おれの真の力を見ろ
「ふんっ!」
おれは気合いを込めて、上へ逃げた。
巨大ケージの檻は鉄製で、ひっかかりもなく、つるつる滑る。
それを両腕で固定して、人間が登り棒をよじ登るように、登っていく。
「うっ……! 届かない!」
兄さんが下から悔しそうな声をあげた。
「降りてこい! えーと……おまえ、名前なんだっけ」
おれは答えない。答えたいけど、答えられなかった。ここで声を出したらたぶん、落ちる。黙って登っていかないと……。
あ。もしかして兄さん、おれに答えさせて落とそうという策略かな。さすがは頭のいい、おれの兄さんだ。
「ならば、ケージを揺らしてやる」
兄さんは真下までやって来ると、ケージに激しく体当たりした。
がっしーん!
巨大ケージがぶるぶる震える。アパートの上の階の住人の足音ぐらい揺れた。つまり大したことない。
おれは登る。登る、登る。
おれの真の力を見せてやる。
おれはアホだとよくみんなから言われるが、みんなはわかってないんだ。
おれはアホだけど、それを補って余りあるほどの根性があるのだ。
「まあ、あの重たい鍵はおまえには外せない」
兄さんが余裕でカリカリを食べはじめた。
「そのうち疲れて落ちてくる。それを待ちながら、僕はこのハーネスからゆっくり脱け出すことにしよう」
えっ……?
カリカリ!?
よだれが垂れた。おれも食べたい!
でも待て。飼い主を解き放つんだ。今はそれだ。
じりじりじりじりよじ登って、おれは遂に鍵のところに辿り着いた。
鍵は棒みたいなのが上から挿してある。上に引っこ抜けばいいだけだ。重たそうだけど。
おれは取手の丸くなってるところを口にくわえると、そのまま上に、さらによじ登って行く。
棒が動き出した。
おれがよじ登るほどにそれが持ち上がっていく。
でも、きつい……これ。
重たいものを口にくわえて登っていくの、きつい。顎が裂けそうだ。
「頼むぞ、うーたん!」
飼い主が応援してくれた。
「このケージは『獄楼石』で作られている。この中に閉じ込められていると、俺は『マシャーン』に変身できないんだ」
そんなのどうでもいい。登るんだ、登るんだ! 今はそれだけだ!
うーっ……きつい! 顎が裂けそうだ! 腕がぷるぷる震えてはずれそうだ。
でも、根性だ! 根性でおれはなんでもできる! やってやる!
「もうすぐハーネスが外れるぞ」
兄さんの声がした。
「鬼戦士に変身して、キサマを引きずり下ろしてやる」
待ってくれ、兄さん。
もうすぐなんだ。
こっちももうあとちょっとで、鍵が外れる。
そうしたら下に降りていくから、一緒にカリカリを食おう。
「うーたん! 頑張れ!」
飼い主がおれに期待してくれてる。
なんにも手伝いとかしたことなく、いたずらで困らせるばっかりだったこのおれを。
産まれて初めて、大切なやつから期待される喜びを知ったのかな、おれ。
なんか、力が、みなぎった!
「ううう〜〜〜……!」
気合い、100%!
「うおりゃあーーーー!!!」
鍵が、抜けた。




