10 ファーストキスはわたしのもの
透子にキスをされるなんて、和樹は思いもしなかった。
でも、透子のキスは情熱的で和樹を放そうとしない。
やがてキスを終えると、透子は真っ赤な顔で和樹を睨んだ。
「ふぁ、ファーストキスだったんだからね!」
「そ、そうなの?」
「ずっと和樹と婚約者だったんだもの。他の男とキスしたりするわけない」
そう言われればそれもそうなのかもしれない。もしそんなことをすれば、浮気、ということになってしまう。
それに、透子は――。
「貴方のこと好きだったんだもの」
透子は和樹の耳元でささやいた。
恥ずかしくなって、和樹は自分の頬が熱くなるのを感じた。
「そ、それなら、どうしてそう言ってくれなかったのさ?」
「その言葉、そっくりそのまま貴方に返してあげる。これまで何もしてこなかったのは和樹もでしょ?」
「それはそうだけど……」
透子との関係を先に進めようとは和樹はしなかった。そうする勇気がなかったからだ。
透子もそれを望んでいないと思っていた。
だけど、違ったらしい。
「私たちは幼馴染で、家の決めた婚約者で……その関係を変えようだなんて、言い出せなかった。だって、怖かったもの。和樹から言い出してくれるんじゃないかって、私のことを好きだって言ってくれるんじゃないかって期待してた」
「ごめん……」
「謝らないでよ。私がほしいのはもっと別の言葉」
そう言って、透子は少し甘えるように、和樹を上目遣いに見た。
透子が望んでいることは和樹も理解している。
婚約者に戻って、東三条家の人間を一緒に説得して、そして、自分を好きだと言ってほしい。透子は、和樹がそう言うことを望んでいる。
それは魅力的な選択肢でもあった。透子は和樹のことを好きで……婚約者でいてほしいと望んでいる。透子にとって、和樹は特別な存在なのだ。
ここで透子ののぞみ通りに、うなずけば元通りなのかもしれない。
でも、和樹の背後には、和樹とキスをした妹がいた。
振り返ると、観月は立ち上がり、手で胸を隠しながら、顔を赤らめる。
「に、兄さん……あまり見つめないでください」
「ご、ごめん……」
「い、いえ、やっぱりもっと見ていただいてもいいんですよ!」
観月は恥ずかしそうにしながらも、微笑んだ。その目は和樹と……後ろの透子に向けられていた。
透子は頬を膨らませる。
「観月……色仕掛けってわけ?」
「いきなり兄さんにキスした人に言われたくありません」
「観月だってしたんでしょう!?」
「そうです。兄さんのファーストキスはわたしがもらったんです」
二人の美少女が言い争う姿にはらはらする。透子はセーラー服で、観月はほとんど裸で、そしてここは風呂場だった。
「と、とりあえず、風呂からはいったん出ようか……」
観月と透子は顔を見合わせ、そして、こくりとうなずいた。
妖しげな空気が場を包んだのは、そのときだった。
更新遅くなりすみませんっ!
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