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ヘルリアーナ vs シシリー・ヒトリ

「待つにゃ!」


 これまた聞き覚えのある大声が、後ろからおれ達を呼び止めた。


「へ……ヘルリアーナ様!」

 モッチーナが血相を変えておれ達に言った。

「に、逃げてください! マシャーン様! 珍獣様も!」


 知ってる。おれ、そいつ知ってる。


 思った通りのでっかい黒猫が、おれ達を見下ろして天を塞いだ。


「おまえ、マシャーンなのかにゃ」

 ヘルリアーナは好奇心マンマンの笑顔を浮かべた。

「このヘル様とどっちが強いか、勝負にゃ!」


 有無を言わせずブルドーザーみたいな爪を振り下ろしてきた。


 シシリーがおれを抱いて飛び退く。

 ドガーン!と激しい音がマガマガしい空に響いた。空振りだ。


「その胸に抱いてる細長いやつもうまそうにゃ! お尻のところが特に、もちもちしてそう!」

 ヘルリアーナがそう言って赤い舌をべろりと出した。


 おいおい。一緒に飼い主のハンモックでお昼寝した仲だろ。忘れたのか?

 って、そうだった。このヘルリアーナもあっちの世界のヘルリアーナとは違うやつだった。


「さすがはあっちの世界で私の代わりを努めてくれているだけのことはありますね」

 シシリーが剣に手をかける。

「それでも私の敵ではない」


 オーロラを纏ったシシリーの剣が弧を描いた。(←うわ、おれの描写力かっこいい)


 パパパパパパパ!


 爪切りをするように、ヘルリアーナの五本の爪の先を揃えて切り取る。

 これされるとおれ、いたずらで飼い主のハゲ頭掘っても、「ああ、うーたん。気持ちいい。そこそこ」とか言われていつもつまらなくなる。

 ヘルリアーナも同じみたいで、途端にやる気をなくしたみたいだ。


「にゃーはっは! さすがに強いぜよ!」

 爪を収めて笑う。

「それだけ強いなら、負けを認めるにゃ」


 あ。なんか続けて言うことが予想できる。

 その強さを見込んで頼みがあるとか言うんだろ。


「その強さを見込んで頼みがあるにゃ」

 やっぱりだった。

「この先に『ケンさん食堂』というライバルの店があるんにゃが、それを潰してきてくれんかな」


 ばーか。シシリーがそんなこと受けるわけがないだろ。


 シシリーが答える。

「お安い御用です」

 おれ、予想はずれた。

「どうせ私達もそちらへ伺うところでしたので、ついでに潰してきてあげますね」

 シシリーの微笑みが天使という名の悪魔みたいだ。



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