あれからふふ年
説明回?に分類される、かもしれない。
ちょっと長め
12歳になると授けられる【才能】。
その能力はまさに十人十色。
みんな違ってみんな良い。
何故なら、どんな【才能】にも、素晴らしい能力が秘められているのだから。
たとえ、人には理解されがたい【才能】であっても―――――
さて、新しい【おかん】の才能を習得する度に振り回されつつ、結構しんどい日々を送った所(主に突っ込み疲れ)、あらかた才能が出尽くしてからはかなり便利な、というか規格外な才能だということが分かった。
家事も育児も【おかん】があれば瞬時に片付く。時々チビ達が「さぼるな」とか「ズルるすんな」とか言って突撃してきたがまぁそれは可愛いものだ。
時間に余裕ができるからこそ、チビたちのわがままや子供特有の構って攻撃にも大人な対応ができて、笑顔が増えたし、内職に充てられる時間が増えたり、俺の冒険者としての活動時間も増えたりと良いこと尽くめだった。
最初は取得の度に翻弄されたが、そのうち便利さに感動し、家事育児の時間が短縮されることに喜び、レベルを上げるためにもと使いまくっていたが、しばらくして慣れて来ると、俺が居なくなったらどうするんだ?と我に返った。
色々悩んでいると【おかん】からの助言が降ってきたり日記の端々にこういうのが欲しいみたいな要望が書かれていたので、試行錯誤していった結果、苦節2年で、孤児院内でしか使えないが便利グッズというか多分魔道具に分類される何かが作れてしまった。
その名も、<おかん魔法><母さんが夜なべした>
相変わらず意味の分からない魔法名な上に、俺の感情が駄々洩れな呪文名になってしまったが、中々に凄い才能なのだ。
簡単に言えば付与魔法。使用する道具に使いたいおかん魔法を付与できるという中々にやばい(いい意味で)魔法だ。普通に付与魔法とつけて欲しかった。
しかし、俺が「身内」と認識した相手にしか使えない。
しかも何故かはわからないがチャイルドロック機能付き。おかん曰く、【小さい子供の事故防止】とのこと。一定の年齢および悪戯好きなチビには使えないという素敵仕様。素晴らしいのでそのままにしてある。変え方も分からんし。
奴らは本当に何をしでかすかわからない。ちょっと目を離しただけで、よく入れたな、という程の狭い隙間から抜けられずぎゃん泣きしたり、道具の間違った使い方の包囲網をどう掻い潜ったのか謎の怪我をしてぎゃん泣きしてたり、何をどう思いついたのか知らんがよくわからん転び方をしてぎゃん泣きしたりと、とにかくある種理不尽の塊だからだ。
まぁ何はともあれ、俺の才能を付与しまくった便利グッズの数々は、孤児院のみんなにしか使えない。しかも持ち出すと付与魔法が解けるという謎仕様。
何がどうなってそうなったかは知らないが、【家を守るのはおかんの仕事よ!!】とか【家こそおかんの絶対領域】という謎の助言っていうか割と普通に会話に参加し出すからやめて欲しい。があったのでもう気にしないことにした。
そして、12歳から登録できる冒険者ギルドでの活動中も【おかん】は大活躍だった。
登録当初、無料で受けられるギルドの講習に参加した際、まずは採取品の見分けということで色んな薬草とかを見せられたところで俺の【おかん】が猛威を振るう。
特に怪我や病気に効く薬草類や食べられるもに関しての知識量がえげつなかった。<説明書>や<家庭の医学>他にも<家庭菜園>関連の才能<目利き>がガンガン出しゃばり、更にそれらを勝手に<日記帳>に書き留め、いつでも見直せるというか、しっかり覚えて無いと自動で該当ページを開き出す<受験ママ>という荒業が繰り出されたのだ。
正直おかんの育児日記とか愚痴が合間にあって見づらいことこの上無かったが、イラスト付きで大変わかりやすい。たまに色しか合ってないイラストを描くおかんも居たが、何回も「いやわかんねぇよ!」と心の中で突っ込んでいたところで、こと<日記帳>にイラストを描く際の担当おかんが決まって…いや滅茶苦茶絵がうまいおかんなのは別に良いんだけど、毒草の隣に我が子の絵を描くのは感心しない。子供は可愛かったけど隣に真っ黒に塗りつぶされた旦那らしき男の顔がより恐怖を煽った。
魔物の解体に関しても<調理>関係の才能が大活躍。
