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善行ポイント大盤振る舞い

「うーたん、善行ポイント1,800」


 空から降ってきたエンマーの声に、おれは『えっ?』ってなった。


 おれも全校ポイント稼げたの?


 でも、それじゃ……


 じゃあ、おれだけ天国に行けちゃうってこと? 飼い主と一緒には行けないの?


 いや待て……。300ポイントで天国に行けるんだよな?


 300と1,800って、どっちが多いの?


 おれがあれこれ考えてるうちに、空からまたエンマーの声が降ってきた。


『飼い主、善行ポイント1,200』


 わ!


 よかった! 飼い主も一緒に行ける!?


 でも、次々とエンマーの声が降ってきた。


『シシリー・ヒトリ、善行ポイント1,000』

『パスバ・レイことあっくん、悪行ポイント1,100』


 兄さんだけ善行ポイントじゃなくて悪行ポイントだ!

 でも、エンマーが続けて言った。


『パスバ・レイことあっくん、善行ポイント2,400……差し引き善行1,300』


 よかった! おれと一緒に楽しそうに遊んでくれたのがポイント高かったのか!?


「すごい……」

 シシリーが天井を見ながら呟いた。

「善行ポイント千越えなんて……」


「これでみんなで天国へ行けるということか」

 飼い主がようやく我を取り戻して、言った。


 シシリーと飼い主が仲良さそうに会話を始める。おれ、嬉しい。くくくっ。


「いいえ、ちょっと違うわ」

「違うって?」

「善行ポイントが千を越えると、選べるの」

「選べる……?」

「ええ。天国へ行くか、それとも、現世に戻るか、選べるの」

「そうなのか」

「カイヌシさんは……どっちを選ぶ?」


 シシリーに聞かれて、飼い主が考え込んだ。

 おれは兄さんとわちゃわちゃ遊びながら、思った。

 考えるまでもないだろ。天国へ行けばミルク飲み放題、カリカリも食べ放題なんだろ。


「天国へ行けば……どんな暮らしになるのかな」

 飼い主がシシリーに聞いた。


「永遠の命が得られて、一切の苦しみから解放される。何も考えず、ただ快楽だけを感じながら生き続けられるそうよ」


 おれは兄さんに聞いた。

「カイラクってなんだ?」

 兄さんが教えてくれた。

「飼い主にお尻を撫でられるようなことだ」

 おれはぷるぷる震えた。

「そんなくすぐったいのが、ずっと続くのか。おれ、耐えられるかな」


「よし」

 飼い主が決めたようだ。

「俺は現世に戻りたい」


 シシリーはびっくりしなかった。

 兄さんも何も言わずに微笑んだ。

 おれはびっくりした。


「飼い主!? 天国に行くんじゃなかったのかよ!?」


「うーたん……」

 飼い主がおれのほうを向く。

「シシリーさんの話を聞く限り、天国はそんなにいいところだとは思わない」


「いいとこだろ!」

 おれは主張した。

「ミルク飲み放題だろ! カリカリ食べ放題だろ! 永遠に生き放題だし、ぽけーっとし放題なんだぞ!?」


「うーたん」

 飼い主がおれと顔を突き合わせる。

「おまえ、俺とあのアパートの部屋で暮らしてた時、幸せだったろ?」


「おう」

 おれは飼い主の鼻を一舐めしてから、言った。

「めっちゃ幸せだったぞ」


「これはあそこへ帰るか、それとも永遠に眠り続けるか……そういう選択だと思うんだ。天国ってのは、あの暮らしが永遠に続くところじゃなく、別の俺達になってしまうことだとは思わないか? 俺もおまえも別々に、ただ眠り続けるだけだ」


 よくわからんので飼い主が喋るのに任した。


「現世に帰れば、苦しいことも、悲しいこともあるだろう。でも、シシリーさんとあっくんが加わるんだぞ? あの暮らしに」


 おれは頭の中に思い描いた。

 おれがいて、飼い主がいて……

 シシリーが笑ってて、兄さんが毎日遊んでくれるのを。


 なんて楽しそうなんだ!


「僕も飼い主に賛成だな」

 兄さんが笑った。

「飼い主と、おねえさんと、シロと、4人で一緒に生きたい」


 おれの名前は『シロ』じゃないぞ! と言おうとしたら、シシリーの言葉に遮られた。


「帰れるのね……、現世に!」


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