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銃剣と薙刀 8

 警察署の前では、光沢のあるトンファーを持った年寄りの軍警が、入り口の前を金魚のように口をもぐもぐさせながらうろつく様子が目立った。警察署は老朽化で寂れていて、眼前の軍警と正門横にあるレリーフが無ければ、ただの貸事務所にすら見えた。少なくとも僕には。

 起きる事件なんてせいぜい露出狂か万引きくらいの閑静な土地では、門の前に置物を立たせておくだけでも充分な抑止力となる。だが、それはあくまでボヤ騒ぎの避難訓練がガス爆発などを視野に入れていないように、酔って怒鳴りつける人間をあしらうことには長けていても、凶悪犯罪に対しては全くのズブの素人だということだ。

 とどのつまり……とどのつまり僕達のような。僕は道の隅に寄って尻のポケットにねじ込んだトランシーバーを手に取ると、電源を入れようとアンテナを伸ばしてスイッチに指をかけた。


「おっと」


 だけど、入り口から何故か小学生くらいの少年が出てきたので、仕方なく一旦待つことにした。あんな小さな子が警察署に何の用があったのかよく分からないけど、こうやって子どもがすんなり出てくる辺り、一般の出入りもよくあるのだろう。落とし物とかかな?

 この分だと、来客に対していちいち手荷物検査もしてなさそうだ。私服で来た兄貴の部下達も簡単に爆弾を仕掛けられただろう。きっと待合室の椅子の裏、ビラが入った棚の中、自販機の下のどこかに仕掛けられているであろう爆弾は、僕からの受信を今か今かと待ちわびているところに違いない。

 無事に子どもが離れたことを確認すると、僕は今一度首を左右にひねって辺りを見回した。背広を着た人や買い物袋をぶら下げた女性、口笛を吹いて小走りに後ろを駆けていく男性など、それこそ似通った人間など1人もいない、誰もがみんな違った特性を持ち、違う人生を歩んでいる。

 僕は。そういった何人もの人々の人生を無残にも一瞬で崩壊させることに、何やら酔いに似た快感を感じる狂人だと、自分を思い込ませた。負傷した人間の手足が千切れ、死ねずに半死半生ならなおいい。虐げられた者の語る言葉は何とやらだ。

 再度周囲に首を振り、付近に小さな子どもが誰もいないことを確かめると、僕はトランシーバーのスイッチの上に人差し指を乗せた。

 その時のことだった。小さな破裂音が署内のどこかで鳴り響き、脊髄反射で顔をそちらに向けた瞬間、2階の窓に閃光が走り、火柱が窓ガラスを割って噴き上がったかと思えば、1階でも性別が分からないほど甲高い悲鳴を皮切りに同様のことが起きた。

 ガラスの扉はみな鷹揚に火の粉を交えて弾け飛び、針山となって老いた軍警の全身に突き刺さった。更には爆発で吹っ飛ばされて真横の柱と接吻し、顔を潰されて死ぬ瞬間を見た。老兵の身体を癒やすには針はやや鋭利で太すぎたようだった。他にもガラス片が顔や足に刺さった苦しむ人が辺りに散見できる。


「あ、あれ?おかしいぞ。僕はまだ……うわぁっ!!」


 首謀者のはずの僕は、あまりに唐突な出来事に立ち尽くし、燃え上がる熟れたオレンジのような大火を瞬きもせずに眺めていたが、遅参してやって来た爆風と、巻き上がる砂埃が目に入って視界が効かなくなり、何が何やら僕自身分からないまま空き缶みたいに通ってきた坂道を滑稽に転がっていった。

 僕は昔から身体が硬くてマット運動の後転が出来なかったのだが、今は否が応にも爆風に煽られてそれを軽々こなすことができる。言わずもがな嬉しくも何ともない。


「ぎゅへっ」


 6回以上は転がされただろうか? 早く態勢を立て直そうと、たまたま目に留まった街路樹にさっと腕を伸ばした時、僕は何者かに鈍器で頬を痛烈に殴られた。脳内にも真っ赤な火花が散り、視界が目紛しく紅白に点滅する。


「う……むぅ……」


 自分を殴ったのが他ならぬ己の膝だったことに気づいた時、僕は既にダンゴムシのような情けない姿で気絶していた。


 ******


「よし、無事に爆発したな」


 湧き上がる黒煙を紫煙と重ね合わせて煙草を蒸すジェスタフは、無表情に各地で起こした火災の中でどれが最も壮絶かを品定めのように見比べていた。


「あくまでアイツのトランシーバーには予め起爆の周波数を合わせていただけで、俺達も周波数を合わせれば爆破できます。しかし、お言葉ですが、アリーフって妙なところで半端モンですよね」


「ああ……俺も早く男になってほしいと思ってるよ。しかし、俺とあのハゲにはイマイチという言葉の意味が異なるらしいな。こりゃアリーフが暴れたら死人3桁行くぞ」


 彼はこちらに漂ってきた焦げ臭さに物珍しそうに鼻腔をひくつかせると、靴の爪先を地面に叩いて踵を返した。


「まぁいい、アリーフがチンタラやってて少し遅れは出たが、誤差の範囲に入る。さっさと急襲して終わらせるぞ」


「はい」


 そうして4人組は灰色のカンバスに塗りたくられた朱の空を背に、腰や脇から物騒な武具の音を立てて駆け出していった。

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