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鬼! 鬼! 鬼!

 おれの大好きな匂いがあの鬼の群れのほうから漂って来る。マーシャルファーム製のカリカリの匂いだ!


「へげげ」

「へげっ」

「へげえええ!」


 よし、食ってみよう。


 おれは駆け出した。奇声を発しながらこっちへやって来る鬼たちに向かって。


「待てっ! うーたん!」

 飼い主が叫ぶが、おれは止まらないぜ。

「嫌な予感がする! やめろっ!」


「あーあ」

 モッチーナの声が後ろで聞こえた。

「珍獣様、死んだわね」


 死ぬわけないだろ、おれ、主人公なのに。


 って……あれ?


 鬼たちの様子がなんか変だ。


 おれより小さかったはずなのに、ぐんぐんでっかくなって行く。


「ばーさーかー!」

「ばさかかかか!!」


 なんか鳴き声も変わった。声が野太くなって行く。


 逞しい。人間より逞しい。めっちゃ巨大になった。まるで5メートル級の巨人だ。


 おれが食えるわけない。勝てるわけない……、これ。


 助けろ、飼い主。


「ばさっ!」

「ばささーーっ!!」


 一斉にそう叫びながら手に持ったトゲつきの金属バットみたいなの振り下ろして来た。


「うーたんっ!!」


 飼い主がおれをかばって、覆いかぶさって来た。


 ばきーん!


 どっきん! ばっきん!


 飼い主をバットがめった打ちにする音が響く。


 ごめん、飼い主! おれ、助けてやりたいけど怖い! 体が動かない。震えが止まらない!


「ばっさっさーっ!!」

「ばさささ!!」

「ば……へげっ!」

「へげげげえーっ!」


 鬼たちの声が遠ざかって行く。飼い主の隙間から見ると、元のハムスターに戻って、みんな揃って去って行くのが見えた。


「カイヌシ様!」

 モッチーナが悲痛な声を上げて駆け寄って来た。


「大丈夫です」

 飼い主が声を出した。よかった! 生きてた!

「この金色の鎧に守られた。これ、凄い。全然痛くなかった」


 でもゴルフボールみたいにボコボコになってる。すまん、おれのせいで……。


「うーたん、大丈夫か?」

 おれが悪かったのに、優しくだっこしてくれる。心配そうに顔を覗き込んでくれる。

「怪我はないか?」


「うええん……」

 おれ、泣きながら飼い主にスリスリした。

「いい匂いがしたんだもん! いい匂いがしたんだもん!」


「よしよし」

 全身を撫でてくれながら、飼い主がほっとした声を出す。

「もう危ないことはするなよ?」


 おれのお尻を下から手でたぷたぷ揺らしてくれる。気持ちいい。おれはお詫びに飼い主の顔をペロペロした。


「そう。……思ってたんにゃ、前から」

 へるたんが横から言った。

「鬼様たち、実はいい匂いがするのにゃ。高級キャットフードみたいにゃ……」


「あ、わかる?」

 おれはへるたんに言った。

「すごく香ばしい匂いがしたんだ」


「もしかしたら鬼様はあたし達の食べ物かもしれん」

 へるたんが楽しそうなことを言う。

「でも、鬼様はあたしのお客様にゃ。食べるわけには……」


「鬼様については実は私達もよくわかっていないのです」

 モッチーナが言った。

「小さくもあり、大きくもある。言葉が通じないと思えば、普通に会話できることもある。変幻自在なのです。ですから、もしかしたら……」


「もしかしたら?」

 飼い主が先を促す。


「もしかしたら……、鬼様は、珍獣様が大好きだという、カリカリとかいうものにも姿を変えられるのかも」


「な、なんだってぇ~!?」

 おれは思わず声を上げた。


「お、鬼様って、食べられるのかにゃ!? 食べてもいいものなのかにゃ!?」

 へるたんもおれと同じぐらい興奮している。


「でも、食べてはいけませんよ?」

 モッチーナが主人をたしなめるように言う。

「うちの大切なお客様なのですから」


「……はいにゃ」

 へるたんは素直な返事をした。


 でも、おれは返事をしなかった。希望の光を見つけた気がした。この、ごはんにありつきにくい地獄で、食べ物を見つけた気がしたんだ。



「さあ、行くぞ、うーたん」

 飼い主はおれを鎧のお腹にあるポケットに入れた。

「あそこに行けば、他の亡者さん達と繋がれる」


 目の前にオーロラみたいな色の超でかいエレベーターが見えて来た。


 おれはわくわくした。

「どんなやつらに会えるかな?」



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