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第二百五十六話 再突入(3)

 精強な近衛隊に対し、ディアローズら必死の迎撃を続ける。"レニオン"系列の機体に性能面で対抗できるのは"エクス=カリバーン"等のゼニス・タイプのみだが、"クレイモア"や"ジェッタ"といった量産機も、戦艦部隊からの援護射撃を受けることでなんとか"レニオン"に食らいついていた。


「機体が……重い!」


 対地高度計は、すさまじい速度で数字を減少させている。断熱圧縮により赤熱した大気が、機体表面に薄くまとわりついていた。さしものストライカーも、このような環境では自由自在に動くことはできない。無理な改造機ゆえに機体バランスの悪い"エクス=カリバーン"なら、なおさらだ。


「無理はしてはいけないよ。キミが死んだところで自業自得だが、我が愛を道連れにされてはたまったものではないからね」


 皮肉げな口調で、ヴァレンティナが釘をさす。彼女がやりたくもない猟犬役をこなしているのも、輝星に危険が及ばないようにするためだ。"エクス=カリバーン"には、できるだけ後方に居てもらった方がいい。


「うむ、無論だ。床に頭を擦りつけてまで永らえた命だ。死にたくないという気持ちは人一倍あるから、安心せよ」


「ふん、だろうね? はは、あの無様な姿は痛快だったさ!」


 暗い笑みを頬に張り付けつつ、ヴァレンティナはスラスターを焚いた。大気層の暴風をかき分けつつ、突撃槍(ランス)の穂先が"レニオン"に迫る。


「ぐっ!」


 "コールブランド"とて一応はゼニスだ。その一撃は、かなり鋭い。"レニオン"は回避するだけで精いっぱいだったが、避けた先にすかさずディアローズがロングブラスターライフルを撃ち込んだ。通常型のライフルより方針が長いだけあって、その一撃は近衛機の重装甲を抜くにも十分な貫通力がある。


「……」


 命中したのはコックピットだ。当然、パイロットは即死である。とはいえ、普段のようにエンジンを狙ったところで、今の状況では結局地表に叩きつけられてパイロットは死ぬことになる。致し方のない処置だ。

 I-conをカットしているため、普段のように死のフィードバックが輝星の脳を襲うことはない。とはいえ、あまり気分の良いものではないため、彼は口をへの字にした。


「すまぬな。(わらわ)にご主人様ほどの腕があれば、同じように戦えるのだが」


「いや、わかってる。ディアローズのやり方で戦ってくれ、俺の趣味に付き合う必要はない」


 戦場においてはメリットよりデメリットの方が大きいのが不殺という心情である。他人にそれを押し付けるべきではない、というのが輝星の信念だった。敵兵より自分や味方の命を優先するのは、兵士として当然のことだというのは心得ている。


「まだ抜けないのかっ! このボンクラどもめ!」


 とはいえ、感傷に浸っている余裕はない。皇国ストライカー部隊の突破が遅々として進まないことに業を煮やした近衛側の指揮官が、前に出てくる。漆塗りを思わせる艶めいた黒塗装は一般機と同じだが、鍛え上げた闘士のようにマッシヴな体形の機体だった。


「"ゲッツ"だね。近衛隊長のゼニスだ、手強いぞ」


 ヴァレンティナの端的な説明を聞きつつ、ディアローズはふむと小さく頷いた。"ゲッツ"と呼ばれた漆黒のゼニスは、バカでかいメイスを構えながらこちらに猛スピードで接近してきている。

 近衛隊長ほどともなれば乗機は皇族専用機に準じたスペックだし、腕前の方も四天に迫るほどのものがある。正面から当たれば、かなり厄介だろう。一機ならば三機で囲めば勝てるかもしれないが、周囲には"レニオン"が布陣しているし、後方にはブラスターカノンを構えた"レニオン・ボーゲン"が虎視眈々とこちらを狙っている。極めて不利な状況というほかなかった。


「こういう時は……数と質で対抗する! 聞こえるか四天ども! ご主人様の危機だぞ!」


 機体を後退させつつ、ディアローズは無線に向かって大声で叫んだ。慌てたような声がいくつも返ってくる。


「うわわわわっ!? 今行きますわ!」


「んもー、面倒デスね!」


「拙者がいる限りそうはさせない! 任せてもらおう!」


 たちまち、泡を食った様子で少し離れた場所で戦っていたエレノール、ノラ、テルシスの四名が近衛隊長の前に立ちふさがった。


「騎士気取りはまだまだいるからな、楽でいい。くくくくく」


 四天に次ぐ実力を持っているのなら、当の四天に対応させればいい。簡単な結論だった。意地悪そうな笑みを浮かべつつ、ディアローズはテルシスらが抜けた穴を補うべく、先ほどまで彼女らが戦っていた"レニオン"群にライフルを撃ち込む。


「おのれ四天! 裏切ったというのは本当だったか! 何を血迷ったか知らんが、貴様らはここで粉砕する!」


 役職が役職だけに、近衛隊長は四天に対しても怯むことはなかった。むしろ奮起した様子で大型メイスを振り上げ、肉薄する"ヴァーンウルフ"へと襲い掛かった。


「はン、脳筋め! さっさと叩き潰すデスよ!」


「無論だ! そしてそれは、拙者だけで十分! 一騎討ちを申し込もう!」


「テルシス様! こんな時にわざわざ一騎討ちを申し込まないでくださいまし!!」


 いきなり目論見が崩れてしまったディアローズは、ガックリきた様子で大きなため息を吐いた。


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