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第2話 膝枕×耳かき

翌日、今俺・・・・・・僕の部屋には昨日の女子高生がいた。

「今日が土曜だからって家に押し寄せないでください。あなたは——」

彼女に対する嫌味を漏らそうとした時、それを遮る様に彼女は顔を覗かせる。ぷくっと頬を膨らまして眉を釣り上げた。

「あなたじゃなくてお姉ちゃんでしょ? あと敬語もダメって昨日言ったよね? 」

そう。昨日の回想に入ってしまうが、彼女・・・・・・お姉ちゃんは僕に色々指示を出したのだ。

まず、自分をお姉ちゃんと呼ぶこと。

一人称は僕にすること。

敬語はやめること。

お姉ちゃんに沢山我儘を言うこと。

そして・・・・・・お姉ちゃんを好きになること。


もちろん好きとは言っても恋愛的な意味合いではなくお姉ちゃんとして好きになって欲しいと言うことだ。全くもって面倒な話だ。


それから毎週土日はお姉ちゃんと過ごすこと。この指示がお姉ちゃんが出したものだ。

これに従わない限りお姉ちゃんは僕の勉強を見てくれないらしい。

今日は一日目と言うことで僕の家でお姉ちゃんの願いを聞くことにした。そしてそのお願いというのが・・・・・・。

「膝枕をして耳かきをさせて欲しいの! 」

という、マニアックすぎるお願いだった。

そりゃあ僕だって人の膝の上に頭を乗せて耳を弄られるなんて嫌なのだが。これも仕事の内だ! と僕の中の羞恥心は切腹を余儀なくされた。


というわけで早速お姉ちゃんはカーペットが敷かれた僕の部屋に正座をし、片手には耳かきを持ってスタンバイ完了の状態で僕のほうを見る。

心做しか顔に「早く! 早く! 」なんで書いてある様な気がする。

キラキラさせるお姉ちゃんの目とは裏腹に、僕の目には光がなかった。

ため息混じりでお姉ちゃんの横に座り、そのまま体を倒す。

お姉ちゃんの今日の服装がショートパンツだった事もあり、お姉ちゃんの太ももが直に当たる。すべすべでマシュマロの様な肌が僕の髪に当たる。肌の温かさがより気持ちいい。

「じゃあ、優くん。あの言葉を言ってね。」

この作業を始める前に、言って欲しい事があるとお姉ちゃんに言われた。その言葉はあまりにも恥ずかしすぎて本当に言いたくない。幸いなことに今僕はお姉ちゃんの顔が見れない状況だ。

ゆっくり息を吸って震えた声で僕は言った。

「お、お姉ちゃん・・・・・・僕を・・・・・・甘やかして・・・・・・」

顔が熱い。そりゃそうだ。死ぬ程恥ずかしいセリフを言ったんだから。お姉ちゃんの顔は見れなかったけど、その後に言った「うん! たっぷり甘やかすね! 」の声がめちゃくちゃ弾んでいるのを聞いて、ああ、ご満悦なんだなと思った。


そしていよいよ耳かきが始まる。まずは右耳から。ひんやりと冷たい耳かきが僕の耳に吸い込まれていく。手探りで動く耳かきが気持ちいい。お姉ちゃんの方片方の手は僕の耳を優しく固定していた。

耳の中をゆっくり掻き回しながらだんだんと耳の奥に入っていく。

耳かきの先端で触られる度に耳から刺激が走るのを感じた。

「おや、こんな所に大きいゴミが・・・・・・」

女の子の口からまさかの自分の耳に対する発言が出てくるなんて。しかもゴミって。

かなり深い所にそれがあるからなのか、少し痛みを感じた。ざわざわする耳と痛みに声を出さずに耐えていると何かが耳から抜けているのが分かる。お姉ちゃんの嬉しそうな「とれた!」を聞いたらその正体が耳くそなのだと悟った。

相当おおきい耳くそだったのか、それがとれた瞬間にかなりの爽快感を感じた。

ティッシュをとる音が聞こえ、これでやっと終わったのかと思っていたらお姉ちゃんから更なる一言が。

「じゃあ次は反対だね。」

僕はその言葉に体を起こす。お姉ちゃんは耳かきを持ったまま「どうしたの? 」と首をかしげた。

この人は本気だ、と理解すると仕方なく左耳をお姉ちゃんに差し出した。

そしてその時にやっと気付く。これ・・・・・・お姉ちゃんのお腹に顔を向けているんだけど!

僕の顔とお姉ちゃんのお腹の距離は多分五センチもない。さっきよりもより緊張していると、再び耳かきが僕の耳の中に吸い込まれた。

耳かきの気持ちよさも然る事乍ら、僕の視界に入るお姉ちゃんのピンク色の服・・・・・・。そして香水なのか、それとも柔軟剤なのか。甘い匂いが僕の鼻を刺激する。

早く終われー! と必死に耐えていると、やっとその時がきた。


「はい、優くん。終わったよー」


その声で瞑っていた瞳を開く。ゆっくり起き上がると、お姉ちゃんが持っていたはずの耳かきはすぐ近くのテーブルの上にあった。

辺りが薄暗いのを感じて外を見ると、真っ赤な夕日が眠りにつこうとしていた。

「よく寝れた? 」

優しく微笑むお姉ちゃんを見て、僕はあのまま寝てしまった事に気付く。

壁にかかっている時計は午後4時を回っていた。

「ごめん! 重かったよね! 」

僕はお姉ちゃんの横で頭を下げる。申し訳ない気持ちで一杯になっていると、僕の頭に重い感触を感じた。

顔を上げると、お姉ちゃんは満面の笑みを見せた。

「いいの!お姉ちゃんって言うのはこれくらい喜んでやるものです。 それにお姉さんは優くんの寝顔をいーっぱい見れて嬉しかったから。」

そう言うと、お姉ちゃんは僕の髪をわしゃわしゃした。僕よりも大きいその手は凄く心地よくて、僕の頭から離れるのが少しだけ名残惜しい様に思えた。

「今日は勉強出来なかったから、明日は頑張ろうね。」

荷物を持って立ち上がると、お姉ちゃんは僕の部屋のドアノブに手をかけた。

なんて言って別れたらいいのか分からずにお姉ちゃんの後ろ姿を見ていると、くるりとお姉ちゃんが振り返る。

「優くん、また明日ね! 」

お姉ちゃんの春の様な笑顔が窓から差し込む夕日で赤く染まる。

当たり前の言葉かも知れないけど、今日だけはその言葉が嬉しくてたまらなかった

「うん、また明日。お姉ちゃん。」

まさか今日一日で『お姉ちゃん』という言葉に抵抗がなくなってしまうとは。正直自分でもびっくりだ。

そしてそれと同時に「まあ、お姉ちゃんってのも悪くないかも」なんて思ってしまったことは、自分の中に閉まって置くことにした。


明日は何をやるんだろうなんて、未来の事を考えながら寝るのはいつぶりだろう。

ああ、多分母さんが死ぬ前はこんな感覚が当たり前だったんだな。

そんな昔を思い出しながら、僕は深い深い夢の中へと落ちていった。

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