ヘルリアーナ
「ねっ……、猫ですって……っ!?」
モッチーナが飼い主の言葉を聞いて急にガクガクブルブル震え出した。どうした? 重度の猫恐怖症か?
「ええ。猫とフェレットは必要とする栄養素が大体同じなんです」
飼い主が言った。
「もしこの世界に猫がいるなら、それと同じものを食べさせればこの子も生きて行けるはずだ」
いや、おれ、マタタビとかは効かないぜ。くくっ。
でも確かに近所ネコのしーにゃんの餌を横取りしたことがあるが、あれはうまかったな、うん。
その時、店の奥から「にゃっはっは!」と、デカい声がした。
店の奥に通じる戸のない出入口を見つめていると、それをドッカーン!と壊して何かが出て来た。
「なっ……! 何!? 何ですか!?」
ビビるな、飼い主。おれはもっとビビってる。
パラパラと木屑とホコリが舞い散り、「にゃっはっはーっ!」と豪快に、ドスンドスンと足音を立てて現れたのは、巨大な黒猫だった。猫のくせに足音立てるなよ。
モッチーナが恐れるような声で叫んだ。
「ヘルリアーナ様!」
「まさかこの店のご主人が猫とは……」
飼い主が明るい表情になる。いっつも自殺しか考えてないような暗い顔してるくせに。
「お邪魔しています、ご主人、ヘルリアーナさん」
ぺこりと頭を下げた。猫に。
「おいっ、モッチーナ!」
猫が飼い主を無視してぶっとい声を出す。
「てみゃあー、なんで人間にゃんぞにタダ飯食わしてやってんだ? にゃああ!?」
「いっ……、いえっ! この者、私を負かして、その上斬り捨てた私の腕をくっつけて下さったゆえ、恩返しに……」
「恩返しってにゃんだあー!?」
そんな簡単な言葉も知らないのかよ。くくっ。
「そんなもん知らにゃあーし、ウチの食材、あたぁしに黙って勝手にタダ飯にしていいと思ってるのかあー!? にゃああ!?」
「すっ、すみません! お金は私が払いますので!」
「ご主人!」
飼い主が大きな声で叫んだので、今度は猫がちゃんと振り向いてくれた。
「私も相棒のうーたんもここへやって来たばかりで腹ペコなのです。しかしお金がありません。モッチーナさんが情けで料理をふるまってくれました。どうか、ご主人も情けをくださいませんでしょうか!」
「バカ!?」
猫が飼い主をめちゃめちゃ見下した。
「情けって何にゃーお? おまえ、カネないんだったら死ねばいーにゃ。カネないやつに食わせる飯はねーにゃ。どーせ死ぬなら食材になるにゃ。それが地獄の理ってやつにゃろがいオー?」
ははは。こいつ狂ってる。
「死にゃお!!」
そう言うなり、猫がでっかい爪振り下ろした。
飼い主は後ろへ飛ぶなり、あの金色の鎧戦士に変身する。頑張れ、飼い主! おれは隠れて見てるぞ!