熟練の狩人が獲物を捌くがごとく、どんな魔物もスパスパと切り分け、おまけに普段は捨てられているという部位も珍味として食べられる的なおかんの助言が入り、うっかり才能<もったいない>が開花。
一人パニクる俺に、可哀相な子を見るような眼差しを向けられたのはいい思い出だ。…いい思い出なんだ。結構美味しかった。
そして戦闘に関しても発揮された。【おかん】ほんとすげぇ
初めての魔物にビビり倒す俺たち新人を微笑ましく見守る大人たちに、どこか恨めし気な視線を送りつつ、同期たちもそれぞれ才能を遺憾なく発揮していた。やっぱり【剣】の才能とか【魔法】の才能とか恰好良かったなぁ…。当時思わず拍手してしまった。
俺はといえば、何故か<調理>関連の才能、”素材を瞬時に〆ることで美味しくいただける”という<活〆>が大活躍。
魔物の急所を的確に、しかもあっさりと付いて仕留める恐ろしい程の手際に戸惑う俺をよそに、いろんな【おかん】からの叱咤激励なのか助言なのかわからない言葉が飛び交う中、他の才能で下手に切り刻まないよう細心の注意を払った。あと変な突っ込みが飛び出さないように。
【大抵のもんはだいたい食べれるのよ!】という鋼鉄の胃袋を持ってそうなおかんから始まり、【よくもうちの子をおおお!!!!】という怨念が籠ったおかんまで。途中で【旦那みたいな顔しやがって!ぶっ殺してやる!!】という好戦的って言っていいのかわからんおかんがいて怖かった。あとゴブリン似らしき旦那の顔が気になった。
魔物への恐怖心よりおかんへの恐怖心を植え付けられつつ魔物を倒し、いろんな意味で疲れきった顔をして戻った俺を、先輩冒険者たちは「初めての魔物討伐で精神がすり減ったのだろう、よく頑張った」と労ってくれた。違う、そうじゃない、と言いたいのを何とか堪えた俺を誰か褒めて欲しい。
講習の終わりに野営の仕方も教わったが、そこはもう俺の独壇場だった。
何なら今までで一番生き生きと【おかん】の才能が振るわれた気がする。
テントの設営から薪拾い、食事作りetc.etc..
純粋に褒めてくれたり、あまりの手際の良さに引いていた参加者たちに「孤児院の生活で慣れてるんで」とお茶を濁したが果たして何人が信じてくれていたのか…。
おまけに見張りの訓練中に<おかん魔法><絶対領域>という、”住処”と認識した場所に結界を張って外敵の侵入を防ぎ住処を快適に保つというやべぇ魔法が習得できた。夜中肌寒かった時にうっかり考えてしまったのがいけないが後の祭りだ。
とにかく成人である15歳になるまでそんな日々を送っていると、俺が器用に何でもこなせるという話が肥大化し、俺の才能がSランク冒険者が持つとされる【冒険王】だという全くのでたらめな噂が飛んだり、それに合わせて一部で「調子に乗っている」なんて噂も飛び交っていたが、どちらにせよ思い当たる節が全く無いので否定したりスルーしていた。
先生は「信じて欲しい人にはしっかり伝えなさい」と言うし、おかんは「何を言ったところで信じようとしないヤツには時間の無駄」とか「礼儀正しくしてればちゃんとした人は見ててくれるわ」的な助言を寄越すのでそれに倣った。それでも理解してくれない人は居たが、いちいち気にしているのもしんどいし、理解してくれる人が増えてからは、もうそういう人たちとはスパッとさようなら(byおかん)と深く考えることは止めた。
そもそもギルド職員には、素材をきれいに持ってくるし問題も起こさないしと好意的な対応をされるし、良識的な冒険者たちとは友好的な付き合いができているため、今後冒険者活動をしていくにあたって特に問題も無かったからというのもある。
さてさて、真面目に活動して、きちんと評価された今、Dランクになっていた俺は、Cランクへの試験資格を獲得すべく積極的に依頼をこなしていた。ちなみにCランクの試験資格を得るには、Dランクの依頼200件(ただしまんべんなく採取・討伐・調査依頼など)を達成するか、Cランクの依頼50件を(同じくまんべんなく)達成することが条件とされているが、無鉄砲な感じの冒険者にはDランクの依頼についてしか説明されないらしい。
そんな訳でありがたいことに万能型な才能を持つ俺は、サクサクと安全にDランクの依頼をこなす日々を送っていた。
え?ほかにどんな才能が習得できたかって?
それは、ほら、お楽しみってやつですよ。
べ、別に考えてないわけじゃないんだからねっ!
お読みいただきありがとうございました。