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第二百七十話 惨禍の後

 重力の比較的弱い惑星ガレアeとはいえ、直系数キロメートルを超える小惑星サイズの岩塊が落下したりすれば当然破滅的な大破壊が起きる。輝星らは安全を確保するため、かなり離れた場所まで退避していたのだが、それでも大気を揺らす衝撃波と吹き上がる粉塵ははっきりと目視することが出来た。


「う、うわあ……な、なにあれ……」


 薄い大気を通してなお、聞こえてくる音はまるでこの世の終わりのようにおどろおどろしかった。氷山は蒸発し、大気は荒れ狂う。まさに天変地異だ。ここからでは伺えないが、爆心地はいったいどうなっているやら……想像したくもなかった。


「こ、これ、もしかして、作戦のうち?」


 こんなことになるなど、輝星はまったく聞かされていなかった。突如撤退命令が出たものだからひどく困惑したが、たしかに小惑星(衛星だが)が落ちてくるとなれば、早急に距離を取らねば大変なことになる。


「うむ……これだけの戦力差をひっくり返そうと思えば、こう言う手しか思いつかなかったのだ」


 さすがにかなりバツの悪そうな表情で、ディアローズが答えた。煮え切らない声音だが、致し方のないことだろう。峡谷の爆破により、敵艦隊の大半は身動きが取れない状態になっていたはずだ。その真上に巨大隕石が落ちて来た訳だから、敵兵の大半は遺体も残らず消し飛んでいる可能性が高い。

 彼女が無理を言って"エクス=カリバーン"のコントロールを要求したのも、こういう事情だ。輝星にI-conが接続されたままこれほどの大量死が発生すれば、彼の精神にどれほどの悪影響があるかわかったものではない。最悪廃人になりかねない。


「……そ、そうだね」


 輝星は額を押さえた。文句を言いたい気分は、正直ある。正面から戦いもせず、大量破壊兵器で一方的にまとめて殺すなど、彼の美学からはあまりにかけ離れていた。

 しかし、では代案はあるのかと聞かれれば、輝星は黙るほかない。敵の戦力はあまりにも大きく、輝星一人がどれだけ頑張ろうが、戦況をひっくり返せるとは思い難い。むざむざ負けるくらいなら手荒な作戦を取ってでも勝利を目指す……という方針は、決して間違っているとは思えなかった。だから、彼としても「なぜこんなことを舌?」とはとても言えない。


「……」


「……」


 とはいえ、コックピット内に気まずい空気が流れるのは止めようがなかった。何しろ、コトがコトだ。惑星ガレアeの大気はいまだに荒れ狂い続けており、隕石落としによる惨禍がどれほどひどいものなのかを物語っていた。ただでさえ薄暗い空が妙に曇ってきているのも、捲き上げられた粉塵が恒星の光を遮り始めているからだろう。


「……まだ、すぐには偵察を飛ばせそうにないね。たぶん、撃ち漏らしは少なからずいそうなものだけど……」


 しばし経って、輝星は聞いた。その目はサブモニターに表示されたレーダー画面に向けられている。当然のことながら、ひどい電波障害のためレーダー・スコープはノイズまみれになっていた。敵の様子を探るには目視に頼るほかないが、この状況で爆心地にストライカーや艦艇を突っ込ませるのは非常に危険だろう。


「うむ……敵がガレアe-1の落下開始を確認してから、落着するまでにはそれなりに時間があったはずだ。動ける部隊は全力で退避したであろうな。問題は、逃げた部隊の中に皇帝が混ざっていたか、だが」


 沈みそうになる気分をなんとか振り払いつつ、ディアローズは努めて普段通りの声音で答えた。自分の考えた作戦ではあるが、後悔が無いわけではない。


「シュレーア、貴様はどう見る?」


 すぐそばにいる"ミストルティン"の肩に手を置きながら、ディアローズは聞く。彼女らは今、強化コンクリート製の半露天式シェルターに隠れていた。隕石攻撃については防衛作戦の立案時から織り込み済みなので、惑星ガレアeの地表にはこうした退避シェルターが多数構築されていた。他のストライカーや艦艇も、同じようなシェルターに隠れているはずだ。


「正直、情報が少なすぎてまったく予想はつきませんが……こういった場合は、最悪の状況を想定しておいた方が良いでしょう。皇帝は生きていて、敵の艦隊は少なからず残存している。そういう事にしておきましょう」


 慎重に言葉を選びながら、シュレーアは言う。敵の被害が思ったより少なく、不用意な攻撃をしかけて逆襲されてしまう……などという事態を招くわけにはいかないのだ。状況の最終局面だからこそ、慎重に立ち回る必要がある。


「そうだな。とにかく、情報を集めるべきだ。ここで皇帝を取り逃してしまうのは、片手落ちも甚だしい。勝負はここでつけねばならん」


「ええ。嵐が弱まり次第、偵察機を飛ばしましょう。こう粉塵が舞っていては、レーザー通信も通じづらいでしょうが……なんとか偵察網を再建して、敵残存部隊の数と位置を掴む必要があります」


「うむ、頼んだ」


 そう言ってから、ディアローズは天を仰いで目を閉じた。


「……はあ、もう休みたい気分になって来たが……まだそういう訳にはいかぬだろうな」

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