出会いと別れ
「現世に帰るのですか」
椅子に座ったエンマーとおれたちは会話した。
紫の空の下、マガマガしい赤い大地におれたち二人と二匹は立って、それぞれエンマーと握手をする。
「現世に帰れば、いつか死に別れる時が来るんですよ?」
エンマーが飼い主に言い聞かせるように言う。
「それよりは永遠に楽しい夢の中で生きたくはありませんか?」
飼い主がおれたちを振り返った。
シシリーがうなずく。兄さんが微笑む。
おれはにこっと笑ってやった。
みんな何も言わなかったが、飼い主は『ありがとう』みたいに笑うと、エンマーのほうへ顔を戻し、言った。
「別れがあるから、出会いもあるんです。終わりがあるから、音楽だって、物語だって、美しく尊いんだと思うんです」
そう言って、照れくさそうに薄い頭を搔いた。せっかくかっこいいこと言ったのに締まらないやつ。
自分の恥ずかし発言をトイレの砂に埋めて隠すように続けて言う。
「あっくんとうーたんが一緒にいる生活なんて、どんな楽しい夢よりもきっと楽しいですよ。それが夢じゃなくて、現実になるんだから。それに……」
チラッとシシリーのほうを見た。
シシリーが頬を赤らめてうなずく。
「シシリーが……私と結婚してくれると言ったんです」
「ほう!」
エンマーか大袈裟に驚いてみせた。たぶん、知ってるくせに。
「それはおめでたい」
「42年彼女がいなかった私に、カノジョを通り越して、こんな素敵な嫁が出来るんですよ。それが夢じゃなくて現実だなんて……、こんな……、こんな素晴らしいことが……」
飼い主がまたチラッと振り向いてシシリーを見た。
銀色の長い髪を地獄の赤い風に揺らして、シシリーの碧い大きな目が微笑んだ。ピンクの唇がにっこりしたかと思ったら、それがすぐに輪ゴムみたいに「あっ!」と言った。
「……忘れてた」
シシリーが思い出したように口にする。
「その……、私……、現世に帰ったら、元々の姿と年齢になるん……ですよね?」
エンマーが無表情でこくりとうなずく。
「カイヌシさん……」
申し訳なさそうに、言った。
「私……、ほんとうは、こんな見た目ではないんです……。それでもいいですか?」
飼い主がシシリーを見つめた。自分の理想の中から飛び出したみたいなアニメ美少女の顔を、あんまり不安そうにではなく、優しく見つめた。
「君のすっぴんがどんなであろうと、私は君を愛すると誓いますよ」
いや……、ヤバいぞ、飼い主。おれは思い出した。
シシリーのほんとうの年齢って、確か148……。
「私……」
シシリーが告白した。
「ほんとうは35歳なの」
「えーーっ!?」
おれが驚いて声をあげた。
「148歳じゃなかったのか!?」
「あ……、あれは……。35のくせに17歳みたいな外見になってるのが恥ずかしすぎたから……思いっきり逆サバ読んでたの」
「よかった」
飼い主が心から安心したように笑った。
「俺は42歳だ。ちょうどいいぐらいの年の差じゃないか」
「僕も好きだよ」
兄さんが優しく微笑む。
「あなたが好きだ」
「では……」
エンマーが咳払いをして、言った。
「これからあなた方を現世に送り返しますよ?」
「待ってください。その前に」
飼い主がエンマーが動かしかけた手を止めさせる。
「一階層上の地獄へ戻れますか? お世話になった方々に、お礼を言いたい」
なるほど。あいつらにお別れの挨拶を言いに行くんだな。おれも一緒のハンモックで寝た仲のへるたんに挨拶しとこう。
犬にもおれのことを好きになってもらいたかった。たぬきとネズミはどうでもいいけど。
あ……。
もしかして飼い主、モッチーナに報告するつもりか? シシリーと結婚するって。
ばか。
殺されるぞ?




