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デグ太郎と鬼

 デグーマウスをご存知だろうか。


『アンデスの歌うネズミ』と呼ばれる、とても賢い動物だ。

 脳の小ささと知能の高さが全生物の中で最も反比例するといわれ、なんと犬でも理解できないマトリョーシカ構造を理解できる。

 道具だって使える。狭い隙間の向こうにあるおやつを割り箸を使って手繰り寄せられる。




 僕の名前はデグ太郎。前世の名前は覚えていない。


 僕はアパートの下の部屋の人が起こした火事に巻き込まれ、飼っていた3匹のデグーマウスと一緒に焼死した。


 気がついたら地獄にいて、3匹も僕と一緒にいた。


 でも、デグー達はそのままの姿をだったけれど、僕だけが姿を変えて転生していた。


 僕も3人がと同じ姿の、つまりはデグーマウスになっていたのだ。




 デグーはペットとしてとても飼いやすい。

 言った通り賢いし、群れで生活する動物だから、人間を仲間だと思ってさえくれればとてもよく懐く。

 完全草食で、基本的に草や木の実や野菜しか食べないから、うんこも臭くない。

 トイレの躾はできないけど、週に1回程度掃除してやれば匂いだって気にならないんだ。


 でも、はっきりいって、人気はない。


 その理由はなんといっても見た目だと思う。


 ドブネズミと見分けがつかないのだ。


 違うのは顔が丸っこいことと、しっぽの先にほうきみたいに毛が生えてることぐらい。


 まあ、世間一般的にはかわいいとは思ってもらえないだろう。

 僕にとって、どんなにかわいくて、たまらなくても。





「デグ美、寒くはないか?」

 僕はぷるぷる震えてる彼女に話しかけた。


「うん、ちょっと寒い。あたためてほしい」

 ピーピーと美しい鳥のような声で、デグ美は答えた。


「あたしも寒い。デグ太郎さん、あたためて」

 おちゃめこも側に寄って来た。


「鬼は大丈夫かな。近くを通ったりしないかな」

 デグ美がぷるぷる震える。


 どうやら震えているのは寒さのせいだけではないようだ。

 僕らは食物連鎖ピラミッドの底辺。アメーバやバクテリアよりも弱い生物。だからとても怖がりだ。

 何しろ僕らより弱い生き物なんて植物しかないのだから。



 セッコーくんが鬼を見張ってくれている。彼ばかりに見張りをやらせるわけにはいかない。後で僕が代わってやらなくては。



 3匹は僕が人間だった頃以上に、僕に懐いてくれている。デグ美もおちゃめこも、僕にベタベタだ。でも僕は彼女ら2人に対して甘い気持ちにはなれない。こんな姿になっても、やっぱり恋愛対象は人間の女性なのだ。



 鬼が外をうろついている。迂闊に外に出られない。でも明日の朝になったら食糧を調達に行かなければ。雑草をたくさん刈って来てストックしておきたい。幸い草場があるのを見つけてある。


 善行ポイントなんて貯める暇がない。生きるので精一杯だ。鬼に見つからないように、僕らは地面に穴を掘って隠れている。出入り口は石で隠してあるけど、心配で心配でしょうがない。




 僕は女性2人を置いて、出入り口のほうへ向かった。

 セッコーくんが隙間からじっと外を窺っている後ろ姿がみえた。


「セッコーくん、お疲れ。見張り、代わろう」


「シッ」

 セッコーくんは外の様子を窺ったまま、言った。

「鬼の気配がしやがるんだ」


 僕は黙って、セッコーくんと並んで石と地面の隙間から暗い外を覗いた。


 たったったっ、という足音が聞こえる。


「へけっ」という、鬼特有の声が聞こえた。


 いる。こちらに気づいているかどうかはわからないが。


 僕はスコップを手に持ち、待ち構えた。セッコーくんは既に同じものを手に持っている。



「キーー!」



 突然、隙間から鬼がこちらを覗き込んだ。



「ジジッ!!」


「チチッ!!」



 僕とセッコーくんが同時に危険を知らせる。



 洞穴の奥の部屋で、デグ美とおちゃめこが逃げ出すのがわかった。

 僕らはスコップを振りかぶると、鬼の顔面を叩いた。



「へけけけけけっ!」



 鬼はしかし攻撃を手で払いのけると、液体みたいに柔らかい身体を隙間に潜らせて、入って来る。


 鬼の恐ろしい全貌が見えた。肉を食う赤い口を大きく開けて、鋭い前歯を剥き出しにして襲いかかって来る。僕は先制攻撃で噛みついた。でも鬼の身体は何しろ液体だ。ぼよんと波打ち、弾かれた。



「撤収ー! 撤収ー!」



 セッコーくんと二手に分かれて穴の中を走った。鬼は僕のほうを追って来た。それでいい。3匹のほうから引き離してやる。


 鬼が僕を追いかけながら口を開ける。彼らの口はその小さな身体に似合わない。人間すら飲み込めるほどよ大きさにまで開く。


「へけえーーっ!!」


 赤い目をギラギラ光らせて飛びかかって来た。


 大丈夫。僕らには知恵がある。


 僕がボタンを押すと、アルミのシールドが天井から素早く降ろされた。


「へっけえーーっ!!!」


 鬼の悔しそうな声が、シールドの向こう側に聞こえた。



 彼らはハムスターの姿をしているが、前世もハムスターだったのだろうか?

 なんだかなんとなくだが、人間臭い。




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