試験・・・?1
はい、サクッと行きたいです。
「ハルト君おめでとう!Cランクの受験資格が得られたわ」
「ほんとですかステラさん?!」
「えぇ、ちゃんと真面目に依頼を受けてくれてたもの。当然よ」
「おぉ…」
「まぁ正直、ソロ活動とはいえハルト君ならもっと早く受験資格が得られてたはずなんだけど…。うん、まぁ無謀よりは慎重な方が良いものね。うふふ、そういうことにしておくわね」
「あはははは…」
ステラさんがジト目でにっこり笑うという器用な真似をしてきたので視線を合わせないよう遠くを見つめる。ステラさんは優しいなー。
実際、冒険者の多くは俺が俺が精神が強い為、大抵、Dランクの依頼をある程度達成できるとCランクの依頼を受ける人が多く、ギルドの受付では、いかにそんな無謀な連中を適正レベルへ誘導するかに重きを置くのだが、俺の場合は逆だった。
俺は<命大事に>を合言葉に、慎重に慎重を重ねて、石橋を石橋で叩く前に叩く方の石橋を叩いて渡るレベルでひたすらDランクの依頼だけを受けていた。自分でも何言ってるか分からないが、そんな俺のチキン過ぎる所業に業を煮や…見かねた受付のお姉さん、ステラさんに「本当にCランクを目指す気があるならCランクの依頼も受けておいた方が良いわよ」などと言葉巧みに誘導され、Cランクの採取依頼、調査依頼、そして討伐依頼を受けた。各1件だけ。マジかこいつみたいな顔をされた気がするが気のせいだと思うことにした。
さりげなく日数がかかる護衛系の依頼だけは避けられていたので、Cランクにならないとだめなのか、試験がそれにあたいするのかもしれない。いやあるはずだ。無きゃおかしい。【おかん】も「匂うわね」と言っていたから多分そう。
そんなギルドからの帰り道、相手が何考えてるか分かればいいのに、とかぼんやり思っていたせいか、異性(男)の嘘に勘づく(ただし同性(女)に対しては半々の確率)<女の勘>と、子供の嘘に勘づくという<母の勘>を同時に得た。取得タイミングに悪意を感じた。
しかも異性と同性に対する認識が才能を持つ俺では無く、【おかん】の方にかかっていた事実に微妙な気分になった。
ついでに子供の範囲がその日の主担当である【おかん】の認識に寄るし、おっさんが話す過去の武勇伝が全くの嘘だということが発覚したのはいいが、おっさんの話の途中途中で嘘が露見するためにただの野次と化していて全く話に集中できなかった過去がある。
「試験は来週よ。これに色々書いてあるけど、寝る前に見るのがおすすめね。ちなみに個人への指名依頼の扱いだから、取り扱いには注意してね」
個人への指名依頼扱いってことは、たとえパーティーメンバーであっても中身を誰かに喋っちゃいけないし、失くしてもいけない、と。なんか既にCランクにでもなったような扱いにちょっとワクワクした。
意味深に二つ折りにされた依頼書を受け取りつつ一応いつものやり取りをする。
「わかりました。あ、わかんないとこあったら聞きに来ても良いですか?」
「えぇ、答えられる範囲ならね」
「え…ありがとう、ございます…」
含みのある笑顔でふわっとした回答をステラさんから頂戴し、怪しさ満点の依頼書を落とさないようしっかり持って、ギルドに併設された酒場に向かうと早速【おかん】たちが騒ぎ出した。
――頼む。頼むから落ち着いてくれ。席に座るまで待ってくれ。
姦しい【おかん】たちを窘めつつ食事を頼み、酒場の隅っこで周りに見えないよう慎重に依頼書を開く。
「・・・・・」
左側に書かれていた内容を見て言葉をなくす。
―――◇―――◇―――
Cランク試験の概要
開始時間:9時
試験会場:冒険者ギルド2F
終了時間:当日
―――◇―――◇―――
気を取り直して右を見て、やっぱり言葉をなくす。
―――◇―――◇―――
は
ず
れ
る
―――◇―――◇―――
「・・・・・」
俺はそっと依頼書を閉じてポケットにしまった。
丁度運ばれてきた飲み物を一気に煽りすぐにお代わり。
いつもより多めに酒を飲んで家路(宿)についた。
◆
試験当日。
俺は8時にギルドへ到着した。
受付に声をかけ、依頼書を返却すると試験会場の2階へ向かう。
