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飼い主 vs ヘルリアーナ

 飼い主が金色の鎧を身に纏い、白く輝く大剣を背中から抜いた途端、でっかい黒猫は大人しくなった。


「なんにゃ、それ」

 ヘルリアーナは言った。

「暴力反対」


「私も手荒な真似はしたくないのです」

 飼い主はちょっとビビってるような声で言った。

「どうか穏便に済ませましょう」


「とか言っといて、にゃあッ!」


 ズダーン!


 飼い主が巨大黒猫のでかい爪をまともに食らった。なるほど卑怯とはああいうことか。


「うにゃっはっはっは!」

 猫が笑うのって気持ち悪い。

「これで貴様もそこの珍獣も食材ぜよ!」


 こわい。こわいよ、飼い主。守ってくれ。


「にゃっ……?」


 巨大黒猫ヘルリアーナの爪がぐぐぐと持ち上がる。


 その下から、傷ひとつない飼い主の、元々くたびれてる姿が現れた。


「おまえっ……! 何者にゃー!?」


 ははは。巨大黒猫がビビってる。


「お願いです、ご主人!」

 飼い主がなんか必死。

「私はいい! 相棒のうーたんに、何か食べるものを……!」


 ヘルリアーナが後ろに飛び退いた。まあ、わかる。必死な飼い主がキモいよな。


「自分を食わしてやったらええじゃろがい」


「そうしようとしたこともあります。ですが、食べてくれなかったのです」


 当たり前だ。飼い主は肉だが食べ物じゃない。すりすりするための肉だ。くくっ。


「しかしおみゃあ……。その強大な力は何ぜよ? おみゃあは何者ぞ?」


「わかりません」

 飼い主は自分を包む金色の鎧を、恥ずかしそうに見つめながら、言った。

「なんでこんなに金ピカになってしまったのか……」


「ふうみゅ……」

 巨大黒猫がなんか考え込んだ。

「食わしてやってもいいにゃ」


「本当ですか!?」


「ほんとに!?」

 おれは喜んで物陰から躍り出た。


「その代わり、その強さを見込んで、頼みがあるにゃ」


「頼み?」


「なんでも聞く聞く!」

 おれは踊り回りながら言った。

「ほら飼い主、ちゃんと聞けよ?」


「頼みとは?」


「みゅ。ウチのライバル店がこの先にあるんにゃが、それを潰して来てほしいのにゃ」


「できません」

 飼い主が即答した。


「潰せないなら、嫌がらせをするだけでもいいにゃ」


「しません」


「なら、出て行ってもらおうかにゃ」


 そう言われて、飼い主は一口もまだ食べてないテーブルの上のハンバーグを口に入れたそうに見つめた。会話なんかしてる暇があったら食べてしまえばよかったのに。


「失礼しました」

 飼い主はぺこりと頭を下げた。

「うーたん、行くぞ」


「おっ……、おう」


 飼い主が店を出て行く。金ピカのまま。おれも仕方なく後をついて出て行った。

 モッチーナが引き止めようとするように飼い主の背中に手を伸ばしかけたが、何も言わずに見送った。





 またサップーケーな外に出た。腹減った。

 しかししょうがなかった。飼い主の気持ち、理解できる。全校ポイントを貯めるためには、ライバル店を潰す手伝いなんてするわけには行かなかったのだ。


 フェレットだっていいことと悪いことの区別ぐらいつく。躾のできる動物だからな。


「飼い主」

 並んで歩きながら、おれは言った。

「腹減った」


「うん。おまえは胃も腸も長細いから、腹持ちがしないもんな」

 優しい声でおれを気遣ってくれる。好きだ。

「まぁ、あてはある。というか、出来た」


「わかるぞ」

 おれ、頭いいから、飼い主の考えてることがわかった。

「ライバル店だよな?」


「そうだ」

 飼い主がうなずいた。

「ヘルリアーナさんより話が通じる相手かはわからないが、とりあえず食事の出来る店がもう一軒あることはわかった。行ってみよう」


「おう。おれの鼻に任せろ。なんにも食ってないからうんこも出ない。生命の危機に瀕したイタチの鼻は超敏感になってるぞ」


「頼むぞ。ヘルリアーナさんが『ライバル店がこの先に……』と言った時、こっちの方向を見た。きっと、こっちだ。あとは任せた」


「おっ?」

 おれは後ろ足2本で立ち上がると長い体をさらに伸ばし、クンクンした。

「あっちだ、飼い主! あっちからいい匂いがするぞ!」




 走ると腹が減るから走りたくないのに足が勝手に走った。息を切らして飼い主もなんとかついて来た。


 ガレキの高い山をひとつ越えると、それが見えた。


「あった!」


 ヘルリアーナの店より大きくて立派な店だ。屋根の煙突からいい匂いのけむりがいっぱい出てる。ちょっと嫌なことには動物病院みたいにも見えた。


「凄いな。鉄筋コンクリート造りだ」

 飼い主が言った。

「まるで現世のレストランだな。お洒落な感じはまったくしないが、ちゃんとした店といった感じはする」


「行ってみようぜ、飼い主」

 元気にそう言いながら、おれはちょっとだけビビってた。しっぽが軽く爆裂している。


「ただ、気になることが1つ、あるな」


「わかるぞ飼い主。カリカリがあるかどうかだよな?」


「いや。エンマーがなぜヘルリアーナの店を紹介したのかだ」

 飼い主はいつもの神経質そうな暗い顔で、言った。

「なぜこの店は紹介しなかったのか……」


 近づくと、看板の文字が見えて来た。飼い主、読んでくれ。


「『ケンさん食堂』……か」



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― 新着の感想 ―
[良い点] >必死な飼い主がキモい ひどいw うーたんがちょいちょいひどいのが可愛くて癒されます♡ ケンさん……どのケンさんだろう、と思いつく限りの『ケンさん』を頭に浮かべてしまいました。 金ぴか…
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