飼い主、死す
あっくんの剣が飼い主の頭に降って来た。
飼い主は避けもせず、それを貰った。
かぶっている金色の鎧の頭が見事に割れ、2つに別れて落ちた。
おれはそれをぼーっと見てた。
いや、まさか。こんなことあり得ないだろう。これってきっと夢だろう。そう思いながら。
「あっ……くん……」
飼い主が頭からぴゅーぴゅー赤い噴水を上げながら言う。
「お前も……うーたんも……どっちも愛してるんだ」
「僕だけを愛してくれよ。永遠に」
そう言うと、あっくんの剣が今度は飼い主の心臓を一突きにした。
飼い主はあっくんの胸に抱きつくように、死んだ。
いや、死んでないだろ。
死ぬわけない。
死んだのか?
本当に?
「カイヌシさまぁーーーっ!!」
後ろでモッチーナが絶叫した。
「貴様! このイタチ鬼め! 許さん!」
「飼い主はこれからずっと、僕と一緒に暮らすんだ」
あっくんが飼い主を抱き抱えた。
「行こう、飼い主。僕らの永遠の愛の巣へ」
モッチーナの巨大包丁が空振りした。
あっくんは飼い主の身体をお姫様抱っこしたまま後ろへ飛んだ。
そのままオーロラ色の地獄共同エレベーターの中へ消えて行った。
「カイヌシ様! カイヌシ様!」
顔中を涙とはなみずだらけにしたモッチーナがおれを睨んだ。
「珍獣様っ! 何をぼーっとしてらっしゃるの!? カイヌシ様が殺されたのよ!?」
いや……、おれ、そんなはずはないって、思っちゃって……。
「これはぼーっとしてるんにゃなく、びっくりした顔にゃな」
へるたんがフォローしてくれた。
「目の前で起こったことが信じられないんにゃ」
「じゃ、カイヌシさん死んじゃったんで、私はこれで」
犬が帰りかけた。
「待てや、犬コロ!」
モッチーナが鬼のように叫んだ。犬がビクッとした背中で立ち止まる。
「カイヌシ様は1階層下の地獄へ連れて行かれただけよ! ねぇ、ヘルリアーナ様? 助け出す述はありますわよね?」
「難しいにゃ」
へるたんは答えた。
「普通、この地獄共同エレベーターは同じ階層の別の次元を行き来するものにゃ。でも、今のイタチ鬼は明らかに違う階層から来てたにゃ。何か裏技のようなものできっと別階層へ行けるんにゃと思うにゃが、にゃかにゃかにゃー、にゃー、にゃー……。ちなみに昨日は2月22でねこの日だったのにゃ!」
「カイヌシ様を救いに行きましょう!」
「いや、モッチーナ。そこまでの義理は、あたし達にゃ……」
「義理ではございませんっ! これは……愛ですのっ!」
「愛とストーキングって同じものなのかにゃ?」
おれは地べたにぺたんと座り込んだ。
いつもはそこからくねくねとした動きでゴロンゴロン転げ回りながら毛づくろいをし、飼い主の恋するような視線を誘うのだが、今日はそのまま何も出来なかった。
ようやく涙が出はじめた。
なんだよ。
死ぬ時は同じ日、同じ時、同じ場所じゃなかったのかよ。
あの誓いは嘘だったのかよ、ばーか(涙)
飼い主……。
飼い主ぃぃい〜!!!
クッ……クウッ……キャンッ、キャアンッ……と口から声を漏らしはじめたおれを、ヘルリアーナと犬とモッチーナがじっとりとした目で見下ろしてた。
「珍獣って泣くんだな。キモいにゃ」
へるたんが言った。うるさい、泣かせろ。
「今なら殺れるかも?」
犬が言った。殺したいなら殺せ。
「珍獣様がいらっしゃらないとカイヌシ様と再会した時、嫌われてしまいますわ」
モッチーナが言った。唯一好意的だ。
「とりあえず私はカイヌシ様を助けたいと思います。でも、方法が……」
「方法ならあるよ!」
それまで黙って存在を忘れられていたデグ太郎が大きな声を出した。
「本当ですの!?」
モッチーナが、おれが「本当に!?」と言うより先に声を出した。
「どうするんですの!? 1階層下の地獄へ行くには……!?」
「僕は知らない」
デグ太郎がそう言ったのでモッチーナとおれは並んでコケかけた。でも、ネズミは続けてこう言ったのだった。
「でも、シシリー・ヒトリが知ってるはずだよ!」




