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飼い主の匂い

「あっ」


 おれは思わず声をあげた。


「どうしたの? うーたん」


 どこまでも変わらない紫色の空と赤い大地のあいだを歩いている時だった、ふいに見つけたのだ。


「飼い主の匂いだ!」


 間違いない。おれの大好きな匂い。ミルクとティッシュと油が混ざったみたいな、飼い主の匂い。


「どこから?」


 シシリーにそう言われて、おれは鼻を澄ました。


 下のほうだ。


「あそこだ!」


 おれが爪で指す先の地面に、おれひとりがようやく通れるような、つまり野球のボールぐらいの穴がひとつ、空いていた。


「これじゃ私、通れないわ」


 シシリーが呟いた。弁護するけどシシリーはデブじゃないぞ。人間にしてはかなり細いぐらいだ。穴がちっちゃいだけだ。


 シシリーは穴の中を覗くと、顔をあげた。


「これじゃカイヌシさんも通れないはずよ。どこかに大きな入口があるんだわ。それを探さないと」


「おれ、中から探すよ!」


「ひとりで行ったら危ない。もし中でパスバ・レイに出会ったら……」


「でもおれ、逃げ足結構速いぞ」


「でも……そうね。外から探すよりは中からのほうがどこに入口があるかわかりやすいかもしれない」


「じゃ、行ってくる」


 ぴょーんと穴の中に入り込もうとしたおれの首の後ろをシシリーが掴んだ。やめろー! そこを掴まれるとおれ、あくびが止まらなくなるんだー!


「気をつけてね、うーたん」

 くるんと回されて、シシリーに顔と顔を突き合わされた。泣きそうな、心配そうな顔だった。

「パスバ・レイにもし出会ったら、逃げるのよ? 絶対に戦っちゃだめ。絶対に勝ち目がないから」


 ちょっとムッとした。おれも結構強いつもりだぞ。


「それから、中でもしカイヌシさんを見つけても、悔しいだろうけど助けようとしちゃだめよ? 大きな入口を見つけることだけを考えて。見つけたら、私はここで待ってるから、知らせに来て」


「おう」

 おれは、あくびを繰り返しながら、言った。

「はやく離せ」


 まったく。どうしておれたちフェレットは、首の後ろを掴まれると動けなくなって、かわりにあくびが出るんだろう。人間の偉いやつでも理由は解明できないそうだ。


「もしダメそうなら、すぐに出てくるんだよ? その時は一緒に外から探そう。帰り道、わからなくならないようにね。帰り道、わかる?」


 大丈夫だ。おれ、さっきの泉で身体じゅうにミルクがついてる。ミルクの匂いを辿ればいい。そのことを話すと、シシリーがようやくおれを離してくれた。


「行ってくるぜ」


 そう言って、おれはするると穴に入り込んだ。


「うーたん!」

 シシリーの声が穴の外に遠くなった。

「気をつけて!」


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