4 一緒にお風呂
色々あったけれど、その日の夜、和樹は風呂に入ろうとしていた。
秋なのにもうずいぶんと冷え込む。祝園寺の古い屋敷は、風が吹き込んで特に肌寒い。
(早く湯船に浸かってしまおう)
そう考えると、和樹は上半身のシャツを脱いだ。
風呂場は一応改装してあって、自動で湯を張る仕組みもある。ただ、日本家屋らしい作りになっていて、しかも少し広めだ。
洗面所を兼ねた脱衣所もそれなりにスペースがある。
ここで服を脱いで、風呂に入るだけ。
そのはずだった。
和樹がズボンに手をかけたところで、脱衣所の扉が開いた。この家には、たまに来る通いの家政婦と、滅多に帰ってこない父を除けば、和樹と観月しかいない。
だから、扉を開けたのは、当然、観月だった。
「……兄さん」
観月は部屋着に着替えていて、淡いピンク色のキャミソールの上にカーディガンを羽織っている。
肩や胸元が軽くはだけていて、どきりとさせられる。
和樹は和樹で、上半身裸だ。
慌てて服を着直そうとするけれど、それを観月に止められた。
相手が義妹とはいえ、いや、義妹だからこそ裸でなんていられない。
けれど、観月は言う。
「ご、ごめんなさい。勝手に入ってきて」
「洗面台からなにか持っていくなら、全然いいよ」
「い、いえ。そういうわけではなく……」
「え?」
「わたしのことは気にしなくていいですから、兄さんは普通にそのままお風呂に入ってください」
「気になるよ……。妹の前で、裸になるわけにはいかないし」
「婚約者の前、でしょう?」
婚約者のフリをするには、家でも単にフリのつもりではなく、本気で婚約者をしないといけない。
なんてことを観月は言っていた。けれど、それを和樹は受け入れてはいない。
「観月さ、俺はまだ婚約者のフリをするなんて言っていないよ。観月が俺のためにしようとしてくれているのはわかるし、それは嬉しいけれど……」
「なら、問題はありませんよね?」
「い、妹と婚約者のフリなんてちょっと恥ずかしいな」
そう言うと、観月が頬を膨らませた。
そして、ぷいっと横を向く。
「兄さんがその気なら、わかりました」
「諦めてくれる?」
「いいえ。兄さんが『うん』と言うまで、ここを動きません」
「ええ!?」
「どうぞ気にせずに裸になってください。婚約者ならきっと一緒にお風呂に入りますから」
「婚約者というか、仲の良い恋人のイチャイチャじゃない?」
「い、イチャイチャ……」
観月はつぶやくと、恥ずかしそうに顔を赤らめてうつむいてしまった。
そんな反応をされると、和樹も恥ずかしくなってしまう。
照れ隠しに和樹は言う。
「だいたい、一緒にお風呂に入るなんて、観月にはできないんじゃない?」
「で、できます!」
「想像しただけで恥ずかしくなるのに?」
「こ、これも婚約者のフリをするためですもの」
そう言うと、観月は羽織っているカーディガンをぱさりと脱いだ。
<あとがき>
お風呂に入るかどうかの攻防……!
「面白かった!」
「観月が可愛かった!」
「続きがどうなるか気になる!」
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