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善行ポイント

 急に空からエンマーの声が降って来た。


『善行ポイント、259』


 おお! 大量ゲットだ! しかもなんか半端!

 やっぱり可愛いフェレットの危機を救うと善行半端ないってことだな? 数字は半端だけどな。


「エンマーさん!」

 飼い主が空に向かって叫ぶ。

「教えてください! 一体、善行ポイントをいくら貯めれば天国へ行けるのです!?」


 でもエンマーの返事はなかった。



 おれはやって来た地獄のサップーケーのほうをふと振り返った。すぐ目の前の色とりどりのオーロラに照らされてか、なんだか薄めたおしるこを振りまいたみたいな地味な紫色の空が広がっていた。どろどろしてる。


 くるんと前を見ると、まぶしい。テレビの画面をひっついて見てるみたいだ。色がありすぎて目がくらくらしそう。


 そのまぶしい光の中から、何かが出て来た。

 2人並んで歩いて来る。飼い主より背の低いやつらだ。


「善行ぽいんと、良いですな」

 そいつの1人が穏やかな男の声で、飼い主に話しかけて来た。

「羨ましい。259ぽいんとも一気に獲得されるとは」


「誰です?」

 飼い主が目を細めながら、聞く。

「平行世界の……私とは違う地獄の亡者さんですか?」


 2人が歩いて来ると、だんだん姿が見えて来た。

 ひらひらした服の男女だった。男は飼い主より丸っこくて……いや、おれに描写はムリ。飼い主、頼む。


「江戸時代の人かな? 質素な和服に身を包み、男性は年の頃四十代半ばという感じで、頭になぜか葉っぱを乗せ、たぬき系の顔をしている。女性は二十代前半に見える、小柄なキツネ顔の人だ。頬が紅くて、可愛らしい感じの女性だな」


 2人は飼い主の前で立ち止まり、丁寧に頭を下げると、男のほうが言った。


「申し遅れました。私の名前は小田抜おたぬきぽん。こちらは私の妻で、りんと申します」


「亡者なのですか? 私とは別の地獄の?」


「はい。あなた様の噂は私の地獄のほうにも伝わって来ていますよ。黄金鎧のましゃーん様ですよね?」


「私の名前はカイヌシです」

 飼い主も頭を下げた。

「そうお呼びください」


「ではカイヌシさん、折り入ってお願いがあるので聞いてください」

 男のほうが言った。

「あなたの善行ぽいんとを私達に恵んでくいただきたいのです」


「何を言い出すんだ!」

 おれは思わず声を上げた。

「会ったばかりのやつにそんなものやれるわけないだろ! 新しく会うやつとはまず、ケージ越しに挨拶して、相性を確かめて、喧嘩しないってわかってから初めてご対面させるもんだろ!」


「うーたんの言う通りです」

 さすが飼い主。同意してくれた。

「出会ったばかりの方に渡せるわけがありません。この善行ポイントは私とうーたんが頑張って貯めたもの。天国に行きたいのはあなたも私も同じ。頑張ってご自分で貯めてください」


 すると女のほうが泣きはじめた。

 同情を誘うように、うっ、うっ、うっ、と声を漏らして泣き崩れる。

 それを支えると、男のほうが飼い主に縋るような目を向ける。そして、言った。


「私達には力がないのです。ここへ来て二百年経ちますが、善行ぽいんとはいまだにひとつも貯まっていません。あなたには力がある。あっという間に三百十九もお貯めになった」


「よく知ってますね」


「善行ぽいんとは三百貯めれば天国へ行けます」


「えっ? じゃあ……」


 そうだよ。もうおれ達、天国行けるじゃん。


「ただし、地獄に百年以上滞在していることが条件なのです」


「ええっ!?」

 飼い主がびっくりして声を上げた。そんなこと聞いてないもんな。


「申し上げた通り、私達はもう二百年ここにおります」

 男が同情を誘う目で飼い主を見る。

「あなた様の稼いだ善行ぽいんとを譲っていただければ、すぐに天国へ行けるのです」


「な……、なるほど」

 飼い主は体をゆらゆら揺らしながら、言った。

「私が持っていても100年待たないと天国へは行けないが、あなたに譲れば、すぐにでもそれを使えるわけか……」


「そうです。そしてカイヌシ様なら百年の間に三百ぽいんとを再び稼ぐことなど朝飯前でございましょう」

 夫婦揃って深々と頭を下げて来る。

「どうか! 人助けだと思って、その三百ぽいんとを私どもに譲ってはいただけないでしょうか!」


 うん。ここで断ったら飼い主、人間じゃないみたいな雰囲気だ。

 しかもおれは知ってる。飼い主は人がいい。よすぎる。頼まれたら断れない。


「そうですね」

 飼い主がうなずいた。

「もしかしたらあなた達を助けたことで善行ポイントが貰えるかもしれないし……」


 おれは気づいたぞ。たぬきみたいな男の目が、きらーんと光った。これは悪いことを企んでるやつの目だ。


「お待ち!」

 モッチーナがたぬき親父を睨みつけながら、間に割り込んで来てくれた。

「100年地獄にいないといけないとか、そんな条件聞いたことないよ!? カイヌシ様、この親父は詐欺師でございます! どうか信用なされませんよう」


「し、しかし……」

 飼い主の体がぐらぐら揺れてる。

「人助けは……するべきもので……」



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