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第四十話 ルボーア会戦(10)

「陛下! 例の傭兵が本艦に着艦を求めています!」


「なんだと!?」


 管制オペレーターの報告に、アリーシャは思わず司令席から立ち上がった。記憶が確かなら、彼はさきほどまで皇国主力艦隊から遠く離れた戦域で戦っていたはずだ。それがどうしてこんなところに居るのか。


「敵艦隊、なおも接近中です。会敵まで推定十分!」


「……なんというタイミングだ、これが歴戦の傭兵の勘というものか。いいだろう、許可せよ」


 敵の本命らしき部隊を確認したのが、ほんの数分前の話だ。増援にはとても間に合わないと考えていた。


「了解しました」


 オペレーターが着艦許可が出たことを伝えると、輝星は艦の後部から接近し着艦デッキに降り立つ。


「あのライドブースター、帝国のじゃない?」


「奪ってきたのか……」


 甲板のクルーたちが口々にそんなことを言うが、輝星はコックピットからでもせず再度オペレーターに通信をつないだ。敵がすぐそこにいるのだ。機体から降りてゆっくりしている暇などない。


「弾薬の補充をお願いします。ブラスターのマガジンだけで大丈夫なので、ありったけ欲しい」


「わかりました、すぐにもってこさせます」


 オペレーターもすぐに頷く。このギリギリの状況での着艦など、補給目的以外考えられない。物資は着艦要請の時点で手配していた。


「それと、そちらの指揮官の方につないでいただけませんか? 相談しておきたいことがあります」


「えっ!? ……少々お待ちください」


 戦果を挙げているとはいえ、一パイロットが総司令に突然面会を求めるというのはなかなかあることではない。慌ててオペレーターが通信を切り、アリーシャに聞く。


「北斗輝星が陛下に話したいことがあると申しておりますが……いかがいたしましょう」


「かまわん、繋げ」


 もとより勝ち目の薄い戦いであり、希望があるとすればこの男だけだ、アリーシャは悩みもせずに即答した。


「かしこまりました」


 オペレーターが端末を操作する。"カリバーン・リヴァイブ"は着艦状態のため、レーザー通信で映像付きの通話が可能だ。アリーシャの手元のモニターに輝星の顔が映る。


「あ、どうも。いきなりで申し訳ありません」


「緊急時だ。早く要件を申せ」


 冷たく返すアリーシャだが、その実彼の予想以上の容姿に面食らっていた。心臓に悪い顔だと、内心独りごちる。


「話が早くて助かります。今接近してきてる相手の大物、アレの対処なんですが」


「ああ。何か手を考えているのか?」


 そうであってくれ、というのがアリーシャの本心だった。ここでさっさと逃げた方がいいだなどと言われでもしたら完全に打つ手がなくなる。

 本来ならば、敵の主力はストライカーやミサイル艇で十分なダメージを与えてから交戦を開始する算段だったのだ。しかし、その目論見はもろくも崩れ去った。効果的な奇襲、部隊の集中運用、そしてゼニス等の有力な部隊を無力化する戦術……。今のところ、皇国の作戦は何一つうまくいっていない。


「なんといっても、時間がないですから……あまり大きなことはできません」


「だろうな」


 アリーシャが唸った。


「とりあえず、自分が敵艦隊に突っ込んでかく乱しつつ観測状況をこちらに送ります」


「しかし少数で艦隊に攻撃を仕掛けたところで大したことは……ん? そう言えば、貴様は我が娘の部隊に居たはず。シュレーアはどうしたのだ」


「陛下、シュレーア殿下は現在敵の妨害にあい……我が艦隊と合流できたのは彼だけのようです」


 その問いに答えたのは輝星ではなくオペレーターだった。輝星はライドブースターを奪い全力加速で振り切ったため突破できたのだが、シュレーアたちは帝国近衛隊によって足止めされていた。練度も装備も極めて高い帝国トップクラスの部隊なのだ。ゼニスに乗っているとはいえ、振り切るのはなかなかに難しい。


「今は自分だけでなんとかするしかありません、出来ることをやります」


「……ああ、頼んだ」


 アリーシャとしてはそう返すしかない。手元にない戦力のことを考えても仕方ないのだ。


「ああ、それと二つほどお願いがあるのですが……」


 輝星の言葉に、アリーシャは頷いてみせた。ここまでくれば、出来ることは何でもやるつもりだ。


「観測ついでにこちらから狙いやすそうな相手の艦を見繕って誘導します。その艦を全艦で集中攻撃してください」


「なるほど、わかった。部下にも通達しておく」


 不利な戦闘は避けられない。旗艦も無事では済まない可能性が高いのだ。万一の時に指揮系統が乱れて攻撃の統制が取れなくなるくらいなら、最初から攻撃の指示を委任したほうがマシだ。

 もっとも、それより先に輝星が撃墜されるかもしれない。もの言いたげに参謀がアリーシャを見たが、彼女は無言でそれを制止する。まともにやっても勝ち目がないのだから、博打でもなんでも乗るほかない。


「二つといったか。もう一つは何だ」


「艦隊戦時の戦法です。皇国艦隊には、出来るだけ距離をとって戦ってほしいんです」


「なんだと?」


 眉を顰めるアリーシャ。帝国戦艦はセンサー性能も砲口径も皇国戦艦を上回っている。普通に考えれば、距離を取った方が不利になるはずなのだが……。


「そっちの方が有利なんです。そうなるように動きますから」


「……いいだろう」


 しばし考えてから、アリーシャは同意した。この男を信じると決めた以上、奇妙な要求だろうと従うべきだと考えたのだ。これで実は輝星が帝国側のスパイだったら、自分たちは終わりだなとアリーシャは苦い笑みを浮かべる。


「何から何まで口をはさんですみません。そろそろ、自分は行きます。間に合わなくなる」


「ああ、任せたぞ」


 通信を切って、アリーシャはため息を吐く。接敵が近いことを知らせるオペレーターの報告を聞きつつ、敵の向かってくる方角へと真っすぐに進む白い機体を見送る。


「"凶星"か。願わくば、敵にとっての死兆星であってほしいところだが……さて」

 

 決戦は近い。アリーシャは目を閉じ、祈るように手を合わせた。

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