっ。ですから、わたしが兄さんの恋人のフリをします」


「論理の飛躍がある気がするな。観月が俺の彼女のフリをするのと、透子への仕返しとどう関係がある?」


「『優雅に暮らすことが、最高の復讐になる』からです」


「イギリスの詩人の言葉だね」


「さすが兄さん。よくご存知で。つまり、ですよ。このままだと兄さんは透子さんに一方的に婚約破棄された男ということになってしまいます。ですが、その直後に、わたしが兄さんの恋人になったと宣言すれば、どうでしょう?」


「まあ、俺が振られたって事実は、少し和らぐね」


「兄さんが新しい恋人とイチャイチャしているのを見せつければ、婚約破棄のおかげで本当の幸せを見つけたってことになるわけです。しかも、わたしみたいな学校一の美少女が相手なら尚更です」


「自分で言う?」


「だって、事実ですもの」


「まあ、観月が可愛いのは、そうだと思うけどね」


 観月は急に立ち止まる。手をつないだままなので、危うく和樹は引っ張られて倒れそうになった。

 そして、観月はまじまじと和樹を見上げた。

 

「どうしたの?」


「い、いえ……兄さんがわたしのことを可愛いなんて言ったので……」

 

 ちょっと照れたように、観月が頬を赤く染める。和樹は微笑んだ。


「だって、事実だからね」


「と、ともかく、わたしと兄さんは恋人のフリをするんです!」


「妹と恋人になったなんて思われるのは困るけれど……」


「義妹とは恋愛もできるんですよ、兄さん。いえ……もちろん、わたしたちは恋人のフリをするだけですけどね?」


 そう言うと、観月はぴょんと跳ねるように歩き出して、橋を渡りきってしまう。そして、鴨川への河原へと駆け降りていった。


 そして、くるりとこちらを振り向く。制服のスカートの裾が翻る。」


「兄さん! 少し寄り道していきましょう」


 観月はとても楽しそうに、無邪気な笑みを浮かべた。

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