亡者共同エレベーター
「シシリーちゃん……」
飼い主が呟いた。
「また……会えるのだろうか」
「うん。おれも会いたい」
同意してやった。
「なんとなくだけど、おれ、予感がするよ。おまえとシシリーが一緒になって同じ敵と闘うことになるって」
「頼もしいな」
飼い主が笑ってくれた。
「動物のカンはあてになるからな」
「それより気づいてるか?」
おれは言いながらモッチーナを振り返った。
「すごい顔しておまえのこと見てるぞ」
「ああ……。なぜだろう。なぜ、あんな般若のような顔で俺を見るのだろう」
「鈍感なやつめ」
「ところで私……」
一番後ろをついて来ながら、犬が言った。
「そろそろ新しい店を建てるため帰りたいのですが……」
「うん。帰ってほしい」
へるたんが瞳をうるうるさせながら言った。
「こわいから。……ハウスにゃ!」
「私がついているから大丈夫です、ご主人様」
モッチーナがへるたんを安心させようと言った。
「おい犬コロ。こっそり帰ろうとなんかしたらしばくからな。お手!」
「モッチーナしゅごい! 頼もしいにゃ!」
「ククク。私は猫好きですが、犬を調教したこともございますのよ」
「犬に命令できるなんてしゅごい! まるでテイマーにゃ!」
「まずはどちらが上か思い知らせることが肝心ですのよ。ご主人も頑張って。いつものように上から目線で見下ろして」
「怖いにゃ〜……」
「見えて来たな」
飼い主が言った。
「あれが地獄の亡者用共同エレベーターか」
「おれ、エレベーターって乗ったことがないからわからない。あれがエレベーターなのか」
「うん。エレベーターっていうより平行世界の接点だな。それぞれに平行して交わることのない、それぞれの亡者達の地獄世界が、あそこでは交わっている」
「オーロラみたいだよな」
「よく知ってるな、うーたん。オーロラなんて」
「テレビで一緒に見たぞ。覚えてないのか」
「すごい景色だな」
飼い主が間近に見えはじめたエレベーターを見ながら、言った。
「空間が歪んでるんだ。その歪みが虹のような、オーロラのような色に、静かに渦巻いている。まるで殺風景な地獄のオアシスのように心癒やされる……しかも壮大な景色だ」
「おまえの言うことは難しくてさっぱりわからん」
おれは言ってやった。
「それより早くあそこ行くぞ……ん?」
おれは気になるものを前方に見つけた。
まだまだ続くガレキの地面の上を何か小さいものがたくさん、ワラワラとこちらへやって来る。
「なんだ、あれ」
「ネズミか?」
飼い主が背中の大剣に手をかけて身構える。
「鬼様にゃ!」
へるたんが嬉しそうに言った。
「あたしのお客様にゃ! お仕事してるんにゃ!」
「あれが鬼……」
飼い主は警戒し続ける。
「つまり地獄ハムスターか」
「へげげ!」
「へげげげ!」
「へげっ!」
「へへへげげげーーっ!!」
そんな下品な声を上げながらこっちへ押し寄せて来る鬼達を見ながら、おれは感想を言った。
「全然怖くないな」
「そうか?」
飼い主は違う感想を言った。
「理性のかけらも感じないぶん、おれは恐怖を感じる。しかもあいつら、人間を食うんだぜ」
「モッチーナや犬さんが調理したやつを、だろ。調理してもらわないと食べられないなんて……」
そこまで喋って、おれは黙った。
おれも一緒だなと思った。
カリカリや缶詰にしてもらわないと、生の動物とか食べられない。
「へげっ! へげっ!」
「へげげえー!!」
鬼達が顔が確認できるぐらいまで迫って来た。結構足が遅い。
体はちっちゃいけど顔が怖い。ツノが生えてる。頭にだけじゃなくて、ほっぺたや、顎にも。悪い人間みたいに傷だらけの顔だ。
なんていうか、明らかに素通りする様子じゃない。
おれ達に向かって来てる。
っていうか、なんなんだろう……。
いい匂いがする、あいつら。
これって……
おれの大好きなマーシャルファーム製のカリカリの匂いだ!




