マシャーン
おれ達5人(イタチ含む)とシシリー・ヒトリはその場で円になって座り込み、話をした。
「まさか私の他にもましゃーんがいるとはね」
シシリーが敵意も大剣も横に置いて、言った。
「嬉しい。仲間に会えるなんて。最初はムカつく感じのただのオッサンだと思ってたけど」
敵意を消されたらなんだかかまってみたくなった。おれはシシリーに駆け寄ると、下から顔をじっと見た。
「あっ! かわいい!」
笑ってくれた。おまえも笑うと結構かわいいぞ。
「何、この子? なんて動物?」
「フェレットです」
飼い主が紹介してくれた。
「私の相棒で、一緒にここへ落ちて来ました」
「だっこしても大丈夫?」
「大丈夫ですよ。あ、ただ、細長いのでするりと落とさないように」
シシリーがおれの脇に手を差し込むと、鎧を着た胸にだっこしてくれた。
あ、こいつ動物好きだ。おれ、わかる。気遣ってくれるみたいな触り方でわかる。
「ここが気持ちいいですね」
おれの尻を下から持ってユラユラ揺らす。
そう、そこをそうされるとおれ、へんな気持ちになって大あくびが出るんだ。
「わっ。あくびした〜。かわいい」
にこにこ笑うシシリーを飼い主もにこにこ見てる。今のところ邪念はなさそうだ。
金色の長い髪がおれの鼻をくすぐる。面白い、これ。手でバシバシするとユラユラする。ミルクみたいないい匂いもする。おれは手でかき集めて口に入れて、奥歯でがしがし噛んでみた。
「こらっ! うーたん!」
飼い主に叱られた。
「女性の髪の毛をオモチャにするんじゃない!」
「いいんですよ」
シシリーが許してくれた。こいつ、いいやつだ。
「いっぱいオモチャにして遊んでね〜。ふふ」
「ところで『ましゃーん』とは何なのですか?」
飼い主がシシリーに聞いた。
「私はそういう、神に選ばれた戦士とかなのですか?」
「地獄をあまり非道な場所にしないよう、バランスを取るために特別な力を持った戦士を神が召喚するのです」
シシリーはおれのしっぽで遊びながら、答えた。
「でも、初めて他のましゃーんに会ったんですよ? 仲間が増えて嬉しいです。一緒にこの地獄に秩序をもたらしましょう」
「地獄で……?」
飼い主が辛そうな顔をした。
「いや、しかし……私は天国へ行かなければならない」
「天国へ行ったらこの素晴らしい力は失われるのですよ?」
そう言いながらシシリーは自分の身体を包んでる銀色の細身の鎧を見せつけた。
「こんなカッコいい立場を放棄するなんて、気が知れないわ」
「しかし私は天国へ行きたいのです」
飼い主が言った。
「うーたんに一生カリカリとミルクとおやつに囲まれた生活をさせてやりたい。ここではカリカリすら手に入らない」
「ペット思いなんですね」
シシリーが微笑んだ。
「わかりました。ここを通して差し上げましょう」
「ほんとうか!」
おれは思わず喜びの声を上げてしまった。ツンデレが台無しになった。
「私はここを悪しき亡者が通って行かないよう見張る番人なのです。カイヌシ様、あなたなら問題ないです。通ってください」
「あ」
飼い主は頭を下げた。
「ありがとう」
ちょっと名残惜しそうにも見える。
「ところで」
シシリーがまた飼い主に聞いた。
「あなた……さっき、私のことを『独りなのか』とお聞きになりましたよね? あれはどういう意味ですか?」
おれが説明した。
「こいつ、自分がぼっちなもんだから、寂しいやつに感情移入しやすいんだ。独りのやつを見るとほっとけないんだ」
「まあ!」
シシリーがくすくす笑う。
「お優しいんですね! でも私は大丈夫。ここで楽しくやっていますから」
「寂しくはないのですか」
「ええ。ここを通ろうとやって来る亡者との闘いが生き甲斐なんです。だから私のことはお気遣いいりません。どうぞ、この先へ」
「ありがとう」
おれ達5人は番人に許され、こうして亡者共同エレベーターへ向かって歩き出した。
「また、どこかでお会いしましょう」
後ろで手を振るシシリーが遠くなって行った。
で、結局シミズリヒトって何だったんだ? と思ったけど、まぁ、どうでもいいので歩いて行った。




