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12  兄さんがカッコよかったです!

 拘束されている下着姿の観月に男が触れようとする。

 観月は耐えるように、ぎゅっと目をつぶった。


 このままだと観月と透子は連れ去られ、この男に陵辱されて、子供を産まされることになる。


 そんなことを許すわけにはいかなかった。

 強い怒りを感じるのと同時に、不思議な感覚が和樹の体に走った。力が湧いてくるような、全能感のようなものだ。


(もしかして……霊力!?)


 和樹は生まれてから、ずっと霊力がなかった。そのせいで無能と嘲られていた。

 和樹には何の力もないはずだ。


 けれど、今なら――敵の魔術師の男を倒せる気がする。

 和樹は一歩進み出た。観月が焦ったように叫ぶ。


「来てはダメですっ、和樹兄さん!」


「和樹……逃げて!」


 透子も懇願するように言う。二人とも和樹のことを心配してくれていて、自分たちに待ち受ける運命を知りながら、和樹だけでも助かるように祈ってくれている。


 そんなふうに自分を思ってくれる二人の少女を、和樹は見捨てるつもりはなかった。


「観月も透子も……必ず助けるから」


 魔術師の男は失笑した。


「僕は君のことを知っていますよ。名門・祝園寺家に生まれながら一切の霊力のない無能。それが君だ」


「そうさ。俺は観月たちみたいに優秀じゃない。霊力もない、平凡な男だよ。それでも――妹たちぐらい守ってみせる」


「戯言を」


 男は手をかざし、青い光の束を和樹へと向ける。観月たちと同じように、和樹のことも拘束するつもりのようだった。


「兄さんっ!」


 観月が悲鳴を上げる。

 もし和樹が本当に無能だったら、和樹も拘束されていただろう。利用価値のある観月たちと違って、和樹は殺されてもおかしくない。


 けれど、そうはならなかった。

 光の束は、和樹の手によって消滅させられた。


「なっ……馬鹿な!」


 男が驚愕の声を上げる。優秀な観月や透子が手も足も出なかった相手だから、この男は優秀な魔術師なんだろう。


 だが、和樹によって、その魔術はあっさりと無効化された。

 明らかに、今の和樹には霊力があった。それもかなり強大な力だ。


 男が舌打ちをする。


「祝園寺の嫡男が無能だというのは、嘘だったのか」


「さあ、どうする? 卑怯な魔術師さん? 俺の妹と幼馴染を返してもらおうか」


 男はふたたび、和樹をめがけて別種の魔術を放ったが、無駄だった。和樹の圧倒的な霊力が障壁となり、男の攻撃を弾いてしまう。


 男は分が悪いと思ったのか、光の束を回収して、そして、霊力を使って跳躍し、逃げ出した。

 和樹は後を追おうとしたが、思いとどまる。


 運良く男を撃退できたが、和樹は霊力の扱い方を十分にわかっていない。危険は避けるべきだ。

 それに和樹の最大の目標は観月たちを助けることだった。


 和樹は、ぐったりと床に倒れる観月に駆け寄る。


「観月!? 大丈夫?」


「はい。兄さんに……助けられちゃいましたね」


 そして、観月は頬を赤らめて、和樹を上目遣いに見る。

 その表情はとても嬉しそうだった。


「やっぱり兄さんはすごい人なんですよ。これで兄さんのすごさをみんなわかってくれますね」 


 たしかに霊力がないという理由で、他の七華族から軽蔑される理由はなくなる。


「兄さん、カッコよかったです。兄さんの子供なら、本当に生んでもいいかも……」


 観月はそんなことをつぶやいて、それからはっと口を押さえた。そして、顔を真赤にしながら、和樹を見つめる。


「い、今のは忘れてください!」


「う、うん……」


 そういえば、魔術師の男に襲われたときも、観月は「わたしが生むのは兄さんの子供だけです!」と叫んでいた。

 透子の前でも、和樹の子供を生むと言っていた。


 本気なのかもしれない。

 和樹は下着姿の観月をちらりと見た。妊娠して、そのお腹が大きくなっているところを想像してしまう。


 観月も和樹が変な想像をしていることに気づいたらしい。


「兄さん……視線がエッチです」


「ご、ごめん」


「助けてくれたから、許してあげます。それにもとはといえば、わたしのせいですし。わたしが妊娠しているところ、想像しちゃいました?」


 からかうように観月に問われ、和樹は言葉に詰まる。首を縦に振る勇気は、和樹にはなかった。

 そのとき、後ろに人の気配がした。慌てて振り返ると、透子がいた。


 透子はむうっと頬を膨らませて、和樹を睨んでいた。


「私のことを観月より後回しにするんだ?」


「そ、そんなつもりはなくて……」


 透子はくすっと笑った。

 

「ちょっと悔しいけど、でも、助けてくれてありがとう。和樹が……そのカッコよかったし……」


 透子もそんなことを照れながら言う。

 そして、透子はささやいた。


「これで、私たち、何の問題もなく婚約者に戻れるわ」


「え?」


「あれだけの霊力があれば、お父様も和樹を婚約者として認めてくれるもの! ね?」


 たしかに、東三条家が和樹と透子の婚約をなかったことにしようとしたのは、和樹が霊力なしの無能だったからだ。


 だが、今は違う。どうやら、和樹には常人よりも遥かに多い霊力が眠っていたらしい。


 透子は上機嫌で、でも、観月はそれが気に入らないみたいだった。


「兄さんはわたしのものになったんです! 透子さんには渡しませんから!」


「和樹はずっと昔から私のものなの!」


 ばちばちと観月と透子が視線で火花を散らす。和樹は途方に暮れて、口を挟めずにいた。妹と幼馴染が、自分をめぐって言い争いをしているなんて、とてもとても現実のこととは思えない。


 ともかく、婚約の件はなんとかしないといけない。

 それに、あの魔術師の男のことも、七華族には知らせておかなければ。

 

 その翌日。和樹と観月は、東三条家を訪れることになった。



これにて第二章完結です! 次章は観月たちとのイチャイチャが加速する&霊力の多い和樹を種馬として狙う新ヒロイン登場!?


三章の前に、読者の皆様に大切なお願いです


観月が可愛い! 二人の今後に期待!と思っていただけましたら


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[一言] 相手の実力も定かじゃないのに覚醒してすぐにイキる和樹 ベラベラとイキって相手が舐めててくれる唯一のチャンスを自ら棒に振る 典型的な間抜け主人公ムーブ、ほとんど性格が変わってる このまま俺ツ…
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