あの悪質な依頼書の謎に何人気づけたんだろう、とちょっと余裕をかましながら試験会場に入ると、部屋には既に3人の男女が席に着いていた。
一人は頭の良さそうな魔法使いの男性。一人は真面目な印象の剣士の男性。一人は好奇心が強そうな斥候っぽい女性。
チラリと視線をよこされつつも、依頼書に書いてあった通り声を出すことなく、俺も指定された席に座って、残り僅かな時間を静かに待つことにした。
さて、あのぱっと見、人を完全におちょくっているようにしか見えない依頼書。
実は月の光で照らすことによって文字が浮かび上がる仕様になっていたのだ。意味が分からない。
あの日、やるせなさに包まれふて寝しようとベッドで寝っ転がっていたら、おかんの一人に、「改めて依頼書を見てみない?」と優しく声をかけられて気づけた。
あの時の衝撃は忘れられない。
ベッドに寝っ転がりながら依頼書を開くと、窓から差し込む月明かりで白紙だった場所がぼんやりと光ったのだ。やがて光が消えると、空白だった箇所、左側には当日の座席、右側には文章が現れていた。
―――◇―――◇―――
Cランク試験の概要
開始時間:9時
試験会場:冒険者ギルド2F
終了時間:当日案内
□ □ □ □入口
□ □ □ □
□ □ □ □
ココ■ □ □ □
―――◇―――◇―――
―――◇―――◇―――
当日は遅くとも開始時刻
45分前に は集合。
目に見えるものだけが
真実に非 ず。
慢心することなく励む
自らを誇 れ。
当日は私語厳禁。
検討を祈 る。
―――◇―――◇―――
「いやわかるか!!!!」
月明かりに照らされた文字に思わず突っ込む。依頼書を握りつぶさなかった俺を褒めて欲しい。
安宿だったが隣人はいなかったため事なきを得たが、俺たちはキレて良い。筈だ。
いや確かに受付の話はしっかり聞けよと、依頼書はよく読めよと、新人時代に耳にタコができるほど言われてきたが、ふるい落とすにしても酷くないか。
これ気づける奴本当に居るの?
月明かりで照らすとか、窓のない部屋だったら完全にアウトだ。
おかんが居なければ俺は遅刻していたわけで…それで試験に落ちていたかもしれないわけで…。
おかんに、なんで気づいたのか聞いてみると、「ほら、ステラちゃんがおすすめは寝る前って言ってたでしょう?」と。いつの間にそんな娘の言葉は何でも信じちゃう子煩悩母さんみたいな感じになったのかはさておき、確かにわざわざそう言ってたな、と思い返す。
いや、確かに受付の話はしっかり聞いておかないと危ないな、と改めて思いはしたが、なんで試験前にこんなトンチみたいなことするんだと遠い目になる。とりあえず問題は解決したし、明日からはCランク冒険者にさりげなく質問して情報を集め、試験の傾向を分析でもしようかと結局早めに寝ることにした。
早速、翌日から情報収集を行い、時折、面白がったCランク冒険者たちに嘘情報(【おかん】で見破れたため事なきを得た)を掴まされながらも、おそらく護衛任務になるだろうと当たりを付けて必要そうな道具を揃え、今日を迎えた。
試験開始時刻になり、今現在で座席は半分ほどが埋まっている。数人、入口と時間を見ながらハラハラしている子も居るが、例え仲間内だろうと喋れないので諦めるよりほかないだろう。ちょっと可哀そうではあるが。
そうこうしているうちに、ガタイの良い壮年の男性が入ってくると部屋を見渡し口端を上げ、よく通る声で告げた。
「さて、しっかりと受付で話を聞き、素直に他者の忠言に耳を貸し、かつ用紙に隠された謎に気づくことができたここに居る諸君。他言無用の条件を破った者も居ないようで安心した。まずは第一関門突破おめでとう。俺は君たちの試験官のザエルだ。この時間に居ない連中は別の試験を課すことになるから、今ここに居ないからと即不合格になる訳ではないから心配しなくていい。さて、場所を移すからついてこい」
試験官はそれだけを一息に言うとさっさと部屋を出て行った。
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【貨幣について】価値や物価はご想像にお任せします。
銅貨:1000枚 = 大銅貨:100枚 = 銀貨:10枚 = 大銀貨:1枚
他に小金貨、金貨、大金貨、白金貨がある予定。