おれ vs 兄さん
飼い主の肩からぷしゅーっ!って血が噴き上がる。
とどめの一撃を兄さんが上から振り下ろした。
「飼い主!」
おれは叫んだ。
おれの叫びに答えるように、飼い主は剣を動かすと、兄さんの攻撃を弾いた。
そして後ろへ飛び退いて、距離をとる。
やばい。
このままじゃ、また飼い主、負ける。
負けたらたぶん、またもう一階層下の地獄まで落ちるから、探しに行かなきゃ……。めんどくさい。
おれはいいことを考えた。
「弱いな、飼い主。そんな弱いところも好きだ」
兄さんがそう言いながら間合いを詰めてくる。
「僕と二人きりでキミはずっと地獄で過ごすんだ!」
飼い主が防御姿勢をとる。
でも、へっぴり腰だ。
「兄さん!」
おれはありったけの声で叫んだ。
「これを見ろ!」
おれはぐんぐんと巨大化して見せた。
モッチーナと初めて会った時に見せた、あの、たぬき以上にイタチは化かすという、あれだ。ハッタリだ。
兄さんよりも巨大化し、一つ目入道となったおれを、兄さんは無視した。飼い主にまっすぐ突進していく。止まらない。無理もない。おれ、部屋の天井よりデカくなっちまったからな。幻なのバレバレだ。
でも、おれの狙いはそれだった。
「うっ……!?」
兄さんが慌てて声をあげた。
「ふあー……」
あくびをする。
ふふふ。おれは一つ目入道の幻を見せながら、兄さんの身体に飛び乗っていたのだ。
そして背中のほうに回り、首の後ろを狙った。鎧はそこにかかってなかった。
丸出しの首の後ろに、おれは噛みついたのだ。
兄さんもフェレットだ。ここを持たれたり、噛みついたりされれば、動きを封じられ、なぜかあくびが出てしまう。
おれの作戦勝ちだ。
おれって、なんて、頭がいい。
さあ、飼い主さん! 今のうちにやっちゃってください!
動きを封じられた兄さんを見ると、飼い主が剣を落とした。なぜ落とす?
間合いを詰めると、兄さんをぎゅっと抱きしめた。斬るんじゃなかったのかよ?
「あっくん……」
そして言った。兄さんは大あくびをしている。
「なあ……。俺と、うーたんと、3人で暮らさないか? 地獄で、ではなく、天国で」
「あっ! おれ、それ、賛成!」
おれは大きく口を開けて笑いながら、ばんざいした。
「いいね、それ! それがいいと思ってたんだ、おれも! 兄さんと遊びたい!」
「シロ……」
兄さんがおれをそう呼んだ。おれ、そんな名前じゃないぞ。
「キサマはいらない」
ぐりんとおれのほうを巨大な兄さんのブドウ色の目が睨みつけた。
しまった。大きな口を開けて笑ったから、兄さんの首の後から口を離してしまった。
兄さんの手が伸びてくる。おれを掴む。おれ、あくび出る。
兄さんの剣がおれの首をまっぷたつにする動きで、振られた。
「やめろーーーっ! あっくん!」
飼い主が叫んだけどもう遅い。
でも、兄さんの動きは止まった。
止まったっていうか、兄さんがぐんぐん小さくなる。
ただのフェレットになった。おれと同じぐらいだけどちょっとだけ大きなサイズだ。ハーネスを着せられていた。
「間に合ってよかったわ」
見るとシシリーが起き上がっていて、兄さんに着せたハーネスから伸びるリードをぎゅっと握りしめてくれていた。
「キャハハ!」
おれは兄さんの首の後ろにまた噛みつこうとした。
「ククク!」
兄さんが身体を横に捩ってそれをかわす。
「クスクスクス!」
おれは逃げる兄さんの首の後ろを追いかけた。
「クッ、ククッ、クククッ!」
兄さんも楽しいようだ。機嫌のいい声が出はじめた